33 先生と私

「先生。先生はきっと、おさびしいのでしょう」


温度のない無神経な声音のまま、きみは言葉をそのへんに放った。


「きみに私のそれがわかるのかい」


もしきみの言うことが正しいならば、シャワーのお湯が塩からいのも、手足がやけに冷えるのも、暗がりにうずくまりたくなるこの気持ちも、全部。


「いいや、先生。他人のさびしさなんて、こんなに遠くちゃわかりません。だから人と人は近づき寄り添うのですよ」


きみは両の人差し指を向き合わせてくっつけるようにしてみせる。


はは、まるで、まるできみの方が先生のようじゃあないか。


「そうか。きみが言うなら私は、きっと、さびしいのだろうな」

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