001【2】

酒場のオヤジは溜息をついて俺を見てくる。

どうせこいつも俺を蔑んでるに違いないさ。間違いない。


「この前よぉ、剣士の知り合いに会ったらサラリーマンってのになっててさぁ……剣もろくすっぽ振れなかった野郎が今じゃ係長だって……」


「それはこの前聞いた……その時もツケにされた」


「知り合いの魔法使いなんてよぉ……なんたら細胞はありまぁす!つって論文出して有名になったみたいでさぁ……細胞見つける目があんなら魔法の一発もモンスターに当ててみろってんだ!」


「それは先週ニュースで見た……その時もツケにされた」


「…………おいオヤジ!ついでに今日のもツケだ!あばよっ!」


「おいテメェ!瓶くらいは置いて行きやがれっ!!」


俺はラム酒の瓶を持ったまま、酒場から夜の街へと飛び出す。

あの空に見える月をも、まるで俺を天から嘲笑っているかのような気がし、腹立ちが増してきやがった。


「チキショウ!オラァッッ!!!」


苛立ちが沸点に達した俺は、ラム酒の瓶を隣の建物に投げつける。

瓶は甲高いパリーンという音を立て砕けちったが、俺の怒りはあの瓶のように砕ける事は無かった。


「……もういい、今日はここで寝よ」


瓶を投げつけた建物に、丁度良く月明かりで影の差している寝床を発見する。


ラム酒を瓶一本ロックで飲んだ俺は、その千鳥足で何とか自分の体を絶好の寝床の場所まで運び、そしてそこで眠りについた。


落ちぶれた今の俺には、身分相応の寝床だった。

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