世界の様子

配下達


「お、揃ってんな」


 外の確認を終え、先程の広場へと戻って来た俺とセイハの前に、ズラリと勢揃いしているのは、我がギルドのNPC諸君。


 女盗賊ネアリアにメイド長シャナルも合わせ、人型は計五人。

 人型ではない、このギルドのペットとして飼われているデカく可愛いヤツらが二匹。


 人数は少ないが、全員育てられるほぼカンストに近いところまで強化されているため、NPCでありながらも非常に強い。

 アルテラ上級者相手だと全く敵わないだろうが、中級者相手だと結構いい勝負が出来るぐらいの強さはある。

 この世界だとどれぐらい通用するかが気になるところだ。


 ――結局、全員集合したか。


 俺達が姿を見せた瞬間、こちらに――というか、俺の方に向かって、ネアリア以外が小さく頭を下げる。

 ペット達も含めてである。ちょっとむずがゆい。


 細かいところだが、一応上位者である俺に対するこういう対応の仕方一つ取っても、ただのNPC時代とは全く違っているということがわかる。


「――と、そうだ、アイツらも出してやるか。『サモン、燐華、玲』」


 呪文――召喚獣・・・を呼び出す呪文を俺が唱えると同時、俺の少し前に二つ、魔方陣のようなものが淡い光を発しながら出現する。


 その魔方陣の中心へ、どんどん周囲から光の粒のようなものが集合し始め、やがてそれが治まったと思うと同時、そこにいたのは――二人の幼女・・


 一人が、四本の狐の尻尾と狐耳を生やした巫女服の子供。

 もう一人が、頭から鬼のような二本の小さな角を生やした着物の子供。


 二人とも、まるで精巧な人形のように非常に整った相貌をしており、思わず頭を撫でてしまいそうになるぐらいのちょうど良い背丈をしている。


「――あんちゃん!」


「おおっと」


 そう、にぱっと笑顔を浮かべ、俺の腰の辺りに抱き付いて来たのは、狐耳の方の幼女――燐華。可愛い。


「ん~!あんちゃんの匂い!」


「燐、失礼じゃ。離れんさい」


 その狐耳幼女、燐華を諫めるのは、鬼っ子幼女――玲。


「無理!あんちゃんいい匂いだから!玲もこっちにおいでよ!」


「…………」


 燐華の言葉に、恥ずかしそうにしながらも、少し期待を込めた眼差しでこちらをチラチラと見上げて来る鬼っ子、玲。

 何この可愛い生き物。


 ――二人ともこんなナリであるが、その正体は『召喚獣』である。


 あのゲームでは、テイマーでなくともモンスターを従えることが可能であった。


 この二人は、『召喚獣のスクロール』なるものをダンジョンのボスをぶっ殺した時にたまたま二枚入手したので、早速使ってみたところ、出現したのが『妖狐』の燐華と『夜叉』の玲だった訳だ。


 何故、幼女なのか。それは、ランダム召喚の結果なのでわかりません。


 スクロールを二枚使って、二枚とも幼女召喚獣が召喚したせいで、何度俺がロリコン野郎という風評被害をギルドメンバーから受けたことか。

 可愛いからいいんだけどさ。


 強さ的には、我がダンジョンのメンツの中では比較的遅くに仲間に加わったため、少しステータスが低く、まだまだ成長途中の子達だ。


 そんな二人の頭をポンポンと撫でてから、俺は促すように言葉を続ける。


「ほら、お前ら、ちょっとそっち座ってろ。大事な話するから」


「はーい!」


「わかりんした、主様」


 とてとてと向かって行き、広場に置かれた椅子にポフンと二人が座ったのを見てから、俺は正面へと身体を向ける。


「で、頭領、どういうつもりなんだ」


「まあ、そう急かすな、ネアリア。――ジゲル」

 

「ハ」


 俺の呼びかけに返事を返したのは、シルバーの頭をオールバックにし、顎髭を蓄えた、静かな雰囲気を醸している老執事――ジゲル。


 見た目はおだやかな老執事だが、実はこのじーさん、メインクラスが『狂戦士』というもので、NPCの内だと戦闘時に一番気性が激しかったりする。


 いや、特に雄叫びを上げたり高笑いをしたりする訳ではなく、ずっと微笑を携えたままではあるのだが、対モンスター戦とかになると一番派手で激しく、メッチャ血の吹き荒ぶ戦い方をするのがこのじーさんなのだ。


 仲間が育てたNPCなのだが、「なんかその方が面白いから」とかいう可哀想な理由で、そのクラスとなっている。


「お前はギルド全体の管理をしていたよな?どこか不具合とかなかったか?」


「不具合、ですか?いえ、特には。何かご心配ごとでも?」


 聞き心地の良いアルトの声で問い掛けるジゲルに、俺は肩を竦めて言葉を返す。


「あぁ。これからの話にも少し関係するんだが、大分おかしなことになっててよ。もしかしたらギルドの方にも、何かしら異変があるかもしれん」


「了解いたしました。後ほど、もう一度しっかりと内部施設の確認をしておきましょう」


「おう、よろしく頼むよ」


 老執事に向かってそう言った後、俺は再び正面を向く。


「さて、お前ら。本題と行こう。――なんか俺ら、知らんところに来ちまったらしい」


「? ご主人、ここはナグライトじゃないのー?」


 次に疑問の声を上げたのは、身体が小さく――というより人形サイズしかない、妖精のような少女。


 妖精族の少女、ファームである。

 

 魔法全般を得意とし、この小さな身体から繰り広げられる派手な魔法の数々は、それはもう物凄い威力を誇っており、『小型超威力砲台』などというあだ名を仲間内から頂戴していた。


 まあ、その代わり魔力関連の数値以外はメッチャ低いんだがな。


「ナグライトじゃない。さっきセイハと確認したが、いつの間にか外が草原になっててな。ピクニックにでも最適そうな感じの」


「ピクニック!ご主人、ピクニックしようよー」


「ピクニック!」


「燐、静かにしんさい」


 嬉しそうに声を上げたファームに、釣られて声を上げた燐華を玲が窘める。


「ハハ、ピクニックはまた今度な。――まあとにかく、俺らは全く知らんマップに来ちまったらしい。だからとりあえず、今後の方針を共有するため、全員集まってもらった」


『ユウ様他の、ギルドの方々は、いらっしゃらないので?』


 少し掠れた、独特のアクセントで話すのは、『ドラゴニュート』のレギオン。

 翼は無いが、全身に堅牢な龍の鱗を持ち、数本の角を頭部に持つ、蜥蜴顔の種族だ。


 メインクラスは『ロイヤルガード』。

 戦士型のNPCであり、その高いHPと攻撃力で堅実な攻撃を行う、まあいわゆるタンク職だ。


 このメンツの中からすると、一番まともなクラスに就いたヤツかもしれない。


「あぁ。どういう訳かな。俺だけらしい」


 フレンドリストは何故か残っていたのだが、それを見て確認した限りだと、俺以外の名前が全てグレーゾーンになっていたからな。


「俺達は、この世界について何も知らない。だから、今後の活動方針としては、まず情報収集。そのために人のいるところに向かおうと考えている」


 そう、情報だ。とにかく情報がいる。


 先程の猪マンモスのようにモンスターを狩り、何も知らぬまま自給自足で生きることも可能かもしれないが……まあ、それは面白くない・・・・・


 俺が、この世界を堪能するためにも、人のいるところに向かうべきだろう。


 仮に今後、俺以外のギルドのヤツがこの世界に現れたとしても、草原のあるこの周辺ではなく、俺と同じようにギルド内部に現れるだろうから、そこは心配していない。


「つまり……ギルドを移動させると?」


 メイド長シャナルの言葉に、俺はこくりと頷く。


「あぁ。ギルド移動用のキャンピングカーに扉を移してな。目的地も決めてないし、目的地の当ても立ててないが……まあ、気ままに行こうや」


 キャンピングカーとカッコよく言っているが、その実、ただのデカい馬車である。


 ただ、その馬車を引くのは馬ではなく、我が家のペット達であるので、恐らく現実の馬車より大分速度は速いと思われる。


 悪路も全く速度を落とさず、トップスピードで踏破することも可能だ。超揺れるが。


「……気ままな馬車旅。素晴らしいです」


「だろ?」


 隣に控えるセイハの言葉に、ニヤリと笑みを浮かべて頷く。


 何となくだがこの子、抑揚の乏しい喋り方をするし、仮面で顔を隠しているから、どことなく感情が薄いように感じられるが、結構感受性は豊かなのかもしれない。


 外に出た時も、草原の様子に感じ入っていたようだいな。


「そう言う訳だから、よろしく頼むぜ、ジグ、レグドラ」


『グルルルゥ』


『ギギウウゥ』


 俺の言葉に、最初に唸り声のような返事を返したのが、身体が数多の動物のパーツで構成されたモンスター、『キマイラ』のジグで、後に返事をしたのが、全身が血に濡れたような紅色の骨のみで構成されているモンスター、『ブラッディ・ボーン・ドラゴン』のレグドラである。


 コイツらはペットであるが、召喚獣の燐華と玲とは違い、フィールドやダンジョンに棲息する現地モンスターをテイムし、仲間に加えたヤツらだ。

 故に、幼女二人組のように召喚解除をすることが出来ず、常に場にいる必要がある。


 ただ、そんなのは大したデメリットじゃないし、モンスターの中では両方とも一応最上位に当たる種族であるため、ステータスは相当に高い。

 モンスターとして対戦した時は、なかなかに苦労したものだ。


 ちなみにこの二匹、身体の大きさがギリギリ広場にいられるぐらいで、明らかにギルド内部の通路より身体がデカいのだが、コイツらテイムモンスターはテイムした瞬間に身体の大きさを自由に変えられる能力を持つ便利仕様なので、その辺りは無問題である。


「とりあえず、短いが今後の方針はそんなところだ。人のいるところに辿り着いたら、また会議でもしよう。何か質問はあるか?」


「人のいるところに行くなら、また賞金首ハンターハンターでもやるのか?」


「あー……まあ、出来ることならやめておきたいな。この世界のことはよくわかってねーから、まずは穏便な方向で」


 ネアリアの言葉に、苦笑いしてそう答える俺。


 ――ゲーム内において俺は、メインクラスに『マイステン・ガンナー』、サブクラスに『マイステン・クラオン』を習得していた。


 前者は手数で押すタイプの攻撃系クラスで、後者は身のこなしが軽やかに、それこそ人外染みた動きの数々を可能にする補助系クラスだ。


 俺の出来ることは、戦闘。

 ゲームにおいての恥ずかしいあだ名は『無音の暗殺者』。

 得意技は、暗殺。

 生産系技能は皆無――いや、銃弾の生成は出来るから、一応少しは可能と言えるかもしれない。


 NPC、ギルドの配下達もまた、出来ることは戦闘全般。

 得意技は殺しの技能。

 生産系技能は、メイド長のシャナルがギリギリ有していると言えるかもしれないが、まあシャナルもサブクラスの方が『マイステン・マジシャン』という、魔術師職の最上位クラスに就いているので、戦闘が不得意とかそういうことは全然ない。


 ……どうよ、これ。

 マジでハードモード直行の未来しか見えないんだが。


 ネアリアが言っていた『賞金首ハンターハンター』みたいに、ゲームの時みたく人をぶっ殺して生きるなら楽だろうが、リアルであるらしいこの世界でそんな修羅の道を歩みたいとは到底思えん。


 ……いや、まあでも、戦闘技能があることは、そこまで悪くは無いか?


 一応、この世界にも先程遭遇したようなモンスターがいるようだからな。


 であるならば、そういうモンスターを狩って生活するような職業のヤツも、普通にいるような気がする。

 そういうことを仕事としていけば、一応人間社会でも生きて行けるか……?


 ……まあとにかく、そういうのを考えるのも、実際に人と会ってからだ。


「他に質問は?……よし、そんじゃあお前ら、これから慌ただしくなるからな。よろしく頼むぞ!」

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