第288話 山脈越え.1

さて、初っぱな迷子になったわけだけども、この先で元の道に合流できる道があるだと判明したことにより思ったよりも楽に越えられるかなと気楽に進んでいたところ、予想外のトラブルが発生した。


「嘘やん」


『えー、ライハのウソつき』


「違う。犯人オレじゃない」


道が崩壊していた。

なんで?


天井が崩落してきたのかなんなのか知らないが、道があった箇所は土砂に埋もれ、掘ることもできない。何でだ。スマホの地図にはそんなこと描いてなかったぞ。


あらためてスマホを開き地図を見ると、今いる箇所に道に対して横線が引かれていた。どうやら見落としていたらしい。


「ごめん犯人オレだった」


『もぉー』


「どうしようかなコレ」


引き返すにもだいぶ時間が掛かる。こういう時に土属性の魔法が使えたら何か出来たのだろうか?

ニックの魔方陣とかも何か載ってないかと調べるも、生み出すのはあるけど消すのはない。土の壁を作るとき、その手前に作った体積分の落とし穴が同時に形成されるというのがあったが、これは結局道に蓋をするだけなので意味がない。


「どっか抜け道無いかな」


またスマホで捜索活動。

細いのはあるが、灰馬が通れないので却下。そうしていると、何だか小さい声が聞こえた。ネズミのような、鳥のような。


この鳴き声は聞き覚えがある。

華宝国の迷宮に潜ったときに聞いた、毛尾鼠ケオネズミだ。一匹だと雑魚だけど、集団になると恐ろしい奴だ。それが今回は複数聞こえることから、集団になっているらしい。しかもそれが段々近付いてくる。


何となくネコを見ると、キラキラした目で斜め上を見ていた。


視線を追ってみて、壁に小さな穴を見つけた。彼処から聞こえるらしい。


こんなところで鞄や荷物に穴を開けたくない。


地面にニックの本を見ながら壁と落とし穴セットの魔方陣を描くと、灰馬を後ろに下がらせて、ネコを抱えて退避。


『なにすんの?』


「んー、罠を作る」


ネコを鞍の上に置いて、地面に描いた魔方陣を踏みながら魔力を流し込んだ。

すると、下から土の壁が凄い勢いでスライドしてきて道を塞いだ。


『キキ、チイーーー!!』


次の瞬間に毛尾鼠ケオネズミの悲鳴のような声。穴から飛び出て、そのまま落とし穴に落ちたような音がした。しかもそれはしばらく続いた。どんだけ大量に来てたんだ。


ネコが残念な顔で壁を見詰め、オレは鼠が騒ぐ声を壁越しに聞きながら道を捜し、妥協に妥協を重ねた結果、一つの道を見付けた。


「はぁー、此処しかないか」


『道見つかったの?』


「一応な。結構険しいから協力しろよ」


『おーけー!』


待たせていた灰馬に跨がり、来た道を戻る。そして途中枝分かれした道を曲がり、上り坂へ。

本当はこのルートは行きたくなかったのだが、致し方ない。早めに火の魔法が使えるように練習しまくらないと。


そこから随分坂道を上った。途中休憩を挟みながらだが、流石の灰馬も疲れを見せてきていた。


「頑張れ、もう少しで泉に着くから、そこで少し休憩しよう」


灰馬の首を撫でてやると、尻尾が振られる。


そしてようやく道の先にボンヤリとした光が見え始めた。光苔と光る鉱石のものだ。坂を登りきり、オレ達はドーム状の空間へと辿り着いた。真ん中には泉、壁や天井には淡い光が無数にあり、まるでプラネタリウムだ。


灰馬から下りて、泉に行く前に石を拾って投げ入れる。が、何も起きなかった。近付いてみて、魚も見付けた。体をくねらす度に鱗がキラキラと黄緑色の光を放つ。


「おいで」


灰馬を呼び寄せ、水を飲ませた。

魚がいるということは飲める水だ。それに魚もきれいな水にしか生息しない種類のもので、水質はお墨付き。


ネコに頼んで魚を捕って貰い、魔方陣で火を起こして焼き魚にして食べた。


石が冷たい。いや、空気もひんやりとしてきている。


もう少し上がったら、しばらく眠ることができなくなるから、今ここでしっかり寝ておかないと。


『ライハ寒い』


「カイロ切れたか?」


『かな?』


ネコのカイロを確かめると、冷たくなっていた。もう一度カイロに火を起こして温める。首から下げて服の中に入れてやると『あったかーい』と喜んだ。


「……、そういえば、なんかあったな」


『?』


ふと、ニックの本に気になる魔方陣があったことを思い出してページを捲ると、後ろの中級魔方陣に体を暖める魔方陣があった。だが、凄く複雑で難しい。説明を見ても、《火》《風》《木》を同時に起こし、それを《水》と《土》でくるんで《重》で纏めて、また《風》で巡回させるという訳の分からない感じだった。つまりどういうこと?みたいな。


でもこれが描ければ魔力さえあればカイロよりも長い間暖かい。しかも、全身。


「……………………、でも描ける気しないっていう」


複雑で。

上級になると、時計の内部か何かのような更に訳の分からない構造のやつがゴロゴロしているから、まだ優しい方なんだけど。難しい。


一応描いてみようとしたけど、難しすぎてダメだった。もっと練習しよう。


新たなる目標を掲げ、灰馬とネコを集めて眠った。

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