第256話 素材を集めよ!.9
さて、角兎の跳躍突進は破壊力は最強だが、弱点も多い。まず、一度跳んでしまえば方向転換が利かないことだ。真っ直ぐ、目の前にいる敵を串刺しにして、そのまま木や岩に体当たりすれば終わり。そして、また、その巨体は突撃する際、下の方に空間があく。だからいっそのこと完全に体を伏せて上を通り過ぎるのを待てば良い。
だが、アウソはくるりと振り返り槍を構えた。
そして角兎の軌道よりも横にずれると、擦れ違いざまに槍を角兎の首に向かって振り上げた。黒い毛が舞い、槍が通過した箇所から赤いものが滲み出る。
「後は頼むさ!!」
「了解!!」
「まかせろ!!」
角兎の軌道上にはキリコとオレ。角兎の最高速度は飛び始めから約7~10m程で失速する。アウソが視界から消えたことによって、すぐさま目の前に姿を見せたオレ達に標的を変えた角兎だが、既に速度は落ちてきている。
「合わせるわよ!!」
キリコが一歩前に出て、右足を半歩後ろへと下がる、角兎の角がキリコの顔すれすれを通過した瞬間、キリコは大きく後ろへと仰け反り、両手を地面へと着けた。そしてぐるんとバク転をするかのように体を丸め、足裏を角兎の胸元目掛けて全力で蹴り上げた。
キリコの脚力はその気になれば余裕で二階程の高さに飛び上がれる程の脚力がある。その蹴りによって角兎の巨体はまるで逆
それを見ながら、オレは飛び上がり、纏威を発動させた手底打ちを角兎の胸へと放った。
突進の勢いと、オレの突きの威力で仰向けに引っくり返り、地面へとぶっ倒れた角兎はあっさり意識を飛ばした。
「あれ?角がない」
「ほんと。どっか飛んだ?」
地面に落ちたときに、根っこがうまく当たって折れたらしい。辺りを探してみてもそれらしいものは見つからない。遅れて来たアウソも一緒に探したが、見当たらなかった。
おかしいなと思いつつ戻る。すると。
「危ないじゃない。角こっちに飛んできたよ」
「あ」
「カリアさん」
角を片手にカリアが身を隠していた茂みからやって来た。その後ろから胸に手を当てながら呼吸を調えているアーリャ。
聞くに、角が高速回転しながら降ってきたのだという。
倒れた拍子に折れて、高く飛んでしまったパターンか。カリアがアーリャの近くで待機していてよかった。
角を地面に突き刺し、カリアが角兎の様子を見る。そしてオレを見て一言。
「完璧、上達したね」
心臓震盪、カリアから教わった技が綺麗に決まって、角兎は即死。なかなか難しかったけど、オレも体術もだいぶ上達したな。これで魔力をだいぶ節約できる。
「良い感じに血抜きも途中だし、そのまま干して処理しよう」
アウソの切った首から血が流れている。あの速度で動脈切断も凄い。
「ただ、角は気を付けるよ。角度によって折れやすいんだから」
「ごめん」
「気を付けます」
キリコと共に反省すると、さっそく処理に移った。
「……」
アーリャは手を唇に当てて考えた。
文句なしの合格。それに、これはもうCよりもBやAに匹敵するほどの力。
アーリャは今まで色々なパーティーを見てきたが、ここまで個人の力が高いのに、それでも連携が取れたパーティーはなかなかいなかった。それは個人の力が強ければ強いほど驕り始め、他者を見下し始めるからだ。
師弟のみで構成されたパーティーだから?
カリアを見る。
しかしカリアも師匠としての言葉はあるが、けして評価を上げるために無茶をさせたり、必要以上に貶したりも、過干渉も無い。だが、実力は十分にある。飛んできた高速回転をする角を即座に掴んで止めるのはなかなか出来ることではない。
それに、前に言っていた四人とも戦いかたが違うというのがとても不思議だった。普通、弟子は師の戦いかたを真似、師も自分の戦いかたや、動き、体の使い方すらも丸ごと教え込むものだ。それなのに、師弟関係なのに戦い方が違うというのはなんだか不自然な気もした。
資料を見ても弟子は
気配がおかしいだけで何が害があるわけではないが。まだ様子は見るつもりだ。
(というか、そもそも本当に師弟関係なのか?)
そう思ってしまうのも不思議ではない。だが、それでも考え方や、魔物との接し方は師匠のカリア譲りだという事は分かる。まず、この人達は何処か魔物は狩るべき外敵という意識よりは、獲物、若しくは食糧として見ているようにも見える。
角兎は
敵は敵。それを食べることはしない。
だが、この人達は完全に食べる気満々で、攻撃も最小限で仕留め、しかも攻撃の最中に血抜きを始めるという狂った事もする。そして、今、アーリャの目の前で角兎が順調に敵からただの肉へと姿を変えていっていた。
そんな様子を見ながら、アーリャは悩んでいた。
角兎、しかも
ただでさえ手配ミスで飛び級の試験だったのに、飛び級した先でこんなサクッと討伐されては本当にどう評価したら良いか迷う。
「う~ん……」
飛び級の飛び級でとか訳のわからない事になりそうだと頭を押さえて考えていると、フワリと良い臭いが。
顔を上げると、香ばしい焼きウサギが出来上がっていた。
そのなんとも美味そうな臭いに口の中一杯に唾液が溢れ出て、お腹が鳴る。アーリャは生まれてこの方魔物を食べたことはない。そもそも食べる機会などありはしない。肉なら家畜を潰して得られるからだ。でも、しかしなんというか、この臭いは堪らない。
知らず知らずのうちに、アーリャはごくりと唾を飲み込んでいた。
「アーリャさん、出来ましたよ」
妙な気配をさせている青年、ライハがタイミング良く、焼けた肉をアーリャへと差し出した。
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