第25話 ラスティン14歳(ワーンベルの建築ラッシュ:前編)

 会談から数日が過ぎ、今日ついに魔法兵団の第一陣の先遣隊が到着しました。到着したのは100人程ですが、小分けに派遣するように指示を出したので、混乱も無くワーンベルに入れたようです。今日やってきた団員たちは、単身者が中心なので基本的に廃業した宿を改装した寮に入居してもらう予定です。


 この辺りの采配は、セシルさんがやってくれています。彼女は会談の時の混乱が収まってからは、何か思うところがあったのか積極的に僕に協力してくれえる様になりました。今では僕の秘書役として無くてはならない存在です。マルセルさんがを右腕とするなら、セシルさんは左腕と言った所でしょうか。


 そして僕が今、何処にいるかと言うと、代官の屋敷の裏庭に来ています。窓から外を見た時、裏庭にこの屋敷を建てた時か、改築した時に余ったと思われる石材などの資材を発見していたので、これを使用して少し実験をしようと思っています。ちなみに隣には、新しく建てる施設の建築を監督してもらう大工の親方がいます。


 先程まで行っていた、施設の建築方法に関して意見が衝突したので、実際の建築方法を見てもらおうと言う訳です。


1.石材を使って4体のロックゴーレムを作りだします。

2.余った石材を錬金で鉄にして、それを4メイル程度の柱12本に成形(フォーム)します。

3.鉄の柱をゴーレムを使って立方体になるように組み合わせ、これを成形(フォーム)で一体化します

4.4体のゴーレムを立方体の四方で解体し、解体してできた石材をさらに成形(フォーム)して鉄の枠組みに合わせるように石壁を作ります。

5.余っている鉄を4メイル×4メイル程の板状にします。

6.大き目の土ゴーレムを作って板を屋根替わりに、立方体の上に設置し、これも成形(フォーム)で一体化します。

7.石壁の一部をドア状に、もう一面を窓状にくり抜きます。

8.出来上がった小屋全体に固定化をかけます。


 以上で、窓とドアはありませんが、小屋の形にはなったと思います。


「親方、こんな感じですが、どうですか?」


 親方は、出来上がった小屋の内部や外部を観察しています。


「なるほど、代官さまのやりたい事は分かりやした。ですが、建物の構造としては不安定過ぎますな〜。柱の本数も足りないでしょうし、筋交いや梁も必要でさぁ。屋根ももう少し工夫した方がいいんじゃないですかい?」


 さすが本職、いきなりダメ出しです。強度に関しては、固定化を行う事でかなり強化されてはいますが、専門家の意見は重要なので、ここは従っておきましょう。メイジなら快適に住めると、メイジしか住めないとでは価値が全く異なって来るでしょうから。


「そうですか、先程お見せした建物の設計図ですが、親方の目から見直して、書き直していただけませんか?」


「そうですな、鉄を木の代わりの建材に使うのは始めてなんで、多少不安が残りやすがやってみせやしょう!」


「お願いします、親方!」


「おう、どーんと任せな!」


 ふぅ、まだまだ改良の余地はありますが、これで建物に関しても目安が付いたかな?そう思っていると、急に後ろから声をかけられました。


「こんな所で何をなさっているのですか、ラスティン様?」


 慌てて振り返ると、セシルさんが笑顔で立っていました。でもその笑顔は少し引きつっている気がします。


「少し実験をしたい事があってね、大工の親方に付きあってもらっていたんだよ」


 僕はごまかす様に返答します。ですが、セシルさんは追及の手を緩めてはくれませんでした。


「大工の皆さんとの打ち合わせが終わったら、執務室で書類整理をお願いしてあったはずですが?」


「でも、実際の所、僕だけで書類整理はまだ無理じゃないかな?」


 マルセルさん程の統治経験がある訳でも、セシルさん程この町に詳しい訳ではありませんから、これは事実だと思うのですけど。


「それでもです、分かる範囲で構いませんから少しずつ慣れて頂かなくては困ります」


 セシルさんはぷりぷりと怒っています、その様子がまるで少女のようで僕は少し笑ってしまいました。それにしても良かったです、あのオノレの事件で一番ショックを受けたのは他ならぬセシルさんですからね、後を引いていなくて一安心です。


 しかし、意外だったのはオノレの処分を決める際に、セシルさんが罰を軽くしてくれるように頼んで来た事でした。トリステインで領主の家族に危害を加えれば普通は死刑です。場合によっては、家族や一族にも累が及ぶ事もありえます。

 レーネンベルクであっても相当な期間牢屋に入れられるのは避けられないでしょう。ですが、セシルさんの嘆願のおかげでオノレはレーネンベルク領内からの永久追放を罰とすることで決着がつきました。(マルセルさんは良い顔をしませんでしたが)


 そんな事を考えていたら、セシルさんが不思議そうに僕の顔を見ていました。


「すみません、ちょっと考え事をしていました」


 僕は大工の親方と別れて、セシルさんに手を引かれる様にして執務室へ向かうのでした。


===


 魔法兵団の先遣隊が到着して2日ほど経ちました。団員たちも落ち着き先が決まったので、今日から本格的とまでは行きませんが、活動を開始する事にします。

 まず先遣隊の団員を2班に分けます。1班には工房で錬金をしてもらい、もう1班には施設建設の下準備をしてもらう事にしました。


 錬金班には、質の悪い鉄鉱石を抽出(イクストラクト)で良質の鉄鉱石にするのと、鉄鉱石以外の石を錬金で鉄にしてもらうことにします。鉄鋼製品を錬金で作り出すのはもう少し団員が増強されてからにすることにしました。

 施設班には、まず”北東”の土地の整備を行ってもらいます。堤防補強や道路整備といった土木工事も魔法兵団の仕事でしたから、この辺りは現場に任せて問題ないようです。


 3日もすると、ワーンベルの町にはかなりの鉄鋼製品が出回るようになり、鼻の利く商人達が早速商売を再開しました。”北東”の土地も荒地から、更地へと見違える様な変化を遂げました。

 ”北東”の土地の整備も済んだので、施設班にも工房で建設資材の鉄材を錬金してもらうことにしました。ところが、ここで思わぬ誤算が生じました。錬金を行っているメイジ達から、鉄よりチタンの方が元素変換(コンバージョン)し易いというのです。

 ジュラルミン盾とチタン剣ばかり錬金してきたので当然といえば当然の結果でした。すこし前世の常識に影響されすぎているのかもしれませんね。そこで思い切って建設資材としては、チタン材を使用することにしました。結果としては、強度と質量の面でプラスに働いたので問題無しとしましょう。


 更に2日もすると、噂を聞きつけた商人達が鉄鋼製品を求めてワーンベルを訪れる様になりました。どうやらトリステイン王内の鉄鋼製品の不足は思っていたより深刻だったようです。出来上がったばかりの製品が次々に売れて行きます。チタン材もかなりの量が確保出来ましたし、壁材として使用する岩石も採掘者の組合の方々の協力で”北東”の土地まで相当量運び込む事が出来ました。後は大工の親方からの図面を待つだけです。


 そして、魔法兵団がワーンベルでの活動を再開して丁度5日目に、大工の親方からの図面が届きました。


 色々な図面が届きましたが、今日は腕試しと言うことで、比較的小さく、構造も簡単な倉庫を建築してみることにします。倉庫自体の大きさは横20メイル×縦40メイル×高さ10メイル程の大きさで、使用目的は、錬金の材料となる、鉱山から運ばれてきた岩石や、錬金済みの鉄鋼製品をを一時保管するというものです。さて、早速建築に入りましょうか。


1.用意したチタン材を5メイル×5メイル×5メイル程積み上げ、これを成形(フォーム)で一体化します。

2.一体化したチタン材をさらに成形(フォーム)して、一気に横20メイル×縦40メイル×高さ10メイル(断面10サント×10サントの角材)の大枠を錬金します。

3.4メイル毎に縦柱(断面10サント×10サントの角材)を追加して大枠を補強します。

4.断面10サント×10サントの角材部分を成形(フォーム)してH型にして全体の強度を向上させます。同時に接合部も強化しておきます。

5.梁(大梁、小梁)と筋交いを加えます。これで地震などにも強くなります。

6.母屋、小屋束、垂木を設置して屋根を作る準備をします。

7.屋根材には石を薄い板状に成形(フォーム)してスレート葺きにします。

8.石材をチタンの柱や筋交いなどを包み込むように成形(フォーム)して壁にします。

9.出来た壁を出入口と窓の形にくり抜きます。

10.くり抜いた石材を錬金でチタンに元素変換(コンバージョン)して、蝶番(ちょうつがい)を使って固定し、そのまま、出入口と窓に利用します。

11.最後に倉庫全体と下の地盤に固定化をかけます。


 以上の1〜11の工程で、三角屋根の倉庫1つが完成です。高い場所での作業や、重い物の運搬にはゴーレムを活用します。2.のチタン材を一気に目的の大きさに引き伸ばすのにはコツが必要です、僕も屋敷の裏庭で何度も練習しましたから。ですが、倉庫自体はほぼ1日で完成しました。慣れてくれば半日程度で建設が可能でしょう。建設に携わるメイジの数が増えれば建物の建設速度も比例して速くなって行くはずです。


 そういえば、魔法兵団の先遣隊が到着して1週間経ったので魔法兵団の後続部隊100名が新たにワーンベルに到着しました。今回も単身者が中心でした。やはり家族で移動となると家具の移動も伴うので、かなり手間取っているそうです。しかし、これで鉄鋼製品の生産まで人手が回りそうです。採掘者の組合に掛け合って、購入する石材の量を増やさなくてはならないかもしれませんね。


===


 そして、更に2週間ほど経つと”北東”の土地は見違える様になっていました。最初に作った様な倉庫が4棟、倉庫の4倍の広さは在ろうかと言う建物が2棟、倉庫の倍ほどの広さの食堂が1棟、シャワーまで完備さえた休憩所までが建設されました。他に運動場や公園も準備しました。

 この”北東”の土地を工場街と呼ぶ事にしました。文字通り、ここで鉄鋼製品や、アルミ製品、アルミ合金等を量産する予定です。現在ワーンベルに集まっている、魔法兵団員は400人程度ですが、予定通り全魔法兵団員の2/3がここに集まればかなりの生産量が見込めるはずです。


 次は”南西”の土地を整備してここに、魔法兵団員とその家族が生活する、住宅街を作る予定です。個人住宅や2階建てのアパート、そして今はワーンベルの宿屋に間借りしている寮も新たに建築する予定です。商店街も作った方が良さそうですね。商人組合に交渉してみることにしましょう。細々とした建物が多いので、手間が掛かりそうですが、兵団員も増えたのでそれほど時間は掛からないでしょう。


 ちなみに、”北東”を工場街にしたのは、ワーンベル鉱山に近かった為です。同様に”南西”を住宅街にしたのは、水の便が良かったからです。前世の常識であれば、工場街の方が水を必要とするのですが、錬金を主体とした工場ではこの常識が意味をなさないんですよね。


===


 更に1月もすると、”南西”の住宅街も形になってきました。気の早い団員達は早速、新居に引越しを開始していたりします。まだ商店街の方は活動を始めていないですが、それも時間の問題でしょう。もう2週間もすれば、本格的に住宅街が稼動し始めると思います。


 さて次は、”東の高台”ですね。ここに作るのは、一応学校です。レーネンベルク魔法学園の分校を作りたいと思っています。ただし、ただの学校ではなく非常時にワーンベル中の人が避難できるような施設にしたいと思っています。災害の時や最悪戦争になった時の対策ですね。幸いレーネンベルク領はレーネンベルク山脈を挟んでゲルマニアと接しているだけなので、あまり心配は要らないかもしれません。

 ”東の高台”というだけあって、土地の整備も、建築資材の運搬もかなりの労力を必要とします。今までの様にほとんど平らだった土地を更地にして、建物を建てるのとは別物と考えてもいいでしょう。計画は十分に練る必要がありそうですね。


 方針としては、


・高台の上部の平面な土地の整地、高台の中腹にあるそこそこの広さの土地の整地、それぞれを結ぶ道路の整備を行います。

・上部の平面な土地に学校の主な施設、校舎,実験棟,体育館,運動場,食堂,寮,校庭などを作ります。

・中腹の土地には、倉庫などのを作り非常時の備品を保管する事にします。避難所もここに準備しましょう。

・高台を囲う様に城壁と城門を作ります。さらに、主要な施設を囲う様にもう1つ城壁と城門を作ります。


位でしょうか、マルセルさんとセシルさんにも意見を聞かなくていけませんね。実作業をする施設班のメイジたちにも意見を聞いてみる必要がありそうですね。


 早速、マルセルさんとセシルさんに事情を話して意見を聞くと、


「篭城を考えるならば、まず水の確保ですね。人は思っているより水を消費します」


「長期間砦に篭る事が前提でしたら、食料を自給出来る様になさったらいかがですか?」


などと、なるほどと思える意見を聞かせてくれました。これは採用ですね。食料の自給に関しては、野菜などの種を用意しておいて、校庭を開墾して収穫を得るというので行けそうですね。水メイジと土メイジがいれば、収穫の期間はいくらでも縮められますからね。

 問題は水ですか、飲料水位であれば水メイジがいれば何とかなりそうですが、生活に使う水は考えると確かに多いです。それをすべて水メイジでまかなうというのも大変かもしれません。

 そうだ、いっそのこと井戸でも掘ってみましょうか、そして風車を使って汲み上げればいいんじゃないかな?大工の親方に相談してみましょうか。


 早速明日”東の高台”に行って、水脈の有無を調べてみましょう。井戸掘り自体は土魔法で簡単に出来ますからね。ついでに”東の高台”で作業を始めているメイジ達に話を聞いてみましょう。

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