第7話 『力と魔法!』

メルがサイレントを覚えてから俺を何回も何回も脅かしてくる。しかもその度に楽しそうに笑う。飽きないのだろうか・・・何回も何回も同じ事をするのって作業みたいで飽きてくると思うのだが・・・

とは言え見た目はまだまだ子供っぽい。

俺が予想した通り14歳とかそこら辺の年だろう。


「おいくそウサギ。そういや俺って武器どうすればいいんだ?」


「そこら辺の枝でも拾って敵にぶつけるとかでいいんじゃない?あとそのくそウサギって呼び方やめないとこの世から消すよ?」


いや木の枝投げて攻撃はさすがにダメージ通らんだろう。

それに、消すとか怖すぎかよ。そもそもこのウサギの持ち主の占い師って何でこの異世界でない、俺らの元いた現実世界の事知ってたんだ?

ザトールの木漏れ日の広場にいた時も、元の世界の事を色々言ってた気がするが・・・

俺らのいた世界を知らないメルがいるこの場では聞くわけにはいかないからなあ・・・

まぁいずれ聞くことにしよう。

それはそうと・・・


「メルってパワーアップを使わない場合の通常攻撃ってどんなもんなんだ?」

「んー、あの岩で試してみましょう。」


え?デカくない?


メルが指差したその岩は、歩いている道より少し離れた所にぽつりとある、およそ5㎥の岩で、とても硬そうな岩だった。


「本気か?杖壊れるぞ?」


町にいるときにはほとんど袋に閉まっていてよく見えなかったメルの杖。

特徴的なものはなく、先端に大きく綺麗な球体がついていて、長さは1mあるかないかくらい。

あとは下の方に把手とってがついてるくらいの簡単な作りの杖だった。


「ゼドラルガル鉱石で特殊な加工が施されてるから、何に攻撃しても、あと300万回くらいはもつから大丈夫だと思う・・・って、旅人さんに聞いた!!」


300万回だと!?チートじゃないか!?

それともそのゼド何とか鉱石が手に入れば特殊加工で好きな武器をほぼ壊れないように出来るってことか・・・?


「それじゃあいくよ。」


今までパワーアップを使って増幅させてきた力だ。さて、使わないとどんなものになるのか楽しみである。

「とりあえず危ないから弱めの力で。」


・・・危ないから?


メルがえいっと軽く杖を岩にぶつける。

なんと岩があの軽い一撃だけで粉砕されてしまった。・・・いや、どういう事だ!?

今までパワーアップを使って力を増幅させてきたからこその物攻だと思っていたが、素でもこんなに力が!?しかもこれが弱めだと!?

一体どうなっている・・・


「メ、メル!?パワーアップ使ってないんだよな!?」


「タネも仕掛けもございませーん。」


まさかステータスに問題があるのでは!?

タレントは必中だから関係性は全く無いし・・・


「メル!とりあえずステータス見せてくれ!「


「しょうがないなぁ。」


メルが自分のブックでステータスを表示して見せてくれた。

・・・物攻が素で342・・・俺は8だからおよそ40倍・・・

しかも俺と同レベルだぞ!?

そ、そうだ、ウサギ。ウサギに聞いてみよう!この世界においてこの数値は異常なのか正常なのか!


「ウサギ!このステータスは・・・!」


「戦士の83レベルくらいの平均攻撃力とそう変わらないから相当異常だとは思うよ」


知ってた。


いやそれにしてもどこでこんな攻撃力が・・・?もしや武器か?でも武器は自分の適正レベルにならないと強制的に壊れてしまうからそれはない・・・一応見せてはもらおう。


「メル、杖の攻撃力っていくらだ?」

「150くらいだった気がするけど・・・」


150!?1レベルから装備できる武器がそんなに強いのか!?何で旅人さんはこの強すぎる武器をメルに渡したんだ・・・?

いや待てよ。それを引いたとしても・・・

メル自身の攻撃力は192・・・?


おかしい。

そもそも魔法使いって普通魔攻が増えまくるものだと思っていたが、こういう魔法使いってありなのか?

というか魔法要素が今の所ゼロに等しいのでは。


「メル、魔法って使えるか?」


「火の初期魔法くらいなら・・・」


「使って見せてくれ。」


さらっと言ったが、魔法はスキルとは別枠なのか。

さて、見せてもらおう。魔法使いの本領を。


「ファイア!」


メルが唱えると、指先に小さな炎が出てきた。

これが・・・魔法?

だとしてもマッチの火くらいの火力しかなさそうなんだが・・・いや、これが普通なのか? 魔法使いなのに魔法が得意分野ではないって何で魔法使いになったんだ。


メルは自分のステータス表示の魔法攻撃力を見て顔を赤らめる。


〈〈〈魔法攻撃力 1〉〉〉


「私の魔攻・・・」


魔法攻撃力が何よりも高いはずの魔法使いが何よりも、ましてや俺よりも1低いとは。

本当にとんでもない奴を仲間にしてしまった。別に後悔は無いけど、なんか自分が見てきたゲームの世界とは全く違う。


「メル・・・こんな事聞くのもなんだが、何で魔法使いになったんだ?」


問いかけたが、メルは下を向き答えてはくれない。

無視をしてる、というよりは話したくない様な素振りを見せている。何か事情があるのだろうか。


で、次はウサギなんだが・・・何か考え事をしているように見える。


「ウサギはレベル上がんなかったのか?」


「え?何言ってんのよ。私もう疾っくの疾うにカンストしてるんですけど。」


ええ!?カンストしてるのかよ!?

驚愕その一言しか思い浮かばない。

そんな話聞いてないぞ!ここで今初めて聞いたというのに何言ってんのよはこっちのセリフだ。


「何でカンストしてるんだよ。初めて聞いたぞ。」


「まぁ、話せば長くなるし、この話はなつめさんを助けた後ね。」


何も教えてくれないと信用ができないんだが・・・仕方ない。


こんな事を話しながらだらだら歩いていると、フィレスの森らしきものが見えてきた。


デカい。とてつもなくデカい。

が、森の入り口だと思われる場所の横には【フィレスの森】と書かれた看板が立てられていて、無駄に親切であった。どうせなら森の地図かパンフレットくらい用意してほしいものだ。

尚更この森の中になつめとオーガがいるとして、すぐに探し出せるのか?

にしてもこんな平原の奥にぽつりと森ができるなんて不思議な事もあるもんだな・・・

普通山の近くだとかに森はあるものだと思っていたが、そんなでもないのか?

まぁ、ここは異世界、俺の常識が通じない世界。今までもそうだし、これからもおそらくそうなるだろう。

そう思うと、ますます本当にこの世界でやっていけるかどうか心配になってくる。


「フィレス・・・やはりあいつが・・・?」

と、変わらない顔つきをしながらウサギは小さい声で口遊む。

あいつ、とは誰のことだろうか?

ウサギの発言による謎は深まる一向で、何一つ解決しない。


「とりあえず、中に入って探そう。ここにいても何も進むわけじゃないし。」


「そうね。あと魔物には十分警戒しながら進むんだよ。森にいる魔物は隠れるのが得意だからいつどこでどう襲ってくるか分からない。」


森はモンスター達にとって隠れて旅人などを襲う所に最適な場所だ。俺らは今からそこに乗り込むんだ。用心して進まなければいけない。


「おう、わかった。」


とは言ったが、正直なところ、魔物の事より、なつめの安否が気になる。

頼むから、無事でいてくれよ・・・!

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