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一応リザリー達から聞いた取り引き価格が書かれたメモは持ってるから多少は楽だ。



…コレに書かれてんのってkg単価の他に1tいくら…の単価だから商売に疎い俺でも少しは交渉できるかも。



いやー、にしても茶葉をトン単位での買い付けってヤバくね?



大量に仕入れたら割引されるっていうアレ?



「…お待たせしてすみません!私、テスル・ラダッサを扱っている業務部の…」


「あ、すみません、自分は名刺とか持ってないので…アポイントがあったと思うので自己紹介は無しで」



色々と考えてたらスーツ姿の…おっさん一歩手前であろうギリギリ青年っぽい男が、頭を下げながら自己紹介してくるので途中で割り込む。



…どうせ覚えられない上に俺が自己紹介しても無意味だからね。



「…そうですか、では早速用件に入りましょう」


「御社で扱ってる茶葉…テスル・ラダッサでしたっけ?を買い取りたいのですが…」



ギリギリ青年が椅子に座って話を切り出すのでうろ覚えの商品名を挙げて購入の意思を伝えた。



「買い取る、と言うのは輸入する…と言う事でよろしいですか?」


「えーと…そうですね、はい」



スーパーで買い物をするノリで話してるので、いかにもな言い方に変えられた事に若干困惑しつつ肯定する。



「…ユニオン共和国さんには本当にお世話になりましたが…輸出となると難しいですね」


「そうなんですか?」


「はい、ご存知の通り…この町は今現在戦闘地域に指定されてますので、軍の許可なく物資を町の外に運ぶのは無理でして…」



…目の前のギリギリ青年はこの工場の前の階段で青年から聞いた事と同じような事を話す。



「軍の許可?」


「はい、この町に駐在してる軍の許可ですね…一応ユニオンからのお達しで茶畑や工場を攻撃する事は禁じられてるようですけど、茶葉はどうとでも言い訳が出来る…と脅されてしまいまして…」


「…なるほど」



俺の疑問に分かりやすく説明してくれたので大まかな現状を理解できた。



「…ありがたい事にユニオンの方でもウチのテスル・ラダッサを気に入ってる人が多いみたいで…ウチの工場や従業員、土地や茶畑に手を出せばユニオンへの戦線布告と取る…と、両軍に圧力をかけてくださったようで」


「ほお…御社は美味しい紅茶を作るのにそこまでの信頼が…」


「いえいえ、本当にありがたい事です…ですが、輸出が出来ないと経営的に厳しく…早く戦争が終わって欲しいものです」



ギリギリ青年が嬉しそうに聞いてもないことをペラペラと喋るので…



適当に意外そうな事を言うと急に落ち込んだかのようにトーンが下がる。



「…もし、一時的にでも輸出が出来るような状況になれば…どのような価格で買い取れますか?」


「…そうですね…試算しますと、最高級の品質で1kgあたり40万ほどで…」



もしもの仮定の話をするとギリギリ青年は電卓を取り出して呟きながら計算を始めた。



…1kgで40万…100gだと4万?…中間抜きの値段がコレってヤバいな。



「…まとめ買いをする場合はもう少し安くなりませんか?」


「…難しいですね、ファースト・テスルは収穫量が非常に少なく…在庫も2kgしかないので…」



値段が値段なので交渉してみるも上手くは行かない。



…って、んん?ファースト?ここで作ってるのってそんな名前だっけ?



「ファースト?」


「はい、我々の茶畑で収穫できるテスル・ラダッサの中でも稀にしか収穫出来ない最高級品質をファーストと呼んでおります」


「…なるほど…普通のテスル・ラダッサだとどれくらいの価格になりますか?」



疑問をそのまま聞いてみると、俺が欲しがってたのよりもワンランク上の品質らしい…が、今はソレは関係ないのでスルーして尋ねる。



「…そうですね…まとめ買い前提であれば……kg単価あたり4000でどうでしょう?」



…リザリーが書いたメモには『kg単価5500まで下げて。』と書いてあるので条件は満たした。



「…譲って貰える分全て買い取りますので、もう一言」


「…分かりました、では3000で…流石にコレ以上は…」



一応交渉らしい交渉はしてないので、値切ってみると下げてくれる。



「ありがとうございます」


「いやー、商売が上手ですね…もしこんな大量の在庫が捌けるなら安くせざるを得ないですよ」



俺が頭を下げてお礼を言うとギリギリ青年は困ったように笑いながら会社の現状を説明した。



「今から契約書を作成しますので、少々お待ち下さい」


「あ、ちょっと待って下さい」


「はい?」


「あのファーストとかいう紅茶も提示された額でお譲り頂けないでしょうか?」



ギリギリ青年が席を外そうとするので、慌てて引き止めてさっきの話を持ちかける。



「ええ、大丈夫ですけど…契約書に上乗せですか?個人売買ですか?」


「個人売買でお願いします、譲って頂けるだけ…全部」



購入方法を聞かれたので、俺はバブルよろしくポーチの中から100万の札束を取り出してテーブルの上に置く。

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