第182話 手を合わせる
行ってみるとカリアが魔方陣を描いていた。
それはあの迷宮の時と同じ魔方陣だった。
「ここに取ってきた牙と角を置いて」
カリアの示すところに剥ぎ取った素材を置く。
「この魔方陣は対価が必要だからね。いい?よーく見てるよ」
カリアが銃を取り出し、あの時と同じようにターゲットマーカーに似た所に魔力を込めて撃ち込んだ。するとみるみるうちに素材は呑み込まれ、それに対比するように亀裂が塞がっていく。
「この魔方陣を描いてコッチが弾を撃ち込んだところ。銃じゃなくても、魔力を流し込めば魔方陣が発動して亀裂を塞いでくれる。この形を覚えておき、多分今後必要になるから」
「はーい」
恐らく使うのはオレくらいだろうけど。
アウソもキリコも手のひらに真似して描いて覚えようとしていた。
確認できる遺品だけ回収できると、大量の骨を一ヶ所に集めて近くに石を積んで簡単な墓標を作った。
オレは手を合わせ、この骨の持ち主たちが成仏出来ることを祈った。この世界でも、あの世があるのかは知らないが、それでも死後は穏やかに眠ってほしい。
「それは…、そうですか。いえ、見付けてくださってありがとうございます…!」
モーク村のギルドに遺品を届けると、ギルド長は悲しそうな顔をしながらお礼を言った。訊くとこの地域でよく人が消えていたので捜索願いが大量に出ていたらしい。
そしてギルド長の身内も被害者の一人だったと言う。
せめてものお礼と、ギルドから報酬を与えられた。カリアは断ったのだが、個人的な礼でもあるからと言われれば受け取るしかない。
あの洞窟の骨達は近々ハンター達の護衛を頼んで全て回収し、村近くに弔ってやる事になった。そうだよな、洞窟の仲よりも生まれ育った土に還った方が良いもんな。
次の日、オレ達は出発した。
目指すは次の亀裂の場所、ピーズフィプ山。
『おい、レエーラ・レエーロ』
上から降ってきた声にレエーは肩を跳ねさせた。降ってきた声はとても冷たく、そして怒りを孕んでいた。
『お前、人間に負けたんだってな』
『……クスラ・クスス様、も、申し訳御座いません、私…』
はぁ、と声の主は大きく溜め息を吐いた。
『北の地は我々が力を付けるにはもってこいの地。そこで人間を喰らい力を付けさそうと気を利かせて担当にしたと言うのに、この様か。聞くところによるとほぼ一方的にやられたそうじゃないか』
レエーは唇を震わせながら顔をあげた。
目の前には水の支配者、リヴァイアサン族の長であるクスラ・クススが堂々とした姿で珊瑚でできた椅子に腰掛けていた。頭に生えた立派な角に飾り付けられた装飾がシャランと音を立てる。
『しかも水産みの秘宝まで取られて、何をしに行ったんだ。人間に秘宝を贈り物しに行ったのか?』
『違います!お聞きください!理由があるのです!!相手側に、人間に力を貸す同族がいたのです!!それさえなかったら負けていませーー』
『黙れ』
レエーは固まった。
クスラ・クススは立ち上がり容赦ない怒気をレエーにぶつける。
『ウローダス様の壮大な計画を台無しにしたいのか?それとも俺を馬鹿にしているのか?』
青ざめた顔で首を横に振るしかできないレエー。その瞳には涙が溜まりきっていた。
『まぁ、いい。こちらも弱者を養う余裕は無いのでな』
『お待ちください!!私はまだーーー!!!』
ぞくりとレエーの背中に鳥肌が立った。
振り替えれば、視界一杯に闇が広がっていた。
『お前の代わりは他にもいるんだよ。役立たずは闇に還れ』
バクン。
その音を最後にレエーは呆気なく消えた。
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