3

「ふぅ…さっきの続きだけど」



俺はため息を吐いて話を戻そうとした。



最近の俺ってよくため息を吐くような気がするな。



『ため息を吐くと幸せが逃げる』って言うけども…



違うような気がする。



『幸せじゃないからため息を吐く』んだよ、きっと。



幸せならため息を吐く必要なんて無いし。



『幸せって何?』って聞かれたら今の俺ならこう答えるね。



『ため息を吐かない状態の事だよ』って。



それに人は不幸だと思うからこそため息を吐くと思う。



俺は『元』人だけどそれだけは譲れねぇよ?



とにかく!人は不幸を吐き出したいからこそ…



頭の中の嫌な思いや不幸な想いを自分の中から逃がしたいからこそため息を吐くんだと思うね。



そうすれば少しなりとも前向きな、ポジティブ的な考えができるようになるんじゃないかな。



後ろ向きな考えやネガティブな気持ちはため息として自分の中から吐き出せばいいのさ!



……何意味分かんない事を考えてるんだろう、俺。



しかもまた脱線してるし。



「?話戻さないの?」



俺が意味不明な事を考えてるとアルバトロスが待ちきれずに話を切り出した。



「あ、ああ…魔王の行方不明についてなんだけど」



俺は一旦間を空ける。



アルバトロスも一応俺の言葉を待ってくれていた。



「今は魔界にいるはず」


「魔界?なんでまた…」


「ソレしか方法が無かったんだよ」



俺はアルバトロスにおおよその事を説明をした。



俺が来た時には魔王が勇者的な人間に倒される一歩手前だったこと。



守るために必死になった結果、魔王を一旦逃がして俺が代わりに倒されたこと。




説明する場面は省略で。



「なるほど…でも」



俺の説明を聞いてもアルバトロスは納得がいかないような顔をしていた。



「いくら勇者が強いとは言え魔王がそう簡単にやられるとは思えないわ」



俺と全く同じ考えである。



「まあ普通はそうなるよね…」



『普通なら』だけど。



魔王に傷を負わせるぐらいだからあの勇者?も相当な強さだったと思うんだけど…やっぱり魔王に勝てるとは思えない。



そこで俺の推測だけど。



冥界の七大魔王が封印を解いたとされる悪魔が介入してきたんだろう。



冥界の封印された魔王『デストロイヤー』



その名のごとく破壊を司る悪魔。



今は七大罪の嫉妬、強欲、色欲、怠惰、憤怒、傲慢、暴食が有名だけど…



実際にはあと二つ。



『破壊』と『支配』がある。



本当なら大罪は『支配』『破壊』『傲慢』『強欲』『嫉妬』『憤怒』『色欲』『暴食』『怠惰』の九つだった。



だけど…『支配』を司る魔王はいなくなり『破壊』を司る魔王は封印されたため、今に至ったわけだ。



七大魔王が結託しなければ封印できなかったであろう魔王が介入してきたら、そりゃ普通じゃなくなるだろ。



「封印された魔王…」


「デストロイヤーって名前なんだけど…魔王と同じぐらい強いよ」


「それじゃ、それと戦った後に勇者が来たのね」


「もしくは勇者と戦ってる時に介入して来たか」



可能性があるとしたらその二通りしかない。



「そのデストロイヤー?が魔王と同じ強さだったなら、一応の説明がつくわね」


「半端ないくらいヤバイよ」



封印されているのを直で見た事があるけど…あんなのがこの世界に来たら間違い無く地獄になるよ。



まあ魔王が倒したんなら心配はいらないか。



…冥界に逃げてたら厄介だけど。



「ふーん…ねえ、なんで程人君はこんなに詳しいの?」


「秘密」


「あらそう」


「やっぱり話します、その手を離して下さい」



アルバトロスは俺のこめかみにアイアンクローを仕掛けてきた。



あんな力でアイアンクローされたら俺の頭蓋骨が砕けてしまう。



「そう?」



アルバトロスがつまらなそうに手を下ろすのを確認して俺は冷や汗を拭った。



「ほら、俺って一応調停の使者だから」


「調停の使者?」


「調停者の使い魔…みたいなもんかな」


「なにそれ?」



アルバトロスは顎に手を当てて考える素振りを見せる。



「その昔、総界戦争ってのがあったじゃん?」


「そう言えばそんなのもあったわね」



アルバトロスはそんな事はどうでもいい、と言わんばかりの返事をする。



「その時の各世界のトップが二度と総界戦争を起こさないようにって調停者になったんだけど」


「各世界のトップ?」


「人間界は織田信長、冥界はハデス、天界はヴィシュヌ、魔界は…」


「も、もういいよ」


「そう?」



せっかく魔界までいったのに。



まあいいか。



「それで、その元トップ達が戦争を起こさないようにバランスを取ってるんだけど」


「惨劇を繰り返さないために?」


「そ、でも調停者は世界を観察するだけで介入はできないんだよね」


「だから使者?」



やっと納得した、とアルバトロスは背伸びした。



「でも…程人君っていつ使者になったの?」


「魔王軍に入ってすぐかな?」



俺の力と能力の詳細や抑え方と使い方は調停者から教えてもらったし。



調停者に会いに行かなかったら今頃どうなってたかな…?



ま、多分今と変わらないでしょ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る