第457話 虚空を見る.7
キリコの回想曰く。
「……先行ってんじゃなかったの?」
ルキオを発ち、マテラの森のなかでグレイダン達と遭遇した。頭を深く下げた状態で。
『その、えーと、キ、キリコ。お願いですから縁を結んでください』
しかもトチ狂ったことを言い出した。何故か敬語。
「そんなことしている暇じゃないでしょーが!!!さっさと行きなさいよ!!!」
ので、追い立てた。
これで終わりかと思いきや、今度はビャッカで遭遇。
ボロボロの状態で。
『お願いします!!!どうか!!どうか縁を結んでください!!!』
「くどい!!!!」
なのでまた追い立てた。
しばらく来ない日が続き、もう来ないだろうと思っていた。
だが。
『お願いします…。一生のお願いです…。これからある意味死地に行くんです…お願いです…』
と、仲間も土下座状態で現れ、ちょっと引いた。
なんだこの執念。怖い。
キリコはこんなにもしつこい奴を初めて見て困惑していた。
こいつ、竜だよなと疑問さえ持ち始めた。通常竜はプライドが高い。高すぎて先が見えないほどに高い。
その竜が頭を下げている。女に、しかも仲間巻き添えで土下座である。屈辱極まりないだろうに何がこいつをそこまでさせるのか理解ができなかった。
現にカリアもアウソも、これどうするの?という目でこちらを見ている。
恐らくだが、もう追い立てられない気がした。
土下座しつつも、その姿からは決意のようなものを感じた。
ある意味、死地に行くというのは嘘ではないのだろう。
しかし妙だ。
たかだか戦場に行くだけで、竜が死地と言うか?
竜は、キリコよりも頑丈で強い。実際ルキオ戦でも多少の怪我は負ったものの、重傷はない。
むしろグレイダン達が来たからこそルキオ戦が終わったと言っても過言ではない。
それが死地?
どれほどまでに、他の戦場は過酷なのか。
「…ひとまず、訳を聞くわ。返答はそれからよ」
グレイダンの話によると、モントゴーラの戦場は過酷だった。だが、ルキオに比べたらどうかと言われても同じ位という。
まずはじめが違うかららしい。
ルキオは初撃で瀕死のところに攻め込まれたから大惨事になっていたが、モントゴーラは備えが出来始めたところへの衝突だったから。
だけども、ルキオの時には居なかった悪魔三体に追い回され、危うく死ぬところだったらしい。
そこで、北の巨人に援軍を頼みに行くらしい。
あそこの戦場だけならまだしも、それが各地の戦場、いや、戦場以外にも現れれば人間の勝ち目は低くなる。それどころか、他の種族も終わる。
そうなる前に、全ての種族が手を組まねばと、グレイダンは思った。
そうすれば、きっとアギラの竜も動くはずだ。と。
だが、そうするためには極寒の地へと向かわなければならない。
キリコもそうだが、アギラの竜は寒さに弱い。体が固まり動かなくなる。
普段は魔力を断熱材替わりに身に纏い、体から発する熱を循環させて空の寒さを耐えている。だが、北の空は耐えられそうもないだろう。
死ぬかもしれない。
だが、だからこそ、悔いの無いように想いを告げ、縁を結びたい。そうすれば、気力で頑張れる
と。
とても真剣な顔で言われた。
「はぁぁぁ…、分かったわよ。仮だけど結んであげるわ」
そういえば、グレイダンと仲間の顔が明るくなった。
「ただし、条件がある」
『な、なんだ?』
「戦時中、縁を結んでいない奴も運ぶことよ。じゃないと嫌」
『わ、わかった。守る』
「後は、ちゃんと戻って来ること。アタシ達はイリオナで戦って待ってるわ」
キリコが手をグレイダンに差し出した。
「仮にもアタシの旦那候補になるんだから、しくじったら殺すわよ。アタシのこれからの人生をアンタに掛けるんだからね」
手を取り、グレイダンは立ち上がった。
顔は晴れ晴れとしており、先ほどまでの情けない表情は消えていた。
『絶対に成功させて戻ってくる。絶対に貴女を1人で生きさせはしない』
と、いうことよ。とキリコが締めくくった。
アギラのドラゴンとアシュレイは婚約すれば、一生添い遂げる。縁を結ぶというのは相当な覚悟が必要だったらしい。
人の姿になったグレイダンがキリコにすり寄る。
『だが!ちゃんと戻って来たぞ!!我妻よ!!』
「仮だっていってんでしょ!仮じゃあ正式な縁結びじゃないから妻じゃないわ」
『じゃ、じゃあ!戦争が終わったら正式に!!』
「考えとくわよ」
大変だな。と、ノルベルトは思った。
もっとも、ノルベルトの信仰する神も、夫婦になれば添い遂げるべきというのがあるから、理解はできていた。
といっても、相当な信者じゃない限りは再婚も普通にある。
「てことは、成功したって事ヨ?」
ビキンが言う。
『おお!猿の子。ばっちしだ!』
「猿の子って言うなあ!!」
尻尾が地面に叩きつけられている。
「とか言いつつ、魔法の臭いするわよ。誰かの助けがあったんでしょ?」
『ウグッ!!いや、それはあの!本当に死にかけてしまって!』
『姉さん勘弁してください。大将翼凍って動けなくなっても、足がある限り進めると言ってギリギリまで頑張ってたんです!!』
『まぁ、実際あの時、あの人いなかったら我ら全滅してたよな』
『言うな…、環境の相性が悪かっただけだ…』
仲間のフォローで、キリコはまぁいいわと引き下がった。
「じゃあもう出発するんですか?」
レーニォが寂しそうに言う。
「ちょっと弟子の顔見てくるよ。そっからは、気分によるかね」
「気を付けて行ってください。俺達もすぐ行くんで」
ノルベルトがそう言えば、カリアが笑う。
「あんた達が居ればコッチも安心よ。じゃあ、また後で」
「はい」
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