第539話 総力戦、開始.25

遥か上空で、アウソが産み出したのは水の塊が大爆発を起こし、崩壊していた。ボタボタと赤黒い塊が水と共に落ち、次いで、凶悪なウツボに似た巨大生物が地面に叩き付けられた。


アウソが勝ったか。


息切れを起こしつつ、同じく息切れをしているゴブリンの娘、メノウを見る。


『ねぇ…、これちゃんと攻撃通ってる?』


「………うーーーん」


怪しい。

通っているんだろうけど、オレの思った通りの攻撃が効いていない。何かに阻害されている感じだ。


一歩一歩とゴーレムがやって来ていたが、そのゴーレムは先程の炎の海を発生させた竜の火炎弾によって破壊された。ナイス、グレイダンと、ホッと息を吐く間もなく炎の海になったときは肝を冷やしたが、コノン周辺にスイが遠くから水の膜を張り巡らせたお陰で無事だ。


いや、あの状態を無事といって良いのか分からないが。


『…くっ、おかしい。何でまだ動ける』


「どういうこと?」


ネコに視線を滑らせても、ハテナを浮かべている。


『………ドラゴンさえ麻痺させる毒だぞ!』


嘘だろと言いたげな顔で言われた。

残念だったな、毒耐性は高いぞ。


『空気も薄くしているし!』


どうりで呼吸が苦しいと思った。


『魔力も吸い取ってるし!』


それは気付かなかった。


『幾重にも結界を張ってるのに、それでも攻撃が重いなんて反則だろう!!』


そんなん知らんよ。


「てか、結構色々細工されてたな。ネコ気付いてた?」


『ぜーんぜん』


「だよなぁ」


魔力吸い取りは、正直これよりもっとヤバイの喰らったことあるから何でもない。それよりも、いくら攻撃しても効きが悪かった理由が分かった。さて、ならどうしようか。


コノンの方はヘドロの動きが鈍くなりつつあるが、かといって長期戦になれば良くないことは十分に理解できた。


エルファラに相談してみる。


すると、投げ槍なのかと思う作戦が放り投げられた。

曰く、


『結界内一杯に氷生やして圧迫死寸前にすれば解くんじゃね?いくら攻撃が効かないっていっても、ジワジワと迫ってくる物理攻撃が効かないとは分からないだろう?』


とのこと。


なるほど、と思った。

確かに攻撃が効かないっていっても、潰されれば元も子も無いもんな。


オレも危険かもしれないが、試してみる価値はある。

すぐさまネコにも情報を流して共有すると、すぐさま『りょーかい』と返事が来た。


『くそ、いつもならすぐなのに、すぐにへたれる奴をいたぶれるのに…。この、反則野郎が!!』


メノウが再びモーニングスターを振り回す。

よし!ものは試しだ!


「ネコ!」


『うん!』


飛んできたモーニングスターをネコが容易く尻尾で弾き、そのまま地面に固定する。その予想外の事態にメノウの反応が遅れ、引き戻す前にネコが完全にモーニングスターを地面に縫い付けた。


その間、斎主を地面に突き立て集中した。

オレが普段出来ることいえば、地面を凍らせる事くらい。

何故ならオレは水の属性ではないから。だが、ここに来るまでに少量であるが水を出せる程には練習しまくった。

魔法はイメージが鮮明であればあるほど効果があがる。


チリチリと脳裏に浮かぶのは、あのリューセ山脈での雪崩と、エルファラとの空間で発生させた氷柱の檻。


それを、斎主に流し込むと、当時の恐怖、絶望の記憶が斎主の能力により威力を増倍させた。


何とか発生させた初級の流水属性の魔法で生まれた水が斎主の柄を流れ、刀身を流れ、地面に辿り着いた瞬間。



──ビキッッ!!!



ドンドンと音を立てて地面から人の背丈はあろうかという程の氷柱が次々に飛び出し結界内を満たしていった。


『…っ!!? んな!!?』


メノウが驚き、地面に縫い付けられたモーニングスターを引っこ抜こうとしていたが、迫る氷柱に思わず手放し、瞬く間にモーニングスターは氷柱の山へと消えた。


聳えた氷柱は成長する。オレの魔力を吸い取ってグングンと伸び、枝分かれした部分は他の氷柱と結合し、結界内の空間という空間を埋め尽くしていく。


何とか操作できる範囲内で、オレの周りだけ空間が確保できたが、メノウの方は恐らく大変な事になっているんだろうなと思いつつも手を緩めない。


メノウの悲鳴が聞こえる。


まだ潰してはない。結界を解く前に潰せばどうなるかわからないから。


『ライハ容赦ない』


「しかたねーわ。時間がないもん」


メキメキと結界が氷柱に押されて軋み始めた。

生物じゃないから、結界に触れてもダメージは無い。ああ、始めからこうすれば良かったなと思ったが、次こんな状況になったときにやろうと思った。


次は、無い方がいいけど。


「結界を解除しないと死にますよー!」


まだ生きてるだろう事を見越して声を掛けてみた。


『誰がお前なんかの指示に、ぎゃあああ!!!』


「意地張ってると潰れますよー!」


『棒読み』


「うっせぇ、苦手なんだよこういうの」


ニックなら楽しそうに笑いながらやるんだろうな。


遂に全ての氷柱が結界の壁に到達し、残った隙間を埋め尽くしていく。結界も、氷柱の圧力によってヒビがまんべんなく入っている。


そこでふと、あることに気が付いた。


「………声がしなくなってるけど潰れてないよな?」


『…、お?』


バキン、そんな盛大な音を立てて何かが割れた。


その瞬間結界が消え、障害物が無くなった氷柱が勢いが突きすぎて毬栗になったが、そこでようやく成長が止まった。


「ふー、厄介だった」


『ほんとにね』


斎主を引き抜き、裏に回ると、メノウが氷柱に取り込まれて氷漬けにされていた。

潰れる前に取り込まれたのか。

その際に胸元の石が破壊されたらしい。一石二鳥だった。


「よし、コノンを救出だ」


すぐさま踵を返し、コノンの方へと向かおうとして、思わず足を止めた。


『お久しぶりですね、ライハ様』


「…ウロさん」


ヘドロに呑まれたコノンの側に、ウロが立ち、こちらを向いて微笑んでいた。


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