熱帯

ふくよかな土のにおい、むせかえるほどの暑熱


泣きたくなるほどの緑に取り巻かれ、私は死を想う。


熱帯はいつも私に死を想わせる。


三年前の冬、鉄くずや、泥や、瓦礫とともにこの野に横たわった君の腐臭は、


今やすっかりスコールに洗い流されている。


そうしてまた春が来れば、君はこの地に草を結ぶ。


飽くこともなく春ごとに君は草を結ぶ。


その営みが私には耐えがたい。


その下に立っている、それだけで逃れられなくなる熱帯の太陽のなかで、


私は今日もひとつかみの君を探している。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る