第7話 断崖絶壁
『いよいよ始まりましたね! コンスタンスさん! やはり今年も注目の選手がいたりするんですか?』
『もちろんですよミリーさん! まずは何と言っても去年優勝のビル・ロドリゲス選手のチームですね! 今年も相方のトルク・バーン選手と二人での参加ですし、やはり優勝の最有力候補と言っていいでしょう!』
『え……、でも去年優勝した選手って、今年出場して良いんですか? 【ルーキーズカップ】なのに?』
『出場自体は問題ありません。彼らは一応Dランクですからね。開拓者歴も3年とギリギリではありますが参加条件を充たしております。ただ、賞金については規定により1度しか支払われませんので、得られるのは栄誉だけとなりますが……』
『まあ!? じゃあ、彼らは栄誉のためだけに参加しているのですね!? 賞金目当てで優勝を目指している他の方々には悪い気もしますが、なんだか応援したくなっちゃいます!』
◇
「……去年の優勝者は賞金を得られないのか」
『そうよ……、って! アンタまだ公共回線なんて聞いてるワケ!?』
「そうだが……、マズかったか?」
『マズいっていうか……、マリウス、アンタ、結構余裕あるわね?』
余裕があるか、と言われると実はそうでもない。
こういった荒れ地での行軍は過去数回経験があるが、こんなものは何度やっても気が抜けるものではない。
ましてやこれは、俺にとって開拓者としてのデビュー戦である。
じんわりとした高揚感を感じるし、いつも以上に力が入っている自覚があった。
しかし、だからこそ平常心を保つため、こうして公共放送を流したりして緊張感をほぐしているのである。
俺は伊達に10年以上デウスマキナの操縦をしてきたわけじゃない。
操縦技術に関しては、高ランクの開拓者達に引けを取らないという自負がある。
平常心であれば、操縦のミスはほぼあり得ないと言っていいだろう。
だからこそ、平常心を保つことこそが重要なのだ。
……しかし、それを正直に伝えても俺の過去に疑問を持たれるだけなので、適当に誤魔化しておくことにする。
「そうでもない。ただ、俺が使っているレーダーは少し古くてな……。他の開拓者達の状況が全て把握できるほど広範囲の状況は見れないんだ。だからこうして音声での情報も集めている、というだけの話だ」
これも嘘ではない。この機体に搭載されているレーダーは、軍で型落ちとなった際、廃棄されるハズだったのをこっそりと頂いたモノであり、技術的には1~2世代前の代物だ。
最新機種に比べると、性能的に劣っていると言わざるを得ない。
『まあ、最初の内は周りが気になるのも仕方ないと思うけどね……。目的地にはもう少しかかるし、好きにするといいわ! そのかわり、目的地に付いたら流石に集中してもらうわよ?」
「心得た」
目的地というのは、今回俺達が採用したルートの出発地点だ。
ほとんどロッククライミングに近いルートとのことなので、操縦に集中しなければ最悪死ぬ可能性もある。
「ところで話は戻るんだが、先程のビル――、だったか? 彼らは去年の優勝者で今年は名誉のため参加、と放送では言っていたが、彼らが優勝した場合賞金はどうなるんだ? 2位以下に繰り下がるのか?」
『……繰り下がったりはしないわ。そのまま来年の大会にプールされるだけよ』
……やはりそうなってしまうのか。まあ実力を測る大会なのだから、当然と言えば当然なのだが……
「……随分と迷惑な話だな。そんなに名誉とやらが欲しいのか?」
『……はぁ、アンタ、そんなこと信じてたの? 名誉だけ? そんなことのために、わざわざアイツらが参加するワケないでしょ……』
彼女の声色からは、本当に呆れたという様子が感じ取れる。
しかし、開拓者としての歴史がないに等しい俺にとっては、名誉とやらがどの程度の価値を持つか全く想像できないのである。
疑問はあっても、絶対違うと言い切れる判断材料がないのだ。
『いい? ビルがさっき自分で言っていたけど、アイツは本来ならCランクに上がっているだけの実績を積んでいるらしいわ。なのにわざわざDランクに留まったのは、間違いなくこの大会に参加するためよ。でもね、普通にランクが上がらなかっただけならともかく、意図的にランク調整してまで大会に出る理由が、名誉だけのためなんて絶対あり得ないわ』
「……しかし、賞金は得られないのだろう?」
『そうね。そんな真似をさせないための規定だものね。けど、抜け道なんていくらでもあるでしょ?』
抜け道……?
いや、そういえばさっき放送で、ビルという男は相方と二人での参加と言っていなかったか?
「……なあ、さっき放送で、ビルは相方と二人で参加と言っていたのだが……」
『そういうことよ……。アイツ等、さっき5人で行動していたでしょ? でも、ビルとトルク以外は私も知らない奴等だった……。つまりビル達はこの大会、あの3人を勝たせるために参加しているってことよ』
……成程。確かに、栄誉を得るためだなんて理由よりも余程しっくりくる。
優勝を狙う3人にとっては、優勝賞金と栄誉を得られるし、ビル達も2位に収まれば確かな実力を証明しつつ、恐らくは多額の報酬を得られるという、まさに両得の計画である。
しかし、これだけあからさまだと、大会運営側も流石に気付いているのではないだろうか?
……いや、よく考えてみるとビル達が入賞すれば賞金が浮くワケだから、暗黙の了解としているの可能性もあるか……
『小賢しい上に意地汚い……。あんな奴等に、絶対優勝は渡さないんだから……』
全くだ。そんな策略で俺の賞金が減る、なんてことになるのは絶対に避けたい。
俺にとっては今後の生活が懸かっているのだ。なんとしてでも阻止する。
『……着いたわ。ココが、今回のルートの始点よ』
凄まじい風が吹き荒れる岩の山肌。
まさに絶壁と言える景色がそこには広がっていた。
「…………」
『……怖気づいた? でも、私は本気よ。本気でこのルートから、優勝を目指す……! さっきも言ったけど、私は開拓者になって3年目……。今年を逃せば、来年はこの大会に出場できない。だから……、なんとしてでも勝つわ!』
「……ああ。俺はお嬢の、その覚悟を買ったからこそ、この作戦に乗ったんだ。やってやろうじゃないか」
『っ!? そ、そう言ってくれると嬉しいわ! ……じゃあ、行きましょう!』
こんな山登りは、軍にいた頃でも体験したことがない。
新しい挑戦に、自然と俺の胸が高鳴った。
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