第194話 ラスティン31歳(褒め殺し)



 取り返した兵団員達と共にワーンベルに一度戻り、陸軍の慰問も兼ねてライデンの町を訪ねて、その後王都へと戻る事にする積りだが、その行き来には解禁となったゼロ戦改を利用する事にした。パイロットとコパイロットの腕次第だが空中で停止する事も垂直離着陸も可能な機体だから非常に便利だった。


 私が乗ったゼロ戦改のパイロットもコパイロットも騎士殿が推薦しただけあって優秀な操縦者だったが、話を聞くと2人ともパイロットもコパイロットもこなせるらしい。ピンと来て尋ねてみると、ロマリアへの使いを果たしてくれたのがこの2人組みだったらしい。


 人見知りするとか聞いていたが、そう言う印象は受けなかった。ジルとマリーと呼び合っている2人だったが女性の方は如何にも軍人(完全に陸軍タイプだな)といった振る舞いだった。


「マリーさんは、もしかして陸軍出身なのではないですか?」


「はい、陛下。やはりお分かりになりますか?」


「ええ、グラモン元帥やその部下の方々と良く打ち合わせをしましたからね。癖が抜けていないのですよ?」


「元帥の下に長く居ましたから、私が陛下をお連れする事になったのもその縁なのですが」


 マリーさんの表情が何処と無く憂鬱そうに見えた。まあ、陸軍から空軍に移ると一言で言っても色々しがらみがあるだろう。それで、人見知りするなんて言い訳を考えたのかも知れないが、あの騎士殿だからなそう言う機微には疎い以前に気にしないだろう。(おまけに懲りないという事まで想像出来るぞ、まあ、生き方がぶれないと言う表現も出来るがね?)


「隊長も元帥とは多少因縁もありますから、困った物です」


「あの2人は知り合いだったのか、頑固な辺りは似ているがどう考えても反りが合わないだろうな」


「はい、わたくし自身逃げる様に元帥の下を去りましたので、陸軍に顔を出すのは避けたかったのですが、いえ、任務は任務です」


「陛下、何で陸軍を去ったかは聞かないでやって下さいよ!」


 丁度私が尋ね様とした事を、操縦席のジルさんから止められてしまった。飛行中だから伝声管を伝わっての声だが構造上離れている操縦席からから直接聞こえている様に思える程大きな声だ。軍人さんと言うのは声が大きいほど優秀だったりするのだろうか?


 それはそれとして、マリーさんが陸軍を去った理由はあまり公言出来ない種類の物らしいな。それよりグラモン元帥に近かったのなら聞いておきたい事があったのだ。


「マリーさんは、グラモン元帥の人となりをご存知ですか?」


「ええ、まあ・・・。もしかして軍の一部が暴走した件でしょうか?」


「ああ、その件もありましたね」


「そちらは減俸が普通でしょうね、陛下のお立場なら、悩む程の事ではありませんでしたか?」


「そうですね、そちらはその程度です。問題はグラモン家の3男がちょっと騒動を起こしてしまいまして、魔法兵団の方に軽微だったのですが被害が出ましてね」


「成る程、それは確かに頭が痛い事でありますね。元帥ならば職を退くと言いかねないですし、既に準備を始めている事もありえます。ギーシュ君でしたね、あの子が何をやったのですか?」


 微妙な問題の部分は除いて、マリーさんに説明してみた。本当ならキアラ辺りに相談した方が良い話なのだが、王都も混乱している状態で上手く連絡が行き届かないのだ。最悪、保留にすれば良いかと思ったし、キアラが居ない状態にも慣れないといけないからな。


「そうですか・・・。私ならばと言う話ですが意見をお聞きになりたいですか?」


「ええ、是非!」


 誰だ、自分で考えろなんて言った奴は、私は万人の声を聴く国王を目指しているんだ。時々は聞きたくない話も舞い込んでくるし、聴いたからといって方針を変えたりしない事も多々ある。それに、適材に意見が聞ければ、別の展開も見えてくる。この時はマリーさんがまさにそうだった。


「あの方は頑固ですからね、ご子息が他人に迷惑をかけた程度なら相手に頭を下げて、息子さんを殴るなり説教するなりで済ませるのでしょうが」


「実際その程度なんですよ」


 まあ、ギーシュの活躍が原因でライルが怪我したのは、当然とは言わないが仕方が無い事だろうし、ライルも同意見だろう。私としてはイザベラ姫を守ったライルを褒めてやりたい所だが、結果として村が1つ消失(焼失か?)となると表立っては叱るべきなんだろうな。


「言葉通りには受け取れませんね、陛下?」


「まあ、その辺りは国家機密だな?」


「了解です。以前の私ならこんな事は思いつかなかったですが、ギーシュ君に勲章でも与えてみたら如何です?」


 座席の都合で直ぐ横に密着する形で座っているのだが、私より少し年上の堅い印象がある女性なのに何故か少女の様な明るい笑顔を見せながら、意表を突く提案をしてくれるマリーさんだった。


「勲章ですか? ああ、彼のお陰で兵団は奇襲を免れたと言う解釈ですか? 軍の指揮下に無いただの貴族の子弟が、あんな所に居たのは・・・、まあ、理由は何とでもなるな」


「陛下、何か黒いですよ?」


「何を言ってるかな、マリー? 貴女だって十分黒いだろうに」


「いいえ、陛下。私は自由な発想を得ただけです」


 何だか知らないが、変な自信を持って言い切られたぞ? 私だって、ギーシュに”密命”を与えて一生ライルに頭が上がらない様にしてやれと思っただけだ。私にとってのデニスの様に扱いが面倒な存在にはならないと思うがね。


 ギーシュに勲章を与えて、そうだな、”ご子息には私の命で動いて貰った”とでも部下の前で労っておけば、グラモン元帥も妙な真似は出来ないだろう。直ぐにばれてしまうだろうが、元帥自身が”父親”としての責任を取ってくれるだろう。外聞があるから、周囲には分からないだろうが、それでギーシュが落ち着けば良い事だろう。


 短いフライトだったが、意外な所で収穫があったな。いきなり私から礼を言ったら、あの元帥殿はどんな反応をするだろうか?


===


 グラモン家にどんな影響があったかは分からないが、グラモン元帥に陸軍の規律を正す事を承諾させる事は成功した。何でもギーシュ自身はグラモン伯としても叱るのを躊躇うほどの落ち込み様だったらしい。2人だけで会話を交わした時には、本気で心配していたが、父親として別の働きをする事になりそうだ。


 白毛精霊勲章とか、水精霊騎士隊とか洒落で考えていたが、死刑が決定している捕虜よりも暗い表情と言うのは洒落で済まされない様だ。既に陸路で王都へ向かったライル達の表情は圧倒的な戦果に比べて、かなり暗かったそうだ。それでも、きちんと務めを果たす辺りがライルらしい。


 私の方は、ライル達を追い越して直ぐに王都に戻る事になったが、そこには私にとってさえ気の重い仕事が待っていた。

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