第11話 『登録と依頼!』
昼間はそこまで気にしていなかったが、改めて酒場の中見ると、椅子やテーブルが酒場内のライトに照らされ、新品のように輝いていたり、観葉植物を鉢で育てていたりなど、内装はきちんとしてるし、それに割と広い。
そして、全然気づかなかったが、扉の横には壁に取り付けられた、電子掲示板の様なものがある。
おそらくあれが、冒険者ギルドや、町の人からの依頼などが表示される、依頼掲示板的な感じのものだろう。
そうだ。サラッと頭に出てきたが、冒険者ギルドってこの世界にあるのか?
町を見回した感じ、武器や防具や道具などを売っている店、多くの人がひしめき合っている市場や、赤レンガで建築された同じ様な家などが、ずらりと道の横に並んでいたりなど、その様なものばかりで、冒険者ギルドの様なものは一切無かった。
「ガイルさん。質問があるんですけど、冒険者にならないと依頼を受ける事ができない的な事を、町の人から聞いた事が聞いたんですけど、冒険者ってどうやってなるんです?」
ガイルさんは真顔でこちらをじーっと見て静止している。
な、なんかまずいこと言ったのか?
そして、真顔のまま静かに自分の顔を指差す。
・・・ん?要するに・・・
「冒険者登録は、各々の酒場のマスターが行う事になっている。こっちに来てみろ。」
そうだったのか!
「は、はい!」
なんだろうこの威圧感は。
190cmくらいだろうか。俺より20cmほど背が高く、上から見下ろされるため、さらに謎の威圧感が増す。
せめてもう少し愛想をよくしてくれないか。
「ブックを出してみろ。」
指示された通り、ガイルさんの手前のカウンターにブックを出す。
すると、俺が見た事もない、ブックの冒険者登録アイコンというものを開き、指紋認証で指を押し当てると、冒険者登録の画面が目の前に大きく表示された。
「ここに自分の情報、まあ少しだけだが、名前と年齢を入れるんだ。そうすれば冒険者として登録される。メルとなつめもこっちにこい。同じ様にする。」
まだバイト中なのにいいのか?
でも、今日は客があまり来ていないみたいだ。
・・・数人?結構広いのに奥のテーブル一つのしか使われていない。
酒場ってこんなもんなのか?
俺たちはガイルさんに言われた通り、自分の名前と年齢を入力する。
なつめは16歳。メルは・・・84歳!?
「お、おい。メルって歳どうなってんだ?本当にそれで合ってるのか?どこかに頭ぶつけて頭おかしくなったのか!?」
「え?これ普通じゃないの?」
当然の様な顔で言ってくる。
俺たちは普通じゃない。ん?違う。俺らが普通なんだよ。これはメルがおかしい。
「だって・・・ガイルさんって歳いくつですか?」
あのガイルさんですら目を丸くしている。
「・・・43だ。」
「ほら!こっちが普通なんだよ!」
必死にメルを説得してみる。
しかしメルは驚いているのか、目を点にして、こちらの話を聞いている様で聞いていない。
「メル、まさかお前・・・」
と、ガイルさんがメルの方を見て真剣な眼差しで話しかける。
メルは魂が戻ってきたかのように、いきなり動きだし、慌ててカウンターに乗り上げガイルさんの口を両手で塞ぎ、
「それは言っちゃダメです!」
とガイルさんに向かい小さな声で囁く。
一体どんな秘密があるのやら。というか秘密だらけだ。
そして、ガイルさんは咳払いをし、
「ま、まあとりあえず、これで冒険者登録は完了だ。依頼も受けられるようになるだろう。」
と言って、メルとなつめにキッチンに戻れと指示を出したが、
俺となつめは、メルが一息ついて、戻って行ったのをただ呆然と見ていた。
その後、俺は電子掲示板の前に行き、依頼を見てみたが、一つだけしかなかった。
「これは・・・」
『北の山から流れるコルク川の下流周辺に、デンジャラスエッグが大量に出て来て、元気な子供達が遊びに行けない!
冒険者さん討伐お願いします!
お金あんまり無いんで報酬は3000くらいで!』
男性からの依頼みたいだ。
名前からして非常に死ぬ確率が高そうな魔物。
いや確実に死にそう。
というか命がけかもしれないのに3000ギフだけかよ。
「ウサギ。このデンジャラスエッグってどんな魔物だ?」
ウサギに話しかけると、疲れているのか、ぐたっとポーチから出てきて、気怠けだるそうに話す。
「あ、ウサギじゃなくてセナって呼んで。その方がなんかしっくりくるから。」
表情は分からないが、手を下にぶらぶらさせていて、怠そうにしているのは仕草でわかる。
「わ、わかったよ。」
ちょっと申し訳なさそうに答えると、
「デンジャラスエッグは魔物じゃなくて、正式には花。まあ危ないのに変わりはないよ。触れたら爆発するし。」
何の変哲もないように普通にいってくれるが、俺は恐怖心でいっぱいだ。
「お、おい、それ相当危ないんじゃ・・・絶対死ぬよな?」
恐る恐る聞いてみる。
「ま、死ぬんじゃない?」
なぜそんな普通に応えることができるんだ。
セナは普通じゃないかもしれないが俺は普通の人間なんだよ。
「そ、それどうやって取るんだ?」
またまた恐る恐る聞いてみると、
「花は、人間の手が触れたら爆発するの。・・・わかった?」
そうか。要するに、
「セナに摘ませれば良いってことか。」
ウサギは浮いたまま、ぼーっとしたまま動かなくなってしまった。
あれ?俺おかしいこと言ったか?
すると、カウンターの方からガイルさんがこちらにやってきて、
「・・・セナか。懐かしい響きだ。」
昔を思い出したのか、ただでさえ細い目を瞑って、思い出に浸っている。
そういやセナのこと言うの忘れてた。
大丈夫か?これ。
するとセナは驚き、俺の背中に慌てて隠れる。
そうか、そういや勇者四人に精神攻撃されたって言ってたな。トラウマがこんなに酷いのか・・・
「セナ、もう昔みたいな事はやらないから安心しろ。チキンのお前には悪い事をした。すまなかったな。」
と、頭を下げた。
・・・いやチキンというその言葉も、十分な精神攻撃だろう。話が矛盾しているぞ。
するとセナはそーっと背中から出てくる。
「とはいえ、お前のタレントには苦戦したよ。何せ『人間の攻撃だけを全て弾き返していたからな』。」
昔は人間の攻撃を弾き返していたのか。あれ?でもあの時、フィレスの攻撃を弾き返していたって事は、今は魔物の攻撃を弾き返すのか?
「・・・今は違うけどね。魔王の幹部辞めてから、魔物の攻撃だけを弾き返すようになっちゃったし。」
と、セナが言うと、
「そうか・・・」
ガイルさんがそう言い、一瞬ニヤッとしたと思ったら、長い耳のをガシッと掴み、掲げた。
セナはもがいて手から離れようとしたが、力が物凄いのだろうか。全然離れる事ができなさそうだ。
「おー、ほんとだ!弾き返されない!」
耳を掴んだまま、不気味な笑顔で、セナを頭上でぐるぐる回す。
その姿は普通の魔物よりも恐ろしかった。
「ちょ、ちょっと!や、やめてー!耳が千切れちゃうからー!」
凄まじい速さで円運動をしているので、いくらもがいても、全く離れられなさそうだった。
「そうか?」
と言い、真顔に戻り手を離した。
そのままの勢いで離したため、壁に勢い良く飛んでいき思い切りぶつかる。
「そういえばあいつって何でぬいぐるみになってんだ?」
って今更かよ!?
何もなかったかのように俺に話を聞いてくる。
「あ、えっと、今は占い師やってるみたいです。」
唖然としていて、突然聞かれたので少ししか声が出なかった。
「占い師か・・・あいつもちゃんとしたやつになったんだな。」
と、片方の手に肘を乗せ頬杖をつきながら応えた。
言い換えれば、昔はちゃんとしたやつではなかったと。
「あぁ、それでデンジャラスエッグの摘み方だが・・・
実を言うとセナも一応人間なんだ。ただ昔は、自分のタレント能力に溺れ闇に堕ちてしまって、魔物扱いになってしまっただけらしくてな。
それと占い師はぬいぐるみでも、人間の手の判定を受ける。だからあれに摘ませる事は出来ないだろう。」
真面目な顔で言っているので、間違いではないと思う。それにウソを言うほど悪い人じゃないだろう。
「じゃあどうやって摘めばいいんです?」
「簡単に言うと、さっきセナが言った通り、花に手が触れると爆発するんだ。だから、触れなければいい。茎の部分を切れば花は枯れ、爆発の効果は消える。ただ・・・」
ガイルさんは、ため息をつき、モヤっとした表情で言った。
「茎が花を支えるためにだいぶ固くなっていてな・・・なかなか切ることが難しいんだ。」
腰に手を当て、頭をかきながら話しているが、あのガイルさんですら悩んでしまう案件なのか。
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