第2話
あの日、あの人類が選別された日から1ヶ月。2人は母屋に備蓄されていた保存食をちびちびと食べ、森の動物たちを狩りながら生活していた。なぜか選別されたのは人類だけだったらしく、動物はたくさんいたから。
「みかちゃん! そっち行ったよ!」
「おう! 俺に任せろ! おりゃああ!!」
「ばっ、みかちゃんのバカ! そんな大声出したら気づかれ……」
「あ……」
気付いた時にはもう狙っていたうさぎは別の方向へとあわてて逃げ去っていて。やっと見つけた簡単そうな獲物だったのに、じっとりとした目でツァルツェリヤは螢丸を見た。あははと頭をかきながら明後日の方向に目線をそらして、螢丸はごまかそうとした。あいにくとそんな子どもだましに引っかかるようなツァルツェリヤではなく、反省というかやっちゃったという雰囲気だけの螢丸に右手に持った剣・早斬丸を鞘に収めながらそっとため息をついたのだった。
そう、普通の子どもなら何も考えずに保存食を食べつくし、飢えに死んでいったであろうがこの2人は違った。いや、この2人が違ったというわけではない。
この教会が違ったのだ。ただ子どもたちを保護するためだけの教会ではなく、迷宮と呼ばれる
ゆえに、先生たちがいなくなってしまっても、2人でなんとか生きていけていた。
迷宮、それは
「みかちゃんはバカなんだからもうちょっと考えた方がいいよ? もう、あんなところで大声出すなんて」
「だからごめんって。っていうかバカバカ言うなよ!」
「今回はうさぎだったからよかったし、この森には影族はあんまり入ってこないからいいけど、大きな声出したらばれるかもしれないんだからね?」
「うっ……」
「もう」
「本当に悪かったと思ってるって」
影族。『祖は、人が落とせし業の影』と言われ人の傲慢、戦争に使う道具として食べ物を食べず、長く不眠でも戦えるようにと人体実験を繰り返された被害者でもある種族のことだ。彼らの特徴は端麗な容姿と戦闘能力、そしてその身の周囲とともに成長する不老と、病気やけが以外では死なない不死性にあると言われている。なにより、混血と呼ばれる存在はそうでもないらしいのだが、純血と呼ばれる彼らは人間を恨んでいる。影族の中に流れる血は、人体実験を繰り返されていた時の記憶を刻み込んでいるらしく、その記憶を夢として伝えるからだ。だから影族は人間を憎み、殺そうとする。いや、確実に殺すのだ。
いまだ大声を出したことを怒っているツァルツェリヤに、ごめんごめんと頬をかく螢丸。へにゃりとその目つきの悪さをカバーするように目を垂らして笑った螢丸に仕方なそうに腰に手を当て怒っていたツァルツェリヤはこれみよがしにため息をつく。結局この日は罠にかかっていたうさぎを2人でさばいて焼いて食べたのだった。
そう、誰もいなくなってしまって。動揺して、悲しくて。でも平和だったのだ、確かに。この日までは。
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