第18話 コンソメは必需品

 無事に昼飯作りを終えて一息ついた俺は、厨房の一角を借りてあるものを作っていた。

 用意した材料は、人参、しいたけ、玉葱、昆布。

 材料を薄切りにして、ざるに広げて、冷蔵庫に入れて……と。

「何作ってるの?」

 リベロが俺の手元を見ながら興味津々と尋ねてくる。

 俺は彼に答えた。

「コンソメだよ」

「コンソメ?」

 ああ、コンソメって言っても分からないか。

「調味料の一種でな、これがあると料理が格段に美味くなるんだよ」

「へぇ~」

 俺がこの世界の料理を食べていて物足りない、と思うのは、この世界にはコンソメがないからだと思うのだ。

 塩や胡椒はあってもコンソメの代わりにはならないし、やっぱり塩胡椒だけの味付けじゃ味が淋しい。

 作るのに時間はかかるけどそこまで手間のかかるレシピじゃないし、せっかくだから作ってしまおうと思い立ったのだ。

 今は、材料を干す下準備の段階だ。

 本当は外で天日干しにした方が乾きが良いのだが、風で飛ぶかもしれないし、この広い城の中を移動するのはちょっと大変だ。なので今回は冷蔵庫の中で乾燥させる手段を取った。

 この方法だと完全に乾燥するまで一週間程度はかかるが、仕方ない。

 干してある材料はいじらないように他の連中に言っておかないとな。

「材料が乾燥しないと作れないから、今日は此処までだ。干してある野菜には触らないようにしてくれよ」

「うん、分かった。他の仲間にも分かるようにしておくね」

 リベロは棚から小さな羊皮紙を取り出すと、文字を書いて冷蔵庫に貼り付けた。

 書いてある字は俺には読めないが、おそらく手を触れるな的なことが書かれているのだろう。

「美味しくできるといいねぇ」

「リベロ、マオもいるのか。休憩時間だってのに何やってんだ」

 大きなガラスの瓶を抱えたシーグレットがやって来た。

 調理台の上に瓶をどんと置いて、冷蔵庫に貼られている紙に目を向ける。

「何だ……『野菜に触るな』? 誰が貼ったんだこれ」

「マオがね。コンソメっていう調味料を作ってるんだって。野菜を干してるから、それに触らないようにしてねっていう注意書き」

「ほう」

 冷蔵庫を開けるシーグレット。

 空いているスペースに半ば強引に捻じ込まれたざるを見て、分かったと言いながら扉を閉めた。

「触らねぇように徹底させりゃいいんだな? 後で皆に言い聞かせとく」

「料理長は、何持って来たの? 空き瓶?」

「ああ。甘味の在庫が底をついたからな」

 瓶をぺしんと叩いて彼は言った。

 甘味とは、俗に言うデザートのことだ。

 この世界の甘味といえば果物を砂糖や蜂蜜に漬けたものが主流で、菓子の類はない。

 蜂蜜漬けは美味いと思うが、色々な菓子を食ってきた日本人としてはそれだけだと物足りないと思うのが正直なところだ。

 牛乳や砂糖があるんだし、此処には設備として石窯があるから、作ろうと思えばケーキくらいは作れそうな気がするのだが……

 空いている時間を使って、菓子を作ってみてもいいかもな。

 よし。そうしよう。

「シーグレット、石窯を借りるぞ」

「石窯? 何に使うんだそんなもん」

 怪訝そうな顔をするシーグレットとリベロに、俺はにやりとしながら言った。

「甘味を作るのさ」

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