第十六幕:虹を映す少女

蝉の目覚ましに起こされる・・・民宿風水の朝は、目覚まし時計よりも先に蝉が鳴き始める・・・。夏限定の事だろうけど、蝉が元気な季節は、目覚まし時計にも夏休みがあってもいいのかも知れない。

蝉は元気そうだが、俺は夜遅くまでフォトアルバムの作成/編集作業を行っていた為か、まだ少し眠い・・・二度寝をするのも考え物か・・・とにかく起きるっ!


七夏「あ、柚樹さん! おはようございます!」

時崎「おはよう! 七夏ちゃん!」


部屋から出て、一階の居間へと向かう・・・階段を下りた所で、七夏ちゃんと、今日初めて出逢う・・・。


七夏「くすっ☆」

時崎「? どうかした?」

七夏「えっと、柚樹さん・・・頭にねぐせ・・・あります☆」

時崎「え? 寝癖・・・直してくるよ」

七夏「はい☆」


洗面所で顔を洗う・・・鏡を見ると頭にフックのような寝癖が出来ているので整える・・・が、これが、なかなかの曲者で・・・さすが「癖」と言われるだけの事はある。俺が寝癖と戦っていると---


七夏「柚樹さん! これ、どうぞ☆」

時崎「え?」


七夏ちゃんが蒸しタオルを用意してくれた。


七夏「蒸しタオルを使うと効果的です♪」

時崎「ありがとう」


七夏ちゃんも寝癖は蒸しタオルで整えているのだろうか・・・。


七夏「朝食、もうすぐですので☆」

時崎「ありがとう」


蒸しタオルで寝癖を整える・・・確かにこれは効果的なようで、寝癖はすんなりと収まってくれた。


凪咲「おはようございます」

時崎「おはようございます! 凪咲さん!」

凪咲「七夏なら、お庭かしら♪」

時崎「え!?」


俺は無意識に七夏ちゃんを目で探していたようだ。


凪咲「朝食、出来てますから、どうぞ!」

時崎「ありがとうございます!」


七夏ちゃんがお庭から戻ってきた。


七夏「あ、柚樹さん! ねぐせ、直りました♪」

時崎「ありがとう! 七夏ちゃん、助かったよ」

七夏「くすっ☆」


七夏ちゃんから借りていたタオルを返す。


時崎「七夏ちゃん!」

七夏「はい!?」

時崎「朝食、まだなら一緒にどうかな?」

七夏「はい☆ ありがとうございます!」


七夏ちゃんと一緒に朝食を頂く・・・毎日、こんなに「朝食らしい朝食」を頂ける事に感謝する。この中に七夏ちゃんが作ってくれたお料理もあるのだろうか? いちいち訊くのもどうかと思うので、自分の舌で判断する。


時崎「このタマゴ焼き、柔らかくておいしい!」

七夏「はい♪ お母さんのダシ巻き、とってもふんわりです☆」


なるほど。これは凪咲さん作のダシ巻き・・・という事か。


時崎「毎日、これだけの朝食を用意するのって大変じゃない?」

七夏「えっと、ご飯とお味噌汁は、毎朝作りますけど、いくつかは予め作っているお料理もあります」

時崎「そうなんだ」

七夏「ひじき、お魚、お豆腐・・・かまぼこは、切るだけですし、お漬物は、そのまま盛りつけるだけで・・・」

凪咲「七夏!」

七夏「ひゃっ☆ ごめんなさい!」


凪咲さんが苦笑いしながら、七夏ちゃんに声を掛けた。恐らく七夏ちゃんの話した内容に対する注意・・・という事だろう。七夏ちゃんは俺が「毎朝大変じゃない?」と話した事に対して「心配しないで」という意味で答えてくれたのだと思う。


凪咲「柚樹君、ごめんなさいね!」

時崎「いえいえ。ちょっと安心しました」

七夏「・・・す、すみません」


凪咲さんに、軽く注意された七夏ちゃんを見て、ちょっと可愛いと思ってしまったが、この原因を作ったのは俺だ。


時崎「こっちこそ、余計な事を訊いてしまってごめん」

七夏「いえ・・・」


このままでは、よろしくないので、話題を変える!


時崎「そう言えば、今日は、天美さんが来るんだよね!」

七夏「え? あっ、はい☆」

時崎「何時ごろに来るの?」

七夏「えっと、お昼前だと思うのですけど・・・」

時崎「・・・と、いう事は・・・」

七夏「???」


俺は、急いで朝食を食べ始める・・・。


七夏「ゆ、柚樹さん? 急にどおしたのですか?」

時崎「ごめん、ちょっと急ぐ・・・」

七夏「え!?」


今日、天美さんが来るという事は、あの時、言われた事を証明する機会だ。


<<天美「じゃ、あたしに勝てたら、いいのあげるよ♪」>>


先日、音楽ゲームで天美さんの点数より高い記録を出してはいるが、天美さんに勝つというのが点数の事をさしているのかどうか分からない・・・もしかすると「対戦で勝つ」という意味かも知れないからだ。


時崎「ごちそうさま! 七夏ちゃん!」

七夏「は、はい!?」


七夏ちゃんは、不思議そうな目で俺を見ている。


時崎「七夏ちゃん! 居間のテレビとPS、借りていいかな?」

七夏「え!? えっと、はい! どうぞです☆」

時崎「ありがとう!」


俺は、居間の大きなテレビへと移動した。

早速、PSの電源を投入して、「あの音楽ゲーム」を起動する。


時崎「確か、この曲だったな・・・」


あの時の楽曲を確認する・・・点数も、天美さんに勝っている・・・それ以外の楽曲は、言うまでも無く、天美さんが1位のままだ。もう一曲くらい天美さんに勝っておこうかな。一回だけだと「まぐれ」だと言われかねない。


俺は、楽曲の中から、天美さんの点数の低い音楽を選んだ。この選択は後で誤りだったと気付かされる。天美さんの点数が低いという事は、難易度が高いという事だ。


時崎「うー・・・」


俺が高難易度の音楽に苦戦していると、七夏ちゃんが隣に来てくれた。


七夏「その音楽、ここちゃーも難しいって話してました」

時崎「そうなんだ」

七夏「この音楽で良い点数が取れると、可愛い衣装が貰えるのですけど・・・」

時崎「天美さんでも、無理だったと・・・」

七夏「はい。ここちゃーは10回くらい挑戦しないと無理そうと話してました」

時崎「じ、10回・・・俺もう10回以上、挑戦してるんだけど・・・」


俺は、本気で、この楽曲と向き合う事にした。七夏ちゃんが応援してくれるのが心強い。もっとも七夏ちゃんは、新しいコーディネート用アイテムを試したいというのが、本音らしい。それから1時間程頑張って、なんとか天美さんの記録よりも高い得点を叩き出した。


七夏「柚樹さんっ! 凄いです! ここちゃーを超えました!!!」

時崎「あー、手が痛い・・・天美さん、よくもまあ、1回さらっと遊んだだけで、こんな点数を叩き出したもんだと、今、実感してるところだよ」

七夏「ここちゃーは、運動神経が鋭いですから☆」

時崎「おや、七夏ちゃん! お待ちかねの新アイテムが来たみたいだよ!」

七夏「わぁ☆ とっても、可愛いです!」


俺は、七夏ちゃんにコントローラーを渡す。


七夏「~♪」

時崎「ん? どうしたの?」

七夏「これ、ぽかぽかです♪」


PSのコントローラーは、俺の体温でかなり暖かくなっていたようで、ちょっと大人気なかったかなーと恥ずかしく思ってしまう。

七夏ちゃんは、新しい衣装アイテム・・・『チェック柄のスカート』に合うコーディネートを模索している様子。


時崎「これで、天美さんが来ても、とりあえず大丈夫か・・・」

七夏「柚樹さん、お疲れ様です♪ ここちゃー遅いですね」


七夏ちゃんに言われて時計を見る・・・11時を過ぎていた。すると---


心桜「こんにちわー! つ、つっちゃー。ごめん・・・ちょっと、遅れたっ!」

七夏「ここちゃー、いらっしゃいです! 大丈夫? 息が荒れてます」

心桜「大丈夫、ちょっと走ってきただけだからっ!」

七夏「・・・今、冷たいお茶煎れますね♪」

心桜「はは・・・ありがとー。つっちゃー!」

時崎「天美さん。お疲れ様」

心桜「おっ! お兄さん・・・こんちわー!」

七夏「ここちゃー。はいどうぞ☆」

心桜「ありがと。つっちゃー! ん~生き返るぅ~!」

七夏「くすっ☆」

心桜「んで、二人で何してたの?」

時崎「そうそう! 天美さんに勝ったよ!!」

心桜「ん? あたしに勝ったって? 何の事?」


俺は、テレビの画面を指差す。


心桜「おぉー!! お兄さん! 頑張ったね~!」

時崎「今、ちょっと手が痛いけど・・・」

心桜「あはは! んじゃ、お兄さんっ! 約束どうり、あたしのナイスショットあげる!」

時崎「ん? ナイスショット?」

心桜「そ。家宝推奨だよ!」


そう言って天美さんは、写真を一枚くれた。バドミントンのユニフォーム姿で、体育座りの天美さん・・・短いスカートだが、脚で上手く下着が見えない定番のショットと言えるが、何故この写真を・・・などと考えていると、


心桜「ご安心ください! 穿いてますから!!!」

時崎「ぶっ!!」

七夏「ゆ、柚樹さっ、こ、ここちゃー!!」

心桜「あははっ!!」

時崎「あー、せっかく勝ったのに、勝った気がしない・・・」

心桜「でも、お兄さんは、あたしのより、つっちゃーの方がいいよねっ!!」

七夏「こ、ここちゃー!」


・・・俺は天美さんの第二波に備える・・・もう、その手には乗らない・・・


時崎「もうっ! ガマン・・・するっ!」

心桜「え!? ガ、ガマンするんだ~・・・意外~・・・お兄さん、なかなかの忍耐力だね!!」

時崎「という訳で、この天美さんの写真、スキャンしてMyPadの壁紙に決定~!!」

心桜「げ!? ま、マジ!?」

七夏「ゆ、柚樹さんっ!!!」


七夏ちゃんが少し膨れた顔をしている・・・ちょっと珍しい・・・。


時崎「七夏ちゃんの写真もMyPadの壁紙にするよ!!!」

七夏「え!? そ、そういう事じゃなくって・・・えっと・・・その・・・もう、知りませんっ!!!」


そう言うと、七夏ちゃんは台所へ移動してしまった。


心桜「はーい。ごちうさ~!(ごちそうさま~!)」

時崎「え!?」

心桜「ま、その写真はホントにあげるよ。大切にしてよねっ!」

時崎「あ、ありがとう」

心桜「んじゃ、ちょっと失礼して~・・・つっちゃー! 凪咲さーん」


天美さんも、七夏ちゃんの居る台所へ向かった。


凪咲「心桜さん、いらっしゃいませ!」

心桜「今日は、お世話になります!」

凪咲「こちらこそ! いつも七夏と仲良くしてくれて、ありがとう!」

心桜「いえいえ」


天美さんは凪咲さんに挨拶をしているようだ。今日は宿泊するからなのかも知れないが、そういう所はしっかりしているなーと思う。


テレビの画面に視線を戻すと、俺の叩き出した点数と七夏ちゃんがコーディネートしたキャラクターが表示されていた。ある程度七夏ちゃんの好みが分かればと思い、何となくPSのコントローラーで、そのキャラクターの見る角度を変えたりしていると---


心桜「お兄さん! このキャラクターが好みとか?」

時崎「うわっ!?」


いつの間にか隣に居た天美さんに驚く。


心桜「あははっ!」

時崎「さっき、七夏ちゃんがコーディネートしてたから・・・」

心桜「ふーん・・・なるほどねー。つっちゃー!!」

七夏「はーい☆」


台所から七夏ちゃんの声がする・・・と、七夏ちゃんが和菓子とお茶を持ってきてくれた。


七夏「はい☆ 柚樹さん、ここちゃー、どうぞ♪」

時崎「ありがとう、七夏ちゃん」

心桜「ありがとー!」

七夏「くすっ☆」

心桜「ところで、笹夜ささよ先輩は?」

七夏「えっと、お昼過ぎになるって聞いてます」

心桜「そっか。じゃ、それまでどうする?」

七夏「私は、お着替え・・・かな」

心桜「つっちゃー浴衣姿のままだもんねー」

七夏「はい☆ あ、ここちゃー」

心桜「ん?」

七夏「お部屋、案内します☆」

心桜「案内って・・・いつもの部屋でしょ?」

七夏「そのお部屋は今、柚樹さんが・・・」

心桜「あ、そっか!」

時崎「俺、部屋、変わろうか?」

心桜「え!? いいよいいよ別に! ありがと。お兄さん!」

七夏「では、ここちゃー、案内します☆」

心桜「ありがと。つっちゃー! んじゃ、お兄さん、またね~♪」

時崎「ああ」


二人は二階の部屋へ移動する。俺はここで、これ以上ゲームをしている場合ではないな・・・。七夏ちゃんの力になれる事は無いか考える事にしたけど・・・すぐに思い付かない・・・。今すぐに出来て七夏ちゃんが喜んでくれそうな事は、このゲームで高得点を出して、コーディネートアイテムを増やす事くらいか・・・。しかし、今は手が痛い・・・。それよりも、七夏ちゃんに本当の虹を見せる方法が無いか考えを巡らせる・・・。七夏ちゃんにとって本当の虹は「翠碧色の虹」って事になるから、そもそもの言い方が正しくない。七色の虹が七色に見える方法って事になる・・・色が色として感覚されるのは・・・これは目/瞳・・・いや網膜の仕組みを知る必要がありそうだ。


二階から七夏ちゃんたちの会話が聞こえてくる・・・。


七夏「ここちゃー」

心桜「ん?」

七夏「このお部屋でいいかな?」

心桜「お、この部屋は確か・・・」

七夏「? どしたの?」

心桜「えーっと、なんだっけ、アイツは・・・いないか・・・」

七夏「あいつって?」

心桜「あの虫! あたしにタックルしてった奴!」

七夏「あっ、えっと、コメツキムシさん?」

心桜「そう! それ! コメツキムシ!!!」

七夏「別のお部屋にする?」

心桜「いいよいいよ、ここで! 笹夜先輩にコメツキ会わせる訳にはゆかないからね・・・それに別のお部屋って、もうひとつしかないし、笹夜先輩はそっちの部屋で」

七夏「はい☆」

心桜「なんだったら、あたし、つっちゃーと同じ部屋でもいいよ!」

七夏「くすっ☆ はい☆」


普段の七夏ちゃんと天美さんの様子が、少し分かってきた気がする・・・その時---


??「ごめんください♪」


玄関から声がした。お客さんかな?

とりあえず、俺は玄関へ向かう。そこには、白い肌に長い黒髪の綺麗な少女が居た。手には日傘を持っている。


時崎「い、いらっしゃいませ!」

少女「!? は、はい」


その少女は、少し驚いた様子で・・・ん? 黒髪の上で何かが動いた! これは虹!? その少女は、黒髪の上に虹・・・逆さ虹が映っていて、とても綺麗だ。髪に反射した光のハイライト・・・天使の輪なら知っているが、そこに虹を映す人を、俺は今まで見た事が無く、見とれてしまう・・・。


少女「あ、あの・・・」

時崎「!!! す、すみません!!!」

少女「いえ・・・」


少女の声に、自分を取り戻す。その時、


心桜「あっ! 笹夜先輩!!」


天美さんが現れた。助かった・・・前にもこんな事があったような・・・。


少女「心桜さん! こんにちは!」

心桜「こんちわー、笹夜先輩!!」

凪咲「いらっしゃいませ。高月たかつきさん、ようこそ風水かざみへ!」

笹夜「この度は、お世話になります♪」

凪咲「こちらこそ、お世話になります。ごゆっくりなさってくださいませ」

笹夜「ありがとうございます♪」

凪咲「それでは、失礼いたします」


凪咲さんは台所へ戻ってゆく。


笹夜「ところで、七夏ちゃんは?」

心桜「つっちゃー今、着替え中・・・」

笹夜「あら、そうなの?」

心桜「んで」


天美さんは、俺の方を見てきた。その意味は、俺でも分かる。


時崎「えっと、時崎ときさき柚樹ゆたと申します。民宿風水でお世話になってます」

笹夜「はじめまして。高月たかつき笹夜ささよと申します。お世話になります」

時崎「よろしくお願いします」

笹夜「こちらこそ、ご挨拶が遅れてすみません」

時崎「いえ」

心桜「あたし! 天美あまみ心桜ここなって言---」

時崎「それは知ってる!」

心桜「あははーっ!!」

笹夜「???」

七夏「ここちゃー、あ、笹夜先輩! いらっしゃいです☆」


七夏ちゃんが二階から降りて来た。


笹夜「七夏ちゃん、こんにちわ♪ お世話になります♪」

七夏「こちらこそです♪ あ、柚樹さん! えっと、高月笹夜先輩です! 笹夜先輩! えっと、お客様の時崎柚樹さんです☆」

時崎「あ、ああ。よ、よろしく」

笹夜「は、はい。よろしくお願いします!」


七夏ちゃんが、俺と高月さんを紹介してくれた・・・のだが・・・


七夏「???」


さっき、お互いに自己紹介をしたばかりなので、不自然な空気が漂う・・・その時、


心桜「あたし! 天美あまみ心桜ここなって言---」

時崎「それは知ってる! しかもさっき聞いた」

心桜「あははーっ!!」

笹夜「くすっ♪」

七夏「?????」


俺と天美さんの会話を聞いて、高月さんの表情が、少し柔らかくなった。天美さん、今のは狙ったのだと思う・・・流石という印象だ。


心桜「(ねねっ! お兄さん!)」

時崎「え!?」


天美さんが小声で話してくる。


心桜「(笹夜先輩、とっても綺麗でしょ!!!)」

時崎「(た、確かに・・・七夏ちゃんからは聞いてたけど)」

心桜「(笹夜先輩って、綺麗なだけじゃないよ!!!)」

時崎「(え? どういう事!?)」

七夏「ここちゃー!!」

心桜「え!?」

七夏「笹夜先輩を、お部屋に・・・」

心桜「あ、すいません。笹夜先輩!!」

笹夜「いえいえ」

七夏「笹夜先輩、こちらへどうぞです☆」

笹夜「ありがとう♪ 七夏ちゃん。それでは、時崎さん」

時崎「は、はい!!」

笹夜「失礼いたします」


高月さんは、とてもおしとやかで清楚な印象だ。そして、髪に虹を映す魅力的な少女だ。彼女を一度見たら、忘れられないだろう・・・。


時崎「天美さん?」

心桜「ん?」

時崎「さっき、天美さんが話してた、高月さんが綺麗なだけじゃないっていうのは?」

心桜「あ、それは、そのうち分かると思うよ」

時崎「そのうち・・・か」

心桜「そ。あたしたち、この後、お出掛けなんだ♪」

時崎「そうなの?」

心桜「笹夜先輩、今来たばかりだから、少し休憩してからだけど」

七夏「ここちゃー!」

心桜「おっ! つっちゃーが呼んでるみたい・・・」

時崎「ああ」

心桜「それじゃ!」


そう言うと、天美さんは、二階へと上がってゆく。

明日は七夏ちゃんたちが海へ出かけるのに、俺も同行させてもらう事になっているけど、高月さんに、その事は伝わっているのだろうか・・・。その辺りは七夏ちゃんや天美さんが話をしてくれると思うけど・・・。高月さんとは、たった今、会ったばかりだ・・・見たところ、物静かで人見知りするような印象を受けたが・・・高月さんの事も、もっと知っておく必要がある・・・というか、天美さんの話してた事も気になるので、もっと知りたいというのが本音だ。天美さんや、高月さんを知る事は、七夏ちゃんを知る事になると思う。


さて、とりあえず、居間のPSを片付けておこうかな・・・。俺は玄関から居間へ移動する。PSのゲーム画面は七夏ちゃんがコーデ中の状態だったので、俺は現在の状態を保存し、PSはスタンバイモードにして、テレビの電源を切った。


凪咲「柚樹君!」

時崎「はい!?」

凪咲「今日、お昼食は、どうなさいますか?」

時崎「え?」

凪咲「七夏は、天美さん、高月さんと、外で食べるって話してたから・・・」

時崎「そうなのですか?」

凪咲「はい。ですから、柚樹君も、一緒かしら・・・と思って」

時崎「いえ、明日はともかく、今日は一緒に七夏ちゃんと出掛ける話はしていないので・・・」

凪咲「そう・・・では、こちらで昼食、用意しますね」

時崎「ありがとうございます!」

心桜「お兄さん! 今日はつっちゃーと一緒に来ないの?」


天美さんが二階から降りて来ていたようで、声を掛けてきた。


時崎「今日は特に、七夏ちゃんと出かける約束はしてないけど?」

心桜「え!? なんで?」

時崎「なんでって言われても? なんで?」

心桜「だってさ、さっき、つっちゃーが、これからお兄さんも一緒にお出掛けするみたいな感じで、笹夜先輩に話してたよ?」

時崎「え? そうなの?」

心桜「うん」

七夏「ここちゃー、お出掛けの準備はできたの?」

心桜「あたしは、このまま出かけるつもりだけど、つっちゃー」

七夏「なぁに?」

心桜「お兄さんも、一緒に来るの?」

七夏「はい☆」

時崎「え!?」

七夏「え!?」

時崎「俺も・・・一緒なの!?」

七夏「えっと、そのつもりで、笹夜先輩にもお話したのですけど・・・柚樹さん、何かご予定がありました?」

時崎「それは無いけど、今日、一緒に出掛ける話は聞いてなかったから・・・明日なら聞いてたけど」

七夏「明日・・・あっ! そうでした!! 私・・・すみませんっ!!!」

時崎「いや、別に謝らなくてもいいよ」

心桜「つっちゃー・・・今日も明日もごっちゃになってるね・・・」

七夏「うぅ・・・すみません・・・」

心桜「んじゃ、今日は、お兄さんも一緒って事で!」

時崎「そういう事なら、よろしく! 七夏ちゃん!」

七夏「はい☆ ありがとうございます☆」

時崎「荷物持ちでも何でもするよ!」

七夏「くすっ☆ 頼りにしてます☆」


俺は凪咲さんに、お昼は七夏ちゃんと一緒に外で頂く事を話した。


笹夜「お待たせしました♪」


高月さんも姿を見せた。黒髪に映る虹が気になるけど、俺はその事には触れない事にする。理由は、七夏ちゃんには高月さんの虹が、どのように見えているのか分からないから・・・。


七夏「笹夜先輩! 少しお休みしてからにしますか?」

心桜「確かに、笹夜先輩、さっき着いたばっかりだからね」

笹夜「ありがとう。七夏ちゃん、心桜さん」


高月さんに何を話せばいいのか分からず・・・困っていると、


心桜「お兄さん!」

時崎「え!?」

心桜「笹夜先輩があまりにも綺麗だからって、見とれてちゃダメだよ!」

七夏「こ、ここちゃー!」

時崎「なっ!」

笹夜「こ、心桜さん!!」

心桜「あははー!」

笹夜「す、すみません。時崎・・・さん」

時崎「いえ。全然構いません。天美さん、ありがとう!」

笹夜「!?」

心桜「ん?」


俺は、天美さんが助け舟を出してくれた事くらい分かるので感謝とお礼を言う。


七夏「柚樹さん、私たち、これから外食しますけど、何か食べたいお料理ってありますか?」

時崎「何でもいいよ。七夏ちゃんのお勧めがあったら、それで!」

七夏「はい☆ ここちゃーと笹夜先輩は、何か食べたいお料理は、ありますか?」

心桜「あたし、ハンバーガーがいいな・・・なんてね! なんでもいいよ!」

笹夜「私も七夏ちゃんにお任せします!」

時崎「天美さん、ハンバーガーが好きなの?」

心桜「まあ、好きだけど・・・なんで?」

時崎「どうしてハンバーガーが出てきたのかなって?」

心桜「だって、今日の晩ご飯は、和食って聞いてるから、昼は洋食がいいかなーって思っただけ・・・」

時崎「なるほど。今晩のメニューって?」

心桜「蟹料理!!! だよねっ!!! つっちゃー!!!」

七夏「はい♪」

時崎「おぉ!!! 蟹料理!!!」

心桜「んー、今から楽しみぃ~♪ ・・・って、まだお昼食べてないけど」

七夏「くすっ☆ では、お昼は洋食で♪ 柚樹さん、笹夜先輩、いいですか?」

笹夜「はい♪」/時崎「ああ」


高月さんと同時に返事をしてしまった。


笹夜「す、すみません・・・」

時崎「こっちこそ、かぶせてしまって・・・」

心桜「おぉー! 相性ぴった---」

笹夜「心桜さん!!!」

心桜「あははっ! すみませんっ!」


虹を映す少女、高月笹夜さん・・・七夏ちゃんには、高月さんの虹は、どのように見えているのだろうか? 三人とも虹の事に付いて全く触れないので、ここは流れに合わせようと思う。


笹夜「・・・・・あ、すみません」

時崎「え!? あ、いや・・・こちらこそ・・・」


高月さんと、目が合う。高月さんの写真を撮る事を考えると、逆に自分が写されてるような感覚になりそうだ。

高月さんが映す人の心・・・七夏ちゃんや天美さんの心は、自然に映っているのだと思うけど、俺はどのように映ってゆくのだろうか・・・。


第十六幕 完


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次回予告


動かなくても魅力的な存在・・・それが弾みだすと、楽しい時間となってくるようだ。


次回、翠碧色の虹、第十七幕


「夏の街に弾む虹」


楽しい一時に、目的を忘れてしまいそうになるが、目的よりも大切な事もあると思う。

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