第185話 ラスティン31歳(彼女が欲しい)



「そうか・・・、コルネリウスの姪が居た訳か?」


「ええ、どうする積り?」


「少し考えさせてくれ」


「分かったわ」


 クリシャルナとの通信を終えると同時に、眼下に見える宮殿の屋根の一部が音を立てて陥没した。特殊部隊のやり方じゃないし、ルイズ班の誰か(そんな感じはしないが、キュベレーかもな)が無茶をしたのかもしれないな?


 しかし、ナポレオン君の娘か面倒な話だ。クリシャルナの話を聞く限り、皇帝と宰相の間はかなり冷え込んで居たらしい、もしかしなくても刺客を送りあっていたりしたのだろう。宰相が今まで生きられていたのは、皇帝の”娘”という切り札を握っていたからか?

 そうでなければ、宰相が普通に生きていたのが説明出来ない。転生者に悪意を抱いて無事でいられる人間を今まで見た事が無いからな。ガリア王の狂気を引き継いだ人間だから生き残れたとかなのだろうか?(何事にも例外がある様だな)


 しかし、その娘をどう扱うべきだろうか? 本来なら、コルネリウスの姉(今はフリーデル・ブロイッヒ侯爵夫人だったかな)が引き取るのがベストなのだろうが、こうなってみればナポレオン君が一方的に懸想して強引にか・・・?


 そして、それを受け入れられなかったフリーデル嬢が何かをやらかして(自殺とか、娘を殺そうとしたとか、妙な想像をしてしまうが、間違っていないのだろうな。全く、同じ転生者のやった事がこれか?)、扱いに困ってブロイッヒ侯爵に”払い下げられた”のだろう。


 元々婚約者で相思相愛だったそうだが、ブロイッヒ侯爵という人物は使える(妻も守りきったという事で信頼できると評価すべきだろうか?)人物なのかも知れないな。コルネリウスにとっては義兄として良い助言者になってくれるだろう。今この時も、進軍を続けているだろうツェルプストー辺境伯とで彼を支える両輪になってくれると良いがな。


「おい、スティン!」


「おい、お前なんでここに居るんだ?」


 いきなり声をかけてきたのは、何故かコルネリウスだった。皇帝に即位する為の準備を始めなければならない筈なんだが?


「何でって、無論報告に来たんだ。後、今後の事も相談したかったからな。大体、宮殿自体はまだ警備の部隊に包囲されているんだぞ?」


「だからこそ、玉座に座っている所をって、そうか・・・」


「ああ、今頃瓦礫の下だろうよ。一応皇帝の冠は確保したが、それを被って出て行ってもな?」


「確かにあまり威厳が無いな」


「お前が言うと説得力があるよ」


 それを言われても何とも思わないが、公的な場では言って欲しくないな。別に威厳で王様をやっている訳じゃないが、あまり情けないと、国としての面子に関わるらしいから。


「まあ良いが、相談と言うのは姪御さんの事か?」


「ああ、ナポレオンだけなら、身代わりの死体を晒すと言うだけで事は足りるだろうが・・・」


 魔法人形(スキルニル)も用意して来たし、最悪適当な死体に魔法をかけて顔だけ変えるというてもあるんだが。


「その娘をトリステインで引き取ってもいいぞ? 元々居なかったと言う事になれば、元の計画のままだろう? 薬の影響もあるそうだし、エルネストの所か、私の実家で育てるが?」


「そうだな、お前の妹達みたいに育つなら、それはあの娘にとっても幸せかも知れないな。だが、奴に近い貴族はあの娘の存在を知っているだろうな・・・」


「そうか・・・」


 そうなると、トリステインが真っ先に疑われるか? するとその他の国か・・・、ナポレオンと同じ手が使えれば良いのだが、次の皇帝にとっては年端のいかない先帝の娘を殺したという事はマイナスになる確率が高いな。(恐怖でゲルマニアを支配する予定ならば話は別だが)


「やはり、あの娘はこの国で育てる。帝室の人間には変わり無いし、やはり母親の下で育つのが一番だろう?」


「どうして娘が生まれたか、想像は付いているんだろう?」


「ああ、義兄になるブロイッヒ侯爵は頼りになる人間みたいだからな。最悪、俺達の養女と言う形にするさ・・・」


「そうか・・・、そうだな、コルネリウスの姉を妻に迎える位だからな!」


 俺達の所は突っ込まないぞ? キュルケがゲルマニア皇妃になる事は既に決定しているしな。(本人は求婚したのかどうかは答えないがね。ただ、この2人ならある意味経験豊富と言うのは確かだろうな)


「何言ってる、姉上は昔ゲルマニアの華と呼ばれるほどの美人だったんだぞ! 母親似でな・・・」


 そうか、本意ではなかったにしろコルネリウスは両親の仇を討ってしまったんだな。面倒な話だが、親の仇の孫娘を育てたとなれば、後の情報操作とその娘への対応次第だがある意味美談にはなるか? そうなると、うーむ、こう言う策略は向いていないんだがな・・・。


「上手く行くか分からないが、その娘に関しては、事実をありのままに明かすのが良いだろうな」


「それはそうだが、ナポレオンの方はどうする?」


「そうだな・・・。キアラにでも相談してみようか?」


「お前な!」


「文句があるなら自分で考えるんだな」


「お前な?」


 コルネリウスが実に情けない声を出した。こいつも皇帝になるんだが大丈夫だろうか? 自分より優秀な人間が居るならその意見を聞くのが悪い訳でもあるまいに。まあ、キアラの場合はこちらもそれなりの考えを用意しておかないと、解答を教えてさえくれない事が多いがな。(交信出来る様になるまで、自分なりの考えをまとめておく事にしよう)


===


 結局、ゲルマニア皇帝ナポレオン1世は、”ガリア=ゲルマニア紛争”の時に既に死亡していて、それ以降は影武者として魔法人形(スキルニル)が彼の替わりを務めていたという事になった。まあ、ナポレオン1世は押えているし、魔法人形(スキルニル)もあるから普通に思いついた話だが、ガリアの国民感情まではさすがに考え付かなかったな。


 最近の皇帝と宰相の軋轢も、魔法人形(スキルニル)の劣化の為という情報操作と、実際にナポレオン1世を公衆の面前で破壊してみるパフォーマンスをする事にもなった。目の前で人間に見えた者が、人形に戻るのを見せる事が何よりもの証拠になるし、トリステインも新皇帝もナポレオン1世を生かしておく事に利点が殆ど無い(普通に考えればだぞ?)のは誰が見ても明らかだから、問題にもなるまい。(ちなみの私の考えは60点だったぞ、厳しい採点だと思うが)


「これ以外は、予定通りに進めるが構わないな?」


「ああ・・・。なあ、スティン?」


「なんだ?」


「あの小さな宰相だがな?」


「キアラが何か?」


「彼女をゲルマニアにくれないか?」

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