6 夏帆と本性

 夏帆宅から帰る途中、暗い歩道橋の上で用心棒から連絡があった。同い年の。


「お前らのダンス、了承してくれたみたいだぜ」

「本当に!?」

「ああ。後、沙合。義永先生ってお前のピアノ教師、柳のダンスコーチだと」

「嘘、あの人ダンスもやってたんだ」


「驚くのはそれだけじゃない」


 驚くポイントなぞ、他にあっただろうか。私にはたくさんある。そもそも義永先生はピアノ専属だと思っていたし、何より夏帆とここまですれ違いに生きてきたこと。私たちには軸があったのに。


「これは、小さな巨人に話してもらおうか」


「……もしもし」


 優な声色は、まさしくヨッシーこと吉伊くんのものだった。


「コラボダンスを止めさせた理由、なんですが。その……夏帆さんの意志だったそうです。

 元々、レッスンスクールの方に女帝と言う人から圧力がかかっていたそうなんですが、沙合さんに迷惑が掛かるんじゃないかって。それで……」


 立ち止まるほど、私は夏帆の考えを理解した。


「でも、夏帆さんは先生がって言ったんですよね?」


「……あいつは優しいから、庇ったのよ」


 私と、先生。二人同時に被害を防ぐために、自分を犠牲にしたんだ。自分が引退したという姿勢を見せ、あくまでコラボダンスに固執していた自分を折ることで、自分を見下される人間にすることで私たちを守ったんだ。ダメで最低なやつなんかじゃない。仲間思いと一言で表せないけれど、それだけ重大なことをしてくれていたんだ。

 やっぱり、あれはキャラクターだったんだ。まるで出来損ないのような人格を作り上げ、墜ちたそぶりをしていただけ。


「……なんだ、私自身無くなっちゃったかも」

「どうしてですか」

「夏帆、すごいなって。単純に」


「ヨッシー、嬰、ありがとう。どうにかなりそう」

「はい!」


「行ってくる」


 夏帆の所へ、行こう。私たちの悔いの残らないように。

 暗闇を照らすスマートフォンの光は、希望のようだった。

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