黒い靴下

 彼女はいつも靴下を片方しか履いていない。かわいそうだと思う自分に吐き気がする。

 地下鉄のホームの先頭は少し狭くなっていて、そこに二人でしゃがみこんだ。生温かい金属の柵に寄りかかって線路と平行に二人で並ぶと、ホームドアと壁の間にぴったりと収まる。

 彼女はキラキラしたプラスチックがいっぱいついたピンクのサンダルを蹴飛ばして、足を伸ばす。私はゴキブリみたいにてかてか光るこげ茶色のローファーを揃えて、膝を抱えた。

「笑わないの?」

 彼女はそう聞くけれど、笑えないの。言えないけれど。



終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る