④
そして、二日後、本を返しに来る人がいた。
「『ざしきわらし』どうでしたか?」
「ああ、中々面白かった。十兵衛は、童話も書いていたんだな、子供に読ませたら大喜びで、友達にも貸したいって言っていた」
「そうですか、でも、又貸しはだめですよ」
「もちろん、しないよ、その子に、ここの店の事を教えておいた。近々来るんじゃないか?」
「ありがとうございます」
「また、一冊借りていくぞ」
「はい、一冊三文です」
「おう、家に帰ってゆっくり読むぜ」
そう言って、男の人はいなくなった。
「中々おもしろかった。そう言っていましたよね」
私の家に集まっていたお宮様と花ちゃんが興奮している。
「言っていたわ」
「つまり、大成功ね」
「みんな、そう言えば、お金を渡していなかったわね」
お母さんがそう言う。
「お金はね、貸本屋に二文、作者に一文と決まっているの」
「それじゃあ、私たちは、二文稼いだことになるのですね」
「前の本と合わせてね」
「あっ、そうか、『楓の恋物語』のお金も入るんだ」
「一冊借りられるごとに、一文ずつ渡すから、大切に使ってね」
「はい」
「でも、四十文位貯まったら、街で何か買いにいかない?」
「そう言う、目標があるのもいいかもしれないわね」
「そうでしょう」
花ちゃんが、偉そうにそう言う。
「私は、欲しい物なんかないけれども」
お宮様がそう言うと、花ちゃんは。
「初めて、自分で稼いだお金だよ、それで買った物がうれしくないわけないわ」
「う、うれしいわよ」
お宮様の声が裏返った。
(お宮様も人の子だな)
心の中でそう思った。
「何を買うか決めしょう」
「そうだね、おそろいの鈴とかどう?」
「鈴飾りの事?」
「うん、鈴飾りなら五文で買えるよ」
「小さいのはね」
「でも、いいな、鈴飾りかわいいよね」
「よし、目標は、十五文で三人の鈴飾りね」
「うん」
「ところで、花ちゃんの挿絵代ってどうなっているの?」
「お宮様が、本を書くたび私のお母さんに渡しているのよ、それで、お母さんが、勝手に使っちゃってる」
花ちゃんは、悔しそうにそう言う。
(つまり、花ちゃんには回ってこないし、自分で使えないのね)
心の中で哀れんでいた。
そんなことをしているうちに、七才ぐらいの女の子がやって来た。
「あの、『ざしきわらし』と言う本を借りたいのですが、この貸本屋にありますか?」
「はい、これですね」
「そうなの、はい、三文」
「待って、帳簿に名前を」
「茜です」
「そうなの、茜ちゃん、ありがとう」
お母さんがそう言って、茜ちゃんの頭をなでる。
「また、借りられた」
「一文入った」
「やっぱり、人気なんだよ」
「初め借りた人の知り合いだよね、もうすぐ来るだろうって言っていたもんね」
「そうだろうね」
「あの子、また、おもしろいって言ってくれるかな?」
「一回読んでいるみたいだし、大丈夫じゃないかな?」
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