第三章 合縁奇縁

第11話 列車の発車

 駅のホームに銀色の列車が到着する。

 12両編成で、くつのような形の先頭車両が目立つ。通常の2倍をほこる箱状の乗り物は、レールも幅が広い。

 大陸移動用の特別列車。

 乗り込んだヤヨイ・カケル・スズネ・タクミは、自分の部屋へと向かう。

 上着をぬいで荷物を置いた。相部屋あいべやだ。軽快な音楽とともに、発車を告げる放送がそとから聞こえる。

 おなじ窓から、外の景色を見る四人。中は暖房で寒くない。

「もう走ってる? ほとんど揺れてないよ」

 ロングヘアの少女は興味津々きょうみしんしん

「少し浮いてるって話だよ、この列車」

 短髪の少年は落ち着いていた。

「ちょっと。外が見えないじゃない」

 ミドルヘアの少女は、防音壁に立腹中。やわらかな姿態を橙色だいだいいろの服がつつむ。

「この速度で街中を走るとヤバイだろ、風圧が」

 普通の長さの髪の少年は、常識人だった。長身にまとうのは紺色こんいろの服。

 しばらく外の景色は見られそうにない。北の国を北東へ走行中。

 四人が通路に出た。荷物を持って北の車両に移動していく。そこは、1両丸々、多目的広場たもくてきひろば

 実際は多目的とは名ばかりの、能力のうりょくバトル広場である。グレーの壁際には見物用の椅子がならぶ。

模擬戦もぎせんいっとくか」

「いいわね」

 荷物を渡した二人が同意した。

 受け取ったヤヨイとカケルが、椅子に座る。戦闘空間せんとうくうかんが車両全体を包み込んだ。

 前後の車両も範囲に入っていて、乗客たちはざわついている。力が強い者同士でなければ、空間が広場を超えることない。

 ルールは、有効打3回で決着けっちゃく

 青色の服になったタクミと黄色の服になったスズネが、戦いながら話す。

「そのガード反則だろ。攻撃が通らないぞ」

 かがみを使った反射弾はんしゃだんをすべて防がれて、十代後半の少年は立腹していた。

「能力をかたよらせてるんだから、ちゃんと弱点あるわよ」

 十代後半の少女は、つり目ぎみの片目をつむった。

 手の甲が光った少女から、豆粒ほどの弾が撃ち出された。次々に、とんでもない速さで飛んでいく。

「その高速弾こうそくだんも反則だろ。どうやって防ぐんだよ」

 言いながら鏡で跳ね返して、相手に当てるタクミ。たれ目ぎみの目に力が入っていた。お互いに一回攻撃を受ける。

「鏡も反則でしょう。私と相性悪いわ」

 スズネが接近しながら能力を解除。つづいて足の先を光らせる。

「全くだ。相性悪いぜ」

 タクミも接近し、二人は火花を散らした。


 乗客から歓声が上がる。

 バトル好きたちが広場に集まっていた。戦いが終わった二人は取り囲まれた。

 模擬戦だから金はいらない、と断るタクミ。何人かに無理矢理押し付けられる。スズネも同じ結果になった。

「接近してもなんとかなるのがいいよな、スズネは」

「素手以外を跳ね返せるんだから、タクミも苦手じゃないでしょ」

 人々が離れて、二人が試合結果を振り返っていた。勝利したのは機動力きどうりょくを上げたスズネ。

 ほかに戦う人がいないのを見て、ヤヨイが提案する。

「二対二でやらない?」

「どう考えても、僕が足を引っ張る感じで怖い」

 カケルは珍しく弱気だ。

「私、タクミと組みたい」

「じゃあ、決まりだな」

 スズネとタクミは乗り気で、どんどん話が進んでいく。

 十代半ばの少女は笑顔を見せる。対照的に、十代半ばの少年は浮かない顔をしていた。深緑色ふかみどりいろの服をいじる。


 ヤヨイ組の四人がルールに同意した。

 戦闘空間が広がる。

 7両ほどが範囲に入り、止まった。

 列車の横につづいている防音壁は、まだなくなる気配がない。

 ヤヨイを除いた三人が精神体になる。

 模擬戦が始まった。

 スズネとタクミは慎重な態度。

「うしろに下がりすぎると、ばねで跳ばされるわよ」

「了解」

 直後、二人の足元と天井一面に壁が現れた。どの方向に逃げても間に合わないことが一目でわかる。

「僕は補助に徹するから、後よろしく」

承知しょうち!」

 カケルは低調で、ヤヨイは活動的である。

 発条ばねにより飛び出す壁で動きを封じられ続ける二人。なすすべがなく、ヤヨイが攻撃を6回与えた。

 戦闘空間が消える。

「ちょっと! 狭い場所で、ばねは反則でしょう!」

「乗り気じゃなかった理由が分かったぜ」

 負けた二人は、対照的な反応を見せた。

「二対二だとこうなるよね。かといって使わないと足手まといだし」

「なら、能力を使わずに模擬戦しよう」

 ヤヨイの提案。

「剣、出せない俺に勝ち目ないだろ。どうやるのか教えろよ」

「私にも教えて」

 勉強会が始まった。


「面白いことやってんな、お前ら」

「一緒に遊ぼうぜ」

「ということみたいです」

 茶色ちゃいろい服の三人組が、ヤヨイたちに話し掛けてきた。広場からあふれだす力に、能力者が集まるのは当たり前である。

 ヤヨイが小声で聞く。

「強い?」

「いや。一人で大丈夫だと思う」

 カケルは落ち着いていた。

「わたしが相手になります。よろしくお願いします!」

 すこし背の低い少女が、元気に礼をした。

 円形のドームが広がる。

 消えた。

 あっという間に倒された三人。捨て台詞を吐かずに止まっている。

『弟子にしてください』

 同時に言って、三人組は土下座した。

 ヤヨイは、師匠の場所を教えた。三人組は礼を言って去っていく。

「よく分からないわ。もう一回教えてよ」

「同じく」

 スズネとタクミは、剣の勉強で苦戦していた。


 1時間後。

 棒状の何かを握ったスズネとタクミは、グレーの広場で模擬戦をしていた。

 動きは、非常にゆっくりとしている。

 攻撃を半球体はんきゅうたいの光の壁できっちりとガードし、反撃に出るタクミ。

 ガードして、スズネが反撃に出る。やはり動きはゆっくりとしている。

維持いじするだけで精一杯だわ。よく、こんなの振り回せるわね」

 ガードして、攻撃に移ったタクミも同意する。

「全くだぜ。何食ったら、できるようになるんだ」

 分析しているカケル。

「二人は、たまの扱いに関しては天才的だから、資質ししつの違いじゃないかな」

「なるほど」

 ヤヨイは納得した。

「受けたら真似できる人に納得されたくないわ」

「まさに、そのとおりだな」

 二人は模擬戦を止めて、休憩した。

 すぎていく時。停車駅を過ぎる列車。夕食の時間が近付いてくる。

 食堂に向かうと、和食がなかった。

 四人席の横へ立つ店員にも気付かず、ヤヨイが銅像のように固まる。何を食べればいいのか悩んで、となりに座るカケルを見た。

「ポテトサラダ、ひき肉入りの野菜スープ、それとパンを食べるよ」

「同じもので!」

 机を挟んで向かい側に座っているスズネとタクミは、笑いをこらえながら、同じものを注文した。大量に作られている料理のため、すぐに運ばれてくる。

 ヤヨイは、横をちらちらと見ながら、真似して食べている。フォークの使い方がぎこちない。

 向かいに座っているスズネは、にっこりとしている。タクミも、口元が緩んでいる。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 カケルとヤヨイが、ほぼ同時に食べ終えた。

 その後でスズネとタクミも食べ終わり、四人は相部屋へと戻った。

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