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いくらルシファーが瀕死の状態とは言え、今の俺じゃ速攻で瞬殺されるのがオチだ。
だからわざわざ召喚魔術で天界から上位の天使を喚び出した。
俺じゃ倒せんから天使の力を借りようってね。
ま、それを悟られないように上手く優位に立って交渉すれば一石二鳥になるだろ。
『借りを10だと…?ふざけるのも大概にするのだな』
「はあ?俺は別にいいんだぜ?このまま逃がしても、倒しても」
ただあんた達の顔を立てるために取引を持ち掛けてやってるんだ…どっちが優位に立ってるか分かるよな?
叡智を司る天使ケルビム様とあろうお方が今の状況を分からないわけがないだろ?
『少し…考えさせてくれ』
「いいぜ、選択肢はくれてやる…10秒だ」
頼む、呑んでくれ…今の俺じゃルシファーを追い詰める事は出来ても、倒す事は絶望的なんだ…!
感情に流されないで冷静に分析できるあんただからこそ喚び出したんだ、頼むぜ…!
内心の考えとは裏腹に、弱気を悟られないよう俺は腕を組んでケルビムを見下すようにして挑発的に笑う。
『…10秒、時間か……取引を呑もう、いや、呑ませてくれ』
さっきの態度とは対象的に急に大人しくなった。
おそらくこの取引の破格度に気づいたんだろう。
ルシファーは基本的には冥界の奥深くから出ない。
だから天界の神や上位の天使も手出しが出来なかった。
流石の神や天使も他の魔王や将軍、魔獣の大群を相手にするとなると少々分が悪いのだ。
ルシファーを本気で捕らえようとしたら冥界と天界の戦争が起きる。
だけど戦争を起こせば混乱に乗じて魔界が攻めてくるかもしれない。
捕らえたいのに捕らえられない。ってジレンマに天界は長年悩まれてきた。
それがローリスクハイリターンの取引で解消されるかもしれない、と言う事実に。
本来なら喉から手が出るほどの破格な取引。
ここでオジャンにしたらケルビムは智天使を剥奪される可能性もある。
それらを全て踏まえた上での取引。
断る事の出来ない状況で、自分の要求を全て呑ませる最良の交渉術。
今までの人生で培われた技術の結晶…の一部。
「んじゃ、取引成立だな…創造神にちゃんと伝えておけよ?貸し10ってな」
『分かっている、ではルシファーは連れていくぞ』
「くそ!貴様!絶対に赦さん!忘れんぞその顔!必ず貴様を殺す!覚えておけ!!」
ルシファーは消える直後まで俺に怨み言を叫んでいた。
ははっ、直接取り憑くからそんな事になるんだよ。
とは言え一部じゃ力不足だからな…仕方ないか。
おおかた記憶を盗み見て俺の顔が見えたから面白半分で取り憑いたんだろ。
いくらなんでもただの人間が儀式で大魔王クラスの本体を降ろせるわけがないし。
どんだけの術師だよ、未だに自力で降ろすとか聞いた事ないぜ?
まあ聞いた事が無いだけかもしれんけど。
俺だってレベルアップしてんだよ、読み違えるから負けんだよバーカ。
「はぁ…疲れた…」
俺はデカイ樹の根元に腰を下ろす。
流石に3連発で上位の光魔術の後に高位召喚術は消耗が激しいぜ。
あそこまでやっても倒せねぇんだもんなぁ。
でも流石に究極大魔術をやるには時間が圧倒的に足りなかったし…
あ、究極大魔術ってのはリザリーがニーナとやった魔術の事ね。
つってもアレで1/10の威力だぜ?
簡易詠唱だったから仕方ないけど、それにしてもあいつらの強さ半端ないからね?
三人での複合魔術も範囲が極小とは言え大魔術の域だし…
大魔術ってのは普通の魔術師が100人、上位の魔術師が20名集まらないと発動出来ないレベル。
賢者クラスとなると一人でも発動できるけど。
はあ…レベルアップしたのが俺だけじゃないにしてもさ…
あの三人と才能の差が開き過ぎてて鬱になりそう…
「はぁ…」
樹の根元で鬱一歩手前になりながら座ること一時間。
「ふあ~…ぁ」
そろそろ町に行かないとなぁ…でも眠くて動くのも怠いし…
「zZZ」
そのうち考える事を放棄して根元に背を預けて寝た。
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