第264話 素材を集めよ!.17

とりあえず一旦姿を見せたので、地面に耳を着けて足音を確認したり、また、足跡や踏まれた草を確認しながら進んでいっていた。


初めは魔物も警戒してかグネグネと蛇行していたが、その内安全だと思ったのかまっすぐ歩くようになっていた。


といっても、やはりそこは魔物。

人のように行きやすいところを見付けるよりも、敵に見付からないようにワザワザ歩きにくいところを行く。しかしオレ達は既にそんな道は慣れっこで、足元にいる蛇などに注意しながらもザクザクと進んでいく。その少し離れたところを汗だくになりながら酷く息を切らせて女性が追ってくる。


何故追ってくるのか。


仲間があんなにやられていれば、よほどの事がない限りは山を降りるだろう。


オレだって仲間の誰かがあんな血塗れで、しかも足食われてたら心配で頭おかしくなるかもしれない。現にカリアの時だって無理だったし。


(……仲間じゃなかった?)


いや、仲間じゃなかったとしても、誰か倒れてたら警戒くらいはするかもしれないが手当てとか、あとはなんか声掛けとかしないか?

もしくは敵だったとか?


「…………うーん」


考えてもキリがないか。


「どうした?」


「いえ、なんでもありません。ただ、さっきの人のランクもそうだけど、なんか色々違和感のあるなと」


「ああ……、それね。それは多分あのランクは金で買った物だからよ」


「え!ランクって金で買えるんですか?」


試験を受けて上がるランク。それは自分の強さの目安になり、そして自分の命を守るためのものだ。それを金で買うって、自分の命が大事じゃないのか?


「買える買える。裏ならそういう事専門の細工屋がいるからね。例えば、寄り本物に近いハンターごっこがしたい子供に祝い事で買い与えたりね。ただ、細工屋も捕まりたくはないから、敢えて本物と違う点を作ってる。さっきの登録証、左上の方に黄色の装飾の百合が大きく刻まれてたでしょ」


思い出してみれば、確かに百合が刻まれてた。オレ達の登録証にはないものだ。


「あれは、ギルド関係者の間で“これは偽物ですよ”っていう印なんよ。だけど、形だけ着飾りたい奴等にはそれの本当の意味を知ることもなく、細工屋も聞かれれば、高貴な方へお似合いの装飾を施しました。または、花言葉で“陽気”“天にも登る気持ち”という耳障りのよい意味しか教えない。その裏の“偽り”という意味を教えることはない」


「偽り…」


「そしてそのまま子供に耳障りのよい言葉を含め子供に与える。君はとても才能があったから、ギルドが君にこれを贈ってくれたんだよってね。それで勘違いしてギルドも依頼もすっとばし、自ら危険の地へ赴いて何人死んでるか。多分アレもギルドからの依頼とかは受けずに、そのまま噂を便りに来たって感じね」


「そうなんですか」


そう考えると、あの人もなかなか哀れな人なんだなと思ったが、残念ながら手助けをする義理は無いわけで。


この危険ランク付きの森に入ったからには、全てが自己責任の世界だ。

お互いの利益になるとなれば話は別だが、それ以外ではお互いに干渉しないようにする。それは依頼を達成させる成功率を高める為と、余計な犠牲者を出さないためだ。言い方は悪いが、足枷を嵌めたまま、運が悪ければ殺される相手とは戦えない。


「……はぁー……はぁー……、…………ってよ……」


後ろでなんか言ってるが、待つわけにはいかない。


草の倒れ具合を見るに敵が近いから。


「待ちなさいよ!!!強いものが弱いものを助けるのは当たり前の事でしょう!!!!」


ビリビリと鼓膜が痛む。


「あ!」


『ゲッゲッ、ギャハハ、ハハハァ……』


魔物の声が遠ざかる。


「……くそっ、また。  !!!?」


前方から殺気を押さえる気配かする。

ヤバイ。


「聞いてんの!?何とか言いなさいよ!!」


最後の体力を振り絞るように女性がやって来る。どうやら自分が仕出かしたことに気付いていないらしい。


「……………………このクソアマ全力で村へぶん投げ返してやりたい…………」


ぼそり。

そんな声がカリアから。


これは相当キテますね。


「カリアさん。これずっと付いてこられたら多分これからも邪魔されますよね」


「…………だろーね」


「ちょっと手荒になっても良いですか?」


このままだと魔物は討伐できないし、また犠牲者が出て、更にこっちがその犠牲者になる可能性もある。それだけは何としても阻止せねば!!!

鬼になれ、オレ!!

例え人でなしと言われてもオレは自分と、親しい人の命が大事!!他人はその次という優勢順位だ!!


カリアから「やってよし」のサイン。


ゆっくり振り返りつつ、イラつきと威圧を放ち始める。少しは身の危険の気配を感じて怯んでくれれば良かったが、そこらのハンターにも通じた奴がこの女性には通じず、やっと止まったと強気な笑顔さえ浮かべてやって来た。


恐らく、そんな気配を気にすることもない生活を送ってきたんだろう。


よしわかった。

それならこれからの人生で役に立てるようにオレがその人生初で感じる『恐怖』を教えましょう。


「ふん!ようやく言うこと聞くようになったわね!私はあんた達よりも弱いから、私よりも強いあんた達が守る義務があるのよ!わかった?」


「その強い者にも、選ぶ権利というものはある。自分の事を弱いと言ったが、その弱さを武器にして強い者を脅していい理由にはならない」


「は?なに?当たり前の事を言ってるだけでしょう?」


あんたバカじゃないの?そういう声が聞こえてきそうだ。


「それは、人の住む所で通用する理屈です。ここは魔物や獣の世界。弱いものは喰われるしかない強者の世界だ。自分の命を自分で守れない者が立ち入れる場所ではない」


「守れるわよ!ちゃんと鎧も来てるし、剣だってあるわ!」


「目の前にいる存在がどんなモノなのか、正しく認識することも出来ないのに?」


「……何言ってるの? っ!!」


少しずつ、女性に近寄りながら威圧と気配の押さえ込みを緩くしていく。ようやく女性にもオレが『混ざり気のない純粋な人間』ではないことに気付き始める頃だ。本当はこんなことしたくはないが、これも女性にとっての良い人生経験になるだろう。


鞘から短剣を抜き、確実に殺せる位置に立つと、しっかりと目を見て言う。


「オレの住んでた所には、死人に口無し、という言葉がある。まさに今にぴったりな言葉だと思わない?」


「ひっ、ひい!!!やめて!!!来ないで!!!!」


女性が剣を抜き放ち、目を瞑りながら剣を振り回す。それは、子供が木の枝を使って虫を落とそうとしているようにも見えた。

向かってきた剣を最低限避け、更に近寄る。


「いやあああああー~~~~ッッ!!!!」


女性は涙目で悲鳴をあげると、来た道を全力で走り去っていった。


粒子モードで見た限り、女性がまっすぐ走ればそうそう壁にはぶつからず村へ辿り着けるだろう。


短剣を戻し、息を吐く。


もう疲れるわ。


「ありがとうライハ。コッチも爆発せずに済んだよ」


「はい、どういたしましーーー

えぇ~」


まだ向こうを向いてるカリアの近くにある幹が握り潰された跡があった。これ、オレにビビったんじゃなくてカリアにビビったんじゃない?

そう思いながら、つい先程までのカリアの指が食い込んでいた肩を擦った。

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