第327話 同じ穴の狢.11

ゾンビは凍った脚を無理矢理引きちぎって来ようとしていた。こうなれば時間の問題だ、というか、あの体内の蔓を何とか出来ないのか。


そう思っていると後方からゾンビの悲鳴と倒れる音が聞こえた。アレックスが周りの木々を全て焼き払い戻って来た。


「手間取った!!でももう大丈夫なんだぞ!!ゾンビは任せてくれ!!」


「頼んだ!!」


神聖属性の魔法弾を撃ち込むと、ゾンビの口から伸びている蔓が固まり、粉状になって消えていく。そして操られていた人はその場に倒れ寝息を立て始める。


『…ふーん、やるじゃない。でも、“間に合うかしらね”』


「!」


甲高い女性の悲鳴が上がる。

この異常事態に気付いた人がいるのか、なら早く逃げてくれとそちらに視線を向けると、女性はこちらを指差し、口を開いた。


人型ひとがたの魔物が!!人型の魔物が女性を襲っているわ!!!誰か!!兵士を呼んで!!!」


「!!!?」


「うわああああ!!!悪魔だ!!!なんで街の中に!!!門兵は何をしているんだ!!」


「下がって!!仕留めます!!風よ!火種を運び焼き払え、飛炎フィアフライ!!」


「待て!!火は…っ」


襲い掛かる火の玉を避けようとして、後ろにいるまだ生きている人の声を聞く。咄嗟に黒剣で叩き落とすが、落としきれなかった火が燃え移って叫び声を上げた。


「くそっ!!悪魔め!!人々を解放しろ!!」


オレじゃない!!

だけど、周りの人達はオレに向かって攻撃を仕掛けてくる。旦那が捕らえられていると、憎しみの目を向けてくる人。操られているんじゃない、なんだこれ、幻覚の類いか?


「さ!早くこちらへ!!」


『ありがとう、とても怖かったわ』


「!」


振り替えると、ジョウジョが男性達に守られながらこの場を去ろうとしていた。その中に剣をこちらに向けてくる人。


違う。その守っている奴が本当の悪魔だ。


「ジョウジョ!!何をした!?  !!」


右肩に鋭い痛みと焼ける臭い。

火矢が突き刺さっていた。


「こいつ、火矢が効くぞ!!どんどん射て!!」


「ちっ」


飛んでくる火矢を切り落とすが、兵士やハンターが集まってくる。周りには人質と化した人達がいて、オレが下手に避けるとその人達に被害が出てしまう。


『ーー知ってる?悪魔には人間を仕留めるための能力があるんだよ、例えば今の状況もそれさ。周りの人間達には私が“か弱い女の人”に見えている。とするなら、この状況は間違いなく悪魔に似た貴方の仕業だと思うでしょう?』


気が付けばジョウジョの服はこの国のものとなっていた。


『なんならあんたの仲間にも掛けてあげようか?今必死になってあんたを助けようとしているみたいだけど』


見てみると、アレックスが周りの人間に取り押さえられていた。どうやらオレが操っていると思われているらしい。アレックスが違う!その女が悪魔なんだと訴えているが、それが聞こえていないようだ。


悔しさに歯を食い縛る。


嵌められたのか。


ジョウジョはクスクスと笑いながら憐れみの目を向けて可哀想にと呟いた。


『今まで戦闘特化のとしか殺りあってこなかったんだろ?でも私は戦闘特化ではなく、能力特化のだからね。残念だったねぇ。…でも、大人しく私のものになるってんなら、術を解いて手を引いてあげるよ?どうする?小動物も助けてあげる』


背中には容赦なく矢が突き刺さっていくが、それを抜く気力すら無くなっていた。心の中ではそれは嘘だと叫んでいるが、それで皆が助かるのならという思いが掠める。





いや、むしろ、もう周りの被害など考えずにジョウジョを殺るか?



投降したところで、解放される保証は無いのだから。




「死ね!!!悪魔ァ!!!!」


視界の端に振り下ろされる剣が写った。


「………ごめん」


振り下ろされた剣が真っ二つになり、剣の持ち主が吹っ飛んでいった。黒剣で剣を斬り、手底突きを喰らわせたのだ。

男は転がっていき、気絶した。


途端、周りの殺気が膨らみ集中攻撃が開始された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る