第217話 ラスティン31歳(老い)
久々の訪ねたレーネンベルクの屋敷は何故かひっそりとしていた。普通に使用人達は温かく迎えてくれたが、やっぱり若い人間が居ないからだろうか?
今の時期なら、ジョゼットが戻って来ていると思ったのだが、どうも入れ違いだったらしい。テッサは、韻竜の里に顔を出したり、アルビオンへの使者を買って出たりと実家にもここにも顔を出すだけだったらしい。そしてライルは既に巣立ってしまった訳だ・・・。
「ただいま、父上」
「良く帰ったな、お前も忙しいだろうがゆっくりして行け」
「はい、ありがとうございます。ところで、ジョゼットはどうしたんですか?」
「ああ、特殊部隊の方に呼ばれて行ったよ」
「セレナですか?」
「ああ、あの娘は明るくなったな」
「はい、良い伴侶を見つけた様ですね。しかし、ジョゼットがもうあの話に乗るとは思いませんでしたよ。魔法学院を卒業してからでも構わなかったでしょうに」
「ジョゼットも、自分の道を探し始めたのだろう。少し寂しいが、こう言う物だろうな」
そうか、単なる”メイジ殺し”で終わる積りはないか。うん、逞しくなったな。そう言えば、レーネンベルクにとって最も逞しくなって欲しい人間も居ないな。
「そろそろですか?」
「ああ、そろそろだな。出来るだけの事はしてきたが、他国となるとな・・・」
あっさり認める所が父らしい、それも胸を張ってという所も含めてな。
「いいえ、それには私達も助けられました」
「皮肉か?」
「ええ、勿論。自分の時よりも、”我が家”のしきたりを恨めしく思いましたよ」
私の皮肉程度は、父には殆ど気にならい様だ。私もキアラに皮肉られた程度は気にしなかったがね。
「そうだ、知らないようだから教えておくが、ラ・ヴァリエールのルイズもジョゼットと同行しているぞ」
「ルイズが? 別に構いませんが、明人青年はどうしました?」
明人青年は”アルマント・フォン・リューネブルク”を連れてレーネンベルクに来ていた筈なのだ。勿論アルマントをワーンベル辺りで錬金メイジにする為だがね。
「勿論ルイズに同行したさ。あの男の事を頼まれたがな」
「逃げたな」
「まあ、そう言うな、彼も彼なりにこの世界の事を学ぶ気になったんだろう」
「そうですか、明人青年にはゴドー伯爵家を継がせる予定だったのですが、まあ、もう少し時間をおきましょう」
「ゴドーをか、ルイズにとっては親戚筋だが、2人はそこまで進んでいるのかな?」
「さあ、分かりませんが、そうなると思っていますよ」
父上、何故か母上に似ていますよ? そして、世間話はここまでだった。
「それで、何をしに帰ってきたのだ?」
「父上の顔を見に来たのですよ」
「そうだな、私も老いた。もしかすればこれが最後の機会になるかも知れないな」
「父上、それは多分母上が許してくれないでしょうね」
「そうかもな・・・」
父も67歳だったかな、立派な老人だが、少なくとも死にそうには見えないな。まあ、後継者がふらふらしている様では気が抜けないだろうが。
「冗談はそれ位にして、要件を言いなさい」
「良いでしょう、これは国王としてレーネンベルク公爵への罰だと思って貰いたい」
===
レーネンベルク公爵の反応は意外過ぎる物だった。兵団や学校に関しては予想通りだが、ワーンベルやマカカ草の原生地ミネスト山さえも差し出すと言い出したのだ。別に私はレーネンベルクを潰す積りも無かったから、無期限で国に貸し出させる事で妥協してもらった。ワーンベルの錬金メイジ達を貸し出す替わりだから、結局現状と変わらない訳だが・・・。
何で罰する側が、減刑の交渉をするという事態になるのか分からなかった。私としては(少々利己的な理由だが)レーネンベルクはレーネンベルクのままであって欲しかったから、妥協案を考えるのは面倒な話だったな。
「何故か疲れましたが用件は以上ですよ、父上」
「ご苦労だったな。しかし、こんな話なら私を呼び出せば良かっただろうに」
「父上もキアラと同じ様に言うんですね?」
「第二王妃様か?」
「順番ではそうですね。父上もキアラが苦手そうですね?」
「ん? ああ、まあそうだな。って、一応お前の奥方だろう!」
何故か怒られたぞ? 別に苦手だからと言って妻にしてはいけない訳じゃない・・・筈だ?
「大丈夫ですよ、今の所上手く行っています。今度、子供も生まれますしね」
「そうだったな、お前達は色々苦労したからな、これからはきっと上手く行くさ」
「いいえ、上手く行かせるのですよ」
「ふっ! 言う様になった」
「ええ、これでも国王をやらされていますからね。ところで母上とノリスは?」
「領地内の視察だよ、いきなりお前が来ると聞いて2人に代理で行ってもらった」
普通は視察自体を中止すると思うんだが、まさか、私が来ると聞いて退避させたとかじゃないだろうな?
「妙な事を考えている様だが、父の部下だった人が亡くなったのもあってな。お前が来ると聞いて仕方なく代理を出したのだよ?」
「そうでしたか、それで少し元気が無かったのですね?」
「ああ、もう父の事を知る人間も殆ど居なくなってしまったな」
少し遠くを見るようにして、懐かしい人達を思い出しているのだろう。私も師匠の事を少しだけ思い出したな。
「父上、最後に1つだけ言わせていただきますよ。私は今後”ラスティン・ド・トリステイン”とだけ名乗る事にします」
「けじめか? お前は、もうこの家を出た人間だ、好きにするが良いさ」
父の表情は少しだけ憂鬱そうに見えた。老いると言う事はこう言う事なのだろうか、こちらの面では明らかに経験不足だからな。
===
父と酒を酌み交わしながら、子供達のこれからの予想に花を咲かせた訳だが、ノリスだけは話題に上らなかった。父ならきちんとやってくれると思うが、何故か少しだけ不安を感じるな。人生経験ではまだまだ父には敵わない様だな。どちらにしても”ラスティン・ド・トリステイン”としての公務はそれで終わりだった。
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