6 恐怖の始まり
現在の時刻は午後8時前後といったところだろうか。
フリルを抱え、空を飛ぶこと約2時間。
勿論、途中で数回休憩を挟んでいるので、疲れは軽減されている。
そして現在、王都本部からの援軍と運良く合流し、あと1キロもすれば目的地に着くというところまできていた。
「あのーフリル?王都の援軍がくるなんて聞いてないんだが。」
「どうせすぐ合流するだろうと思い、言いませんでしたっ!」
そして、定番の誤魔化し笑顔。もはやこれには慣れた!
全然“すぐに”合流してないが、それはさておき。
「来ないだ俺のこと“可愛い系男子”って言ってたよな?」
「ええ、そうですが?そのままの意味ですが。」
何が疑問だと言いたい!そう言いたげな視線を感じ、フリルから意識を離す。
この事はガーネットやサファイアのいるときに聞いてみるとしよう。
―数分後
「うぐっ…目的地って、この近くだよな?」
「けほっ…なんだか気持ち悪い臭いがします。そのはずなんですが…」
俺とフリルが前線に立ち、援軍と共に前方の探索に進む。
「うっ…それにしてもアリスとフルールは何処に消えたんだ?」
「臭いの濃さが増してきます。けほっ…もう吐き気が………葉月くん今フラグ発言しましたね?」
進むにつれてだんだん息苦しくなっていく。
少しずつではあるが、地面に赤みがかったドロドロとした物が現れている。
歩く度にペチョ、ペチョといかにも如何わしいものを踏む音がなる。
その場は緊張と警戒の空気に包まれ、一部では多方向を向き暗視スキルで周辺を探っていた。
―ペチョ
「ひ、ひぃいいっ!?うぐ…けほっ、けほっ…だ、誰かライト持ってませんか?」
フリルが問うと、王都援軍の精霊使いであるコノハと名乗る人物が前に出た。
「コ、コノハさん…足元と前方を照らしてください。」
「はい只今。『ライトアップ』!」
その声と共にコノハの周りは微精霊が漂い、その隣にいた葉月達をも巻き込む形となった。
フリルは一瞬だけ綺麗…と見惚れていたが臭いはそのままの為にすぐ我に返った。
「げほっごほ…フリル、感づいてはいたがやっぱこれって血…」
「葉月くん…わ、私達の前に、二人分足跡ある…」
ハヅキの言葉を遮るように、何か恐ろしいものを見たかのようにフリルが呟く。
「じゃあまさか…。」
「アリスとフルールが危ない!」
フリルが涙目になりながら“お約束発言”をする。
―突然、前方に見える建物の影からだろうか、聞いたことある声…いや、悲鳴が聞こえた。
葉月は愚か、その場にいるほぼ全て人が声の主を察した。
「アリスだ、アリスの悲鳴だ!」
葉月ら一行はその声の元に急いだ。
★★★
―数十分前
「ね、ねぇフルール…」
「けほっ…何でしょうか?」
「変な臭い、あと何かが来るような、何処かへ逃げるような不吉な音が…するんだけど…。」
アリスは人一倍嗅覚と聴覚が冴えているのか、音で先の出来事まで察したらしい。
―ゴゴゴゴゴゴ…
「…!地響きです、何か―」
「何かくる!これは…あの建物から反対方向に駆ける音…!」
「よく分からないですが、一先ず隠れたほうがいいのでは?」
―ゴゴゴゴゴゴ…
「あ、あの木に隠れよう!」
フルールが指差したのは近くにあった三本の木の真ん中。
木に登って地響きが消えるまでの一時をやり過ごそうとのことだ。
「どうやって登…」
「まかせて!『トランスフォーメイション』!」
言葉を遮り、いきなり魔法を唱えたと思いきや、アリスの手にあった大槍は鎖状に変形。
変形した大槍を木に引っ掛けフルールの手を取り勢いよく飛ぶ。
―ゴゴゴゴゴゴ…
ギルド拠点と思わしきその建物からは怪しげな集団がせっせと遺跡の方に逃げようとしていた。
「アリス、あれって…」
そう言いながらフルールはギルドから出てきた集団の一部を指差す。
それは淡く赤い光を纏う宝石のようなもの。
「プ、プラチナレッドじゃない?!」
「しーっ!声が大きいっ!気づかれたら大変なことになりますよ!」
いきなりのプラチナレッド登場に驚き、思わず大声で叫んでしまったアリス。そんな彼女を落ち着かせようと必死なフルール。
―真ん中の木だけが若干揺れている奇妙な絵面だが、幸いその集団はこちらには気づかなかったようだ。
―数分後
例の集団がギルド拠点から完全に立ち去った頃。
二人はまだ木の上に居た。
「それにしても血生臭いわよね。」
「血生ぐ…やっぱ血ですよね。にしても死体や怪我人も居ませんし…。」
「そろそろ、拠点に向かいます?」
「そうしましょう、それにしても…」
「それにしても?」
「ハヅキくんとフリルさんってば、来るの遅いですよね。」
―数分後
「きゃははは、なにそれなにそれっ!」
「そうしてこの世界はぁああっ!」
完全に遊んでいた。
「まっ、まって!クスクス…フルール!きゃ、キャラ崩壊…ふふふふ。キャラ崩壊してるってば…クスクス」
―いつしか血生臭さをも忘れかけていた。
慣れたのだろうか―だがそれは違う。只、遊びに夢中になる余り、嗅覚が血生臭いにおいを感知しなかったのだ。
そんなこんなしばらくした後、アリスは遠くからこちらに向かってくる集団を発見。
「ん?あの集団は…フルール、わかる?」
「うーむ、あれは王都援軍の旗ですね!む、しかも先頭にハヅキくんたちいますよ。」
「王都援軍かぁ…というかハヅキくんたちに追いつかれる前に私達ですこし怪しげなギルドを探索しましょうよ!」
「そうしましょう。ではまず降りて…」
まるで何処かにあそびにいくかのようなノリでギルド拠点に向かおうとする二人。
木から降りたあとに気がついた、というか我に返った二人。
「ち、血生臭い…。行きたくない…。」
「仕方ないことです。もう降りてしまったのですから」
時間が経ち、より臭いの増した血生臭さの中、涙目になりながらもペチョ、ペチョと足を進めていく。
「一応、武装確認しとこ。フルールは平気?グスッ」
「私は平気です。アリスは、武装は大丈夫そうだね。…心の準備は、もう少し掛かりそうかな…?」
案の定、アリスの目に溜まった雫が溢れる直前であった。
血生臭さは半端でないほど濃さを増していた。
拠点の入り口に着いた頃には、恐怖の余りか。アリスは涙で目が見えない程であった。
何があるか想像できるような異臭の中、そのドアを開けるのは恐ろしいものだ。
このような役目、一体誰が進んでやりたがるだろう。
「でも、そろそろ踏み出さないと……?ハヅキくんたちかな?あの光は精霊つか…」
「わ、わかったよう!」
フルールが何か言っている最中、恐怖で怯えているアリスは
―大槍で勢いよく扉を開けた。
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