@01391364

第1話

仕事を終え、ゆっくりした速度で車を操る

昨日降っていた雨はとうになくなり、今はアスファルトがほんのりと黒く染まっている限りである

いくつかの角を曲がり、ありふれた、しかし間違いようのない建物を通り越し、自宅に着く

車庫に入る時、わずかに座席が揺れた

それから、車のドアを開けて外に出る

途端、生ぬるく蒸された空気がどっと入ってくる

構わず家の前でチャイムを押した

しばらく間を空けて、妻が顔を出す

そのまま黙り込んでいると、彼女は、食事にしても良いかと聞いてきた

少し首を動かすと、妻は家の内へ引っ込み、やや早足で台所へ向かったようだった

扉を開け、玄関口に入る

そこでやっと息を吐き出し、靴を並べて家の中へ踏み入った

見慣れた家具が、ここの記憶を辛うじて保っている

ネクタイを緩め、つるつるした床を進んで、椅子に座った

テレビには野球の中継が無機質に流れていて、アナウンサーの声はいやによく響いている

妻が料理を盆に載せて持ってきた

煮魚、茶の入った白飯、それから、煮魚の皿の隅には申し訳なさそうに萎びた菜っ葉が入っている

彼女は同じ物を静かに頬張り始めた

…日常が、緩やかに辺りを侵食し始めていく



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