第325話 同じ穴の狢.9
アレックスもオレも服がボロボロである。主にあの
「やっぱり血が落ちないな」
「門番に吃驚されたしな」
実は角の説明の前にオレ達の服を見て何があったのかと新米兵士を驚かせてしまっていた。見慣れてないとそうなるよな。
血は中々落ちない。
早めに洗っても茶色く変色してしまう事も多い。いっそのこと鎧でも身に付ければ楽なんだろうが、あれはあれで重いし、動きにくい。
それは三人とも同じなようで、その代案として
「高い」
「でもこれでだいぶ危険から遠ざかれるぞ!」
「問題はこれで悪魔の攻撃を受けきることができるかどうか、だ」
「うーーん……」
もはやそこらの魔物やルツァなら怪我一つしなくなっているが、悪魔だとどっかしら確実に大怪我を負う。
「二人買いなよ」
「ライハは?」
「魔方陣で何とかする」
「そんなのあったっけ?」
「なんか、反発のやつがあった気がする」
「ああ、あれか。でもアレ一回使い切りだし、隙間なく描かないとダメっぽいぞ」
「めんどくさ。オレも買うわ」
耳なし芳一みたいな事になったら洒落になら無い。高いが、これからの事を考えて買うことにした。
これで少しは持って欲しいけど。
「……!」
何かの音を聞き取り、顔を上げた。
とても小さいが、不快な音につい眉を潜める。
「どうした?」
「ライハ?」
「……………嫌な音がする」
「音?」
胸の奥がゾワゾワと荒立ち、その音のする方を探す。チチチチチと耳元で爪を鳴らされているようなその音が呼ばれていると感じて、足をそちらに向けた。
今すぐにでもその音を消したい。
そんなことを思って、走り出した。
「ちょっ、待つんだぞ!おい!ライハ!!」
「早い早い!!無理だ先いってくれ!」
人混みをすり抜けながら、次第に流れてくる魔力に怒りが湧き始めた。この魔力には覚えがある。ジョウジョだ。あいつやっぱり戻って来やがった!
「こっちか!」
路地裏に入り、壁を蹴って屋根の上に飛び乗り、更に濃い気配のする方へ。
なんであいつが街の中に入れたのかは分からないが、入ってこんな魔力を放出しているくらいだ。大人しくしている筈がない。
空気に血生臭さが混じり始め、その臭いに頭がクラクラとする。
それなのに悲鳴が全く聞こえない。それが酷くアンバランスで、逆に気持ちが悪い。
屋根も使って最短距離を行き、ようやく最も魔力の濃い場所に着いたオレは、目の前に広がる光景に驚愕した。
『あらぁ、久しぶりね。まさかこんなに早く見付かるとは思ってなかったけど』
花魁姿のジョウジョが死体の山に腰掛け、周りの人達はソレを見えてないように素通りしている。それどころか、若い男性達はジョウジョに惹かれるようにして近寄っていき、ジョウジョは木の実をもぐような感覚で首もとに手を添え、何かをすると男性は糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
『なんてね。私が呼んだから来たんでしょ?どう?一緒に。ここの肉はなかなか歯応えあるよ』
近くにあった腕をもぎ取り口に運ぶ。
鋭い牙が肉に突き刺さり、引かれるままに皮膚が裂ける。
それを、見て、一瞬口の中に獣の時に食んだ肉の味が広がった。目の奥がチカチカする。それがどんな感情なのかは知らないが、口は勝手に動いた。
「ふざけるな」
『本気よ。というか、もっと喜びなさい。今回はちゃんと本体が来てあげたんだから。あと、あんたが奪い返した小動物のガワ、目ェ覚ましたくない?』
「!」
『これ、なんだと思う?』
ジョウジョが見せたのは金色の小さな欠片。
『これはね、あんたの大事にしている小動物の意識の核の様なもの。これを入れてあげればまた動くようになる』
「なに!?」
『だけど私は親切じゃないからね!』
笑みを浮かべて、ジョウジョはそれを口の中に放り込んで飲み込む。
『私に勝って取り返してみなよ!制限時間はこの核が私に吸収し尽くされるまで!そうなったらもう二度と動かないから急がないとね!!』
「この野郎!!!!」
最大まで電圧を上げた雷の矢をジョウジョの頭めがけて射った。だが、その矢は突如下から伸びてきたたくさんの腕に当たり消滅した。人間の手だった。
「…嘘だろ」
死体の山が次々に起き上がり、こちらを見詰める。死体の口からは木の蔓が伸びていた。
『ああ、そうだ言っとくけど、この前戦った分体と同じ強さだと思ったら大間違いだよ。それに、“私は街一つ飲み込んできた”ばかりだ。簡単にやられはしないからね』
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