第651話 因縁の相手.5+α

記憶がフラッシュバックする。

これは、オレが本気で死にかけたゲルダリウスの剣だ。

剣の根本の植物が赤く輝きだした。


「あああぁぁあぁあああッッ!!!!!』


「シンゴ!!」


凄い勢いで魔力が吸い出されていく。

剣を抜かなければシンゴの魔力は根こそぎ抜かれ、死んでしまう。

せっかくシンゴときちんと向き合うことができたんだ。こんな所で終わらせる訳にはいかない!!


柄を掴んで引き抜こうとした瞬間、シンゴの右手が大剣を手放し、オレの足首を力一杯掴んだ。

何を、と視線を向ければ、シンゴはこちらを向いて覚悟を決めた目をしていた。まて、何をする気だお前。


「あいつに喰われるくらいなら…ッ、ライハ、お前に僕の力を!!!』


シンゴの魔力が一気に膨れ上がり、オレの方へと流れ込んできた。魔力だけではない、こいつ…!まさか!!


「何を考えてる!?こんなことすればお前は!!」


シンゴの手を離そうとするが、離さない。


「死ぬ、だろ? はっ!そんなの分かってる。どっち道死ぬのならな、…こんな録でもない人生で、一度だけでも…』


シンゴの目から涙が零れ落ちる。


「ちゃんと勇者として、正義の味方として、誰かの役に立ちたい…ッだよ!!』


「…ッ」


シンゴの力が巡る。

魔力だけではない。こいつは、それ以上の物を渡してきた。

そんな事が出来るなんて知らなかった。

もしかしたらシンゴは最後の力を振り絞り、不可能を可能にしたのかもしれない。


そう思った直後、フッとシンゴの魔力が切れる。それと同時に足首からシンゴの手が滑り落ちた。シンゴの体の中にはもう魔力は残っていない。生きるための魔力すら全て渡してきた。


虫のような息をしながらシンゴは満足そうに笑う。


「はは…、やった…。…遂に自由にしてやったぞ………ざまーみ…ろ…………………」


「シンゴ?シンゴ!!!!」


息は途絶えていた。


『あーらら。横取りされちゃいましたか』


シンゴの体からゲルダリウスの剣が抜けて、回転しながら飛んでいく。

その剣が男の手に収まる。


『ま、どうせ全部最後は俺のものになるんだけどな…』


景色が剥がれていく。

ひび割れて崩れて、本当の空間が現れた。


見たことのない部屋だった。

先程の空間よりは狭いがそれなりに動き回れる空間。

ゲルダリウスがいるすぐ後ろには階段が現れ、そのまま視線を上に向ければ王座が。


「…ウロさん」


王座の傍らにはウロがいた。

そして、王座には少年が王族の格好で腰掛け、うたた寝している。


いや、違う。

あれは脱け殻だ。

中身は此処にいる。


「あれが、エルファラの本当の姿か」


──そうだ。


約束通り手助けをしないでいてくれたエルファラが返答する。


『ライハ!』


バタバタとネコが双子を率いて戻ってきた。

あんだけ滅茶苦茶したのに怪我はない。


「……」


一旦視線をシンゴに向ける。

足元のシンゴの瞼を閉じてやった。


その仕草を見て、ゲルダリウスが嘲笑った。


『本当、勇者というものはいつの時代も気持ちの悪いことをするものですね? 敵だったのでしょう?』


「さっきまではな。今は、違う」


『はははは!本当、人間は面白い。……さて、アマツライハでしたっけ?』


剣の中にある魔力がゲルダリウスの方へと流れていく。


『最後の仕上げをしてあげましょう』


























第一の門にて。


「困った」


と、デアが呟いた。


「もー、何回目ヨー。困ったのはわかったってー」


それにビキンが答える。


「だってぇー!せっかく頑張って倒したのに此処から動けないなんて!足手まといも良いところじゃない!」


「仕方無いだろう。俺達皆派手に攻撃を受けたせいでニックとシラギクの結界が解けてしまったんだ。必要な事だった。今さら嘆くな」


「むぅー!!」


シェルムの言葉にデアは頬を膨らませた。

そうだ。必要な事だった。それでも初期でこんな脱落の仕方はカッコ悪かった。

瓦礫を退けて門をくぐり抜ける、そして一歩足を踏み出そうとして気が付いたのだ。結界が激しく損傷していることに。

慌てて残された魔法陣札で結界を張ったが、その代わりここから動けなくなってしまったのだ。


こんなことならもっと魔法の事を勉強しておくんだったとちょっぴり後悔。


三人ともボロボロで、シェルムも大きく削れた耳の止血をしていた。


本当なら今頃走って追い付いて合流したかったんだけどな、と小さく溜め息を吐きながら瓦礫にもたれ掛かった。

誰か結界を張れる人来てくんないかな。

そう思いつつこんな所で自分達以外の人に出会うわけがないと、もう一度溜め息を吐こうとした、その時。


「!」


人の気配を感じた。


弓矢を手に、様子を伺った。

そして、それをみてデアは顔を輝かせたのだった。

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