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「手伝いだから大丈夫じゃない?」
「…だと良いんだがな」
母さんの楽天的な返答に一抹の不安を覚えながら後をついて行く。
…にしてもオフィスビルのロビーってのはドラマやアニメで見てたのと同様で開放的だな…
ゾンビが攻めてきたり、妖怪が攻めてきたり、魔物が攻めてきたりしたらこんな薄いガラスじゃひとたまりもなさそうだ。
…まあ、そんな心配が無いからこんな作りになってるんだろうけど。
「6階だって」
「へいへい…あ、そうだ…一応俺が息子だって黙っててくれよ?」
俺が辺りを見渡してると受付の人と何かを話してた母さんが移動場所を告げて来たので、後ろからついて行きながら念のために釘を刺す。
「なんで?」
「そりゃ一回死んでるからな、万が一調べられでもしたら面倒だし」
「…そう?でも分かった」
不思議そうに聞かれたので説明すると母さんはまた不思議そうに首を傾げるも了承した。
…これで一応は俺がこんなバリバリの私服で変に思われても母さんの評価が下がる心配は無くなった…と。
知り合いの通訳です、とかでも言って置けばなんとかなるだろ。
そもそも外人と話すのに通訳を用意しなかった側に落ち度があると思うし。
…日本に来るんなら日本語喋れるようになってから来いよ…と思わなくもないけど…
世界のどこでも通じる世界共通語っつーもんがあるんだから、こんな辺境な一部でしか使えないどマイナーな言葉なんて勉強するだけ無駄か。
世界から外れてるから異国なんて呼ばれてるワケで…
やっぱり世界共通語が普通に通じないってのも含めて国の名前通りなんだよなぁ…
外の常識も、技術力も、経済力も、言語も…
何一つ他の国々とマッチしてないってのもある意味凄い。
本当にこの島国だけがこの世界から次元隔離されてるようなもんだよ。
まさに現代のガラパゴス。
「…約束の時間の10分前…どうもおはようございます、『ヘイルトン』の遠間です」
「!やー、やー、良く来てくれました!私はこの会社で常務をやっております…」
母さんが腕時計を見て時間を確認し、挨拶しながら部屋に入ると…
中に居た中肉中背のカッコ良くも悪くも無いおっさんが頭を下げながら近づいてくる。
「今回は急な来訪者が居るとの事で通訳が居ないと聞きました…ですので私共の方で用意させていただきましたが…」
「あー、ありがとうございます!本当に申し訳ない!予定が入ってなかったので通訳は別の仕事に行っちゃってて…こちらの少年が?」
なにやらビジネストークなのか母さんがお堅い喋り方で話してると、おっさんが俺を見た。
「…通訳のジョン・ドゥだ、よろしく」
「いやー、まだ若いのに通訳の仕事をしてるなんて…偉いなぁ」
…身元不明の死体に付けられる名称を名乗ったのに、この国では関係が無いからか全く気づかれない。
「全く…この国はどうなってるんだ、共通語が通じない国なんて初めてだよ…」
「あちらの方が…?」
「そうです、言葉が通じないからか、さっきからずっとああやって窓の外を見て独り言を…」
バカにしたような言葉が聞こえたので窓際に座ってる奴を見ると、それにつられるように母さんもソイツを見て尋ねる。
「言葉が通じないなんてここの国民は猿かよ…全く、とんだ猿の国に来ちゃったもんだ…早く人間の居る国に帰りたい…」
「おい、誰が猿だよ?どこが猿の国だって?」
周りが聞き取れない事を良いことに?ブツブツと独り言で愚痴るバカに俺は不機嫌そうに話しかけた。
「え…!?」
「…何て言ってたの?」
「言葉が通じないなんて猿かよ、ココは猿の国か?ってバカにしてやがる」
「…それは酷い…!」
バカが振り向くと母さんに聞かれたので俺の聞いた事をそのまま伝えるとおっさんが驚く。
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