幽霊をまたいだ話

十坂真黑

前置き


 私はそれまで、自分は幽霊だとかそういったものには縁のない人間だと思っていました。実際、そのような体験をしたことは今までありませんでした。

 

数年前に今の住居に越して来た頃に、初めて「金縛り」に遭い、パニックになったくらいです。それも一度や二度ではなく、多い時には週に何度も起こったので、毎日布団に入るのが苦痛だったことを覚えています。


 布団の中で夢と現実を行き来しまどろんでいる最中に、突然"あの時間"はやって来るのです。金縛りになったことのある人ならば、分かるのではないでしょうか。意識ははっきりしているのに、何故か指一本も身体を動かすことのできない、あの感覚です。唯一まぶたを開けることはできそうなのですが、怖くて金縛りの最中に目を開けたことはありません。ただただ、意識が再び眠りつくのをじっと待つことしか出来ないのです。


 そんなある日、金縛りのほとんどは『身体は寝ているのに脳が活動している』ことが原因で起きる、いわば科学的に根拠のある現象だと知りました。引越しをして生活環境が変わったので、それがストレスになっていた可能性はあります。

 原因がストレスと知ると恐怖は無くなり、それからは金縛りが起きても動じなくなりました。ああまたか、と思いながらぼんやりくだらないことを考えて、金縛りが解けるか、眠り込んでしまうのを待つだけです。

 恐怖心と比例するように、しだいに金縛りに遭う頻度は減っていき、今では全くありません。


 さて、このように心霊や超常現象(もどきも含めて)への耐性が皆無の私ですが、実は一回だけハッキリと幽霊らしきものを見たことがあります。ただし、恐怖体験とはとても言えません。私自身が怖いとはあまり感じなかったので。

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