第19話長恨歌(10)

臨邛道士鴻都客 能以精誠致魂魄

為感君王展転思 遂教方士殷勤覓

排空馭気奔如電 昇天入地求之遍

上窮碧落下黄泉 両処茫茫皆不見



当時、都には評判の高い臨邛の道士が旅の客として滞在をしておりました。


この道士は、その精神を集中し、死者の魂を召喚することが出来るとのこと。


天子に仕える者たちが、亡き楊貴妃を想い眠れぬ夜が続く天子のために、この道士を召し、楊貴妃の魂を入念に捜させることになりました。


道士の魂は 空を切り裂き 大気に乗り 楊貴妃を求め、稲妻のように駆け巡ります。


天にも昇り 地にも潜り くまなく捜し求めます。


しかし 上は蒼空の果て、下は黄泉の国まで窮めたものの どちらも果てしなく広がるばかり。


求める楊貴妃の姿など 何も見えません。



※臨邛:蜀の地名。異民族が多く住み、道士の出身地として設定されたらしい。

※鴻都客:「鴻都」は、もともとは後漢の都洛陽の宮門の名前、「鴻」そのものは「大」の意味があるので、大都長安に旅行で来ていた道士ととらえられている。

※君王展転:天子が「展転」(寝返り)をうち、寝付けない様子を表現する。


○亡き楊貴妃を想い寝付くことができない玄宗皇帝を心配し、側近の者が、たまたま長安に来ていた評判の道士を使い、楊貴妃の魂を探し求めさせるが、なかなか見つからない。


○源氏物語「桐壷」

 「たずねゆく まぼろしもがな つてにても 魂のありかを そことしるべく」

亡き更衣の魂を探しに行く道士がいてほしい そうすれば魂のありかがそことわかるであろうのに。

○源氏物語「幻」

 「大空を かよふまぼろし 夢にだに 見えこぬ魂の 行方たずねよ」

大空を自由に行き交う道士よ せめて紫の上が夢の中にでも見えてくれればいいのに それすらかなわない紫の上の魂の行方を捜し出しておくれ。

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