そして、二日後、本を返しに来る人がいた。

「『ざしきわらし』どうでしたか?」

「ああ、中々面白かった。十兵衛は、童話も書いていたんだな、子供に読ませたら大喜びで、友達にも貸したいって言っていた」

「そうですか、でも、又貸しはだめですよ」

「もちろん、しないよ、その子に、ここの店の事を教えておいた。近々来るんじゃないか?」

「ありがとうございます」

「また、一冊借りていくぞ」

「はい、一冊三文です」

「おう、家に帰ってゆっくり読むぜ」

 そう言って、男の人はいなくなった。

「中々おもしろかった。そう言っていましたよね」

 私の家に集まっていたお宮様と花ちゃんが興奮している。

「言っていたわ」

「つまり、大成功ね」

「みんな、そう言えば、お金を渡していなかったわね」

 お母さんがそう言う。

「お金はね、貸本屋に二文、作者に一文と決まっているの」

「それじゃあ、私たちは、二文稼いだことになるのですね」

「前の本と合わせてね」

「あっ、そうか、『楓の恋物語』のお金も入るんだ」

「一冊借りられるごとに、一文ずつ渡すから、大切に使ってね」

「はい」

「でも、四十文位貯まったら、街で何か買いにいかない?」

「そう言う、目標があるのもいいかもしれないわね」

「そうでしょう」

 花ちゃんが、偉そうにそう言う。

「私は、欲しい物なんかないけれども」

 お宮様がそう言うと、花ちゃんは。

「初めて、自分で稼いだお金だよ、それで買った物がうれしくないわけないわ」

「う、うれしいわよ」

 お宮様の声が裏返った。

(お宮様も人の子だな)

 心の中でそう思った。

「何を買うか決めしょう」

「そうだね、おそろいの鈴とかどう?」

「鈴飾りの事?」

「うん、鈴飾りなら五文で買えるよ」

「小さいのはね」

「でも、いいな、鈴飾りかわいいよね」

「よし、目標は、十五文で三人の鈴飾りね」

「うん」

「ところで、花ちゃんの挿絵代ってどうなっているの?」

「お宮様が、本を書くたび私のお母さんに渡しているのよ、それで、お母さんが、勝手に使っちゃってる」

 花ちゃんは、悔しそうにそう言う。

(つまり、花ちゃんには回ってこないし、自分で使えないのね)

 心の中で哀れんでいた。

 そんなことをしているうちに、七才ぐらいの女の子がやって来た。

「あの、『ざしきわらし』と言う本を借りたいのですが、この貸本屋にありますか?」

「はい、これですね」

「そうなの、はい、三文」

「待って、帳簿に名前を」

「茜です」

「そうなの、茜ちゃん、ありがとう」

 お母さんがそう言って、茜ちゃんの頭をなでる。

「また、借りられた」

「一文入った」

「やっぱり、人気なんだよ」

「初め借りた人の知り合いだよね、もうすぐ来るだろうって言っていたもんね」

「そうだろうね」

「あの子、また、おもしろいって言ってくれるかな?」

「一回読んでいるみたいだし、大丈夫じゃないかな?」

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