第501話 隠密.9
封印術はあまり詳しくはないが、双子曰くこの結界自体は単純なものらしい。四方に柱となるものを添えられ、それに介入して書き換えることで解けるらしい。
「なぁ、なんかさっきからこの城おかしくないか?」
という説明を受けながらも、先程から感じる空気の感触が気になって集中できないでいた。
突然切り替わる空気、いや、もはや空気というよりも魔力、空間自体が切り替わっているような。
「今は気にするな、いずれ分かる」
「はぁ」
だが、それにタゴスが答えることはない。
モヤモヤとしながらも、ヤンの道案内に従いながら薄暗い天井裏を這っていく。それにしても、蜘蛛の巣も埃も殆ど無い。
『……! 主、此処、此処ノ下』
ヤンが尻尾で板を叩く。
だが、音は鈍く、すぐ下が石壁なのだと分かる。
板を取り外し、現れた石壁に
「一本線を入れれば発動するが、下に人の気配なんかは大丈夫か?」
先程意識逸らしの魔方陣で多少音を立てても気付かれずに行動できたが、突然天井に穴が開いて人が降ってきたら流石に効果が切れてしまうだろう。
「大丈夫だ」
ほんとかよ。
あまりにも即答過ぎて少し疑うが、ここでモタモタしていても時間の無駄だ。
線を引くと、魔方陣が輝き、その中心から砂化してざらりと下へと吸い込まれていく。魔方陣の円の所までの穴が開くと、すぐさまタゴスがその穴から下へ飛び込んだ。
着地するや、動物が嘶く。
その啼き声を聞き付けて、近くの扉が勢いよく開かれた。
「なんだ!?──っ─」
開かれた扉から現れた兵士の首が、宙を舞って地面へと落ちる。遅れて体も力なく倒れた。
元仲間だろうに容赦がない。
続いて降りて、ふと、血の臭いがしていないことに気が付いた。
見てみれば、首と胴体の方からは水に似た液体が出ているが、色は無色。そして、木の根っこに似た触手がうねうねと泣き別れになったモノを探して動いていたが、次第に弱々しくなり、萎れた。
これが、寄生魔に憑かれた人間の末路ってやつか。
見た目も言動も行動も『人間』だが、内側は全くの別物だった。
そこまで見たあとに、そう言えばジョウジヨも似た技で人間を操っていたことを思い出した。忌々しい。
「ちょ、う、受け止めてー!」
天井の穴からウコヨが覗いている。
そうか、降りられないよな。
「受け止めます!!」
両腕を広げて衝撃に備える。それを見てウコヨが飛び降りた。
どさりとウコヨの全体重が腕へと掛かる。
思ったよりも腕に掛かる衝撃が軽いなという感想を抱きつつ、地面へと下ろした。
そう言えば、最近受け止めるのは筋肉で思い男共だったなと思い出す。そりゃ、それ基準にしたらえらく軽くも感じるか。
「そやー!」
続いてサコネも飛び出し、同じように受け止め下ろす。
もう一度だけ兵士の亡骸に目を向けるが、そこにはもうぐずぐずに崩れたものしか無くなっていた。酷い。
「ああー、酷い。こんなことに使われて……」
「いくらなんでも可哀想」
二人が後ろの方を見て言う。そこで、ようやく動物の鳴き声がした方を見て衝撃を受けた。
『……か………ぅ……』
「……………嘘だろ……」
そこには、人間と魔物が歪に混じりあった異形が、鎖で念入りに拘束されていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます