第138話 地味な呪い
「お帰りなさいませ。連絡はすでに来ております。ジュノと竜を救っていただきありがとうございました」
始めの門へと戻ってくると、門番のエムウラが馬を連れて待ってくれていた。
その手には虎梟。
「助かります」
「行き先は山の守人のところです」
カリアは虎梟の足についた筒に紙を小さく丸めて入れる。
その紙に書かれているのは今回の依頼の内容と、その結果だ。次に行くのは華宝国だ。華宝国に行くにはマテラから北よりの道を通り国境を超えるか、ルキオのクニチブル港街から船で海路を行き国に入るか。
マテラから華宝国に入るルートはあまりにも日数が掛かる。かといって山に行くルートと港街に行くルートは方向が違う。
なので仕方がなく虎梟を飛ばすのだ。
「じゃあ頼むよ」
虎梟の頭を軽く撫でてカリアが腕を押し上げるように大きく上へと振り上げた。その勢いに乗って虎梟は高く高く昇っていき、風を捕まえるとあっという間に姿が見えなくなった。
「これは今回の報酬です」
エムウラが包みをカリアに渡す。
「これは?」
「母成る木、世界樹の葉から紡ぎ出した反物です。数年に一度しか出来ない物なので大変貴重で、高値で売れます」
「これはありがたい」
見せて貰ったのはきめ細かく、光を反射する雪のような布だった。これは王族とかが大喜びしそうな物だな。
「大切に使わせてもらう」
カリアはそれを仕舞い直すと荷物鞄の奥に隠した。
「それでは良い旅路を」
エムウラに見送られ、出発した。
灰馬のエムウラから離れるときの悲しそうな顔。毛艶が良くなった所を見るに相当丁寧に世話をして貰ったらしい。
こんながさつな主人ですまんな。
久し振りに馬をガン飛ばしして数日。
大きな通りへと辿り着いて馬を引いて行くと、マテラとは違う街並みが見えてきた。
最初は森かと思ったのだが、違う。あれは街を仕切る壁変わりの防風林だ。
鱗の形をした葉を木の低いところから天辺まで余すことなく密集して生えている。
しかしマテラとは違い列がない。
人々は実にスムーズに赤い鳥居のような門を潜っていく。見たところ門番も居ない。
「門番いないの?」
「え?ああ、うん。ルキオには基本行き来自由なんさ。唯一王都だけかな、いるのは」
「面白いわよね、普通はどこの国にもいるのに」
「下手したら壁すら無い所もあるよ」
「それは凄い」
防犯意識どうなってるんだ。
「そこは、ここは龍の縄張りだから、この土地に対して悪意や過剰な欲があるものは龍達の怒りを買って勝手に国を出ていくばーて」
「例えば?」
「動けなくなるほど重い風邪を引いたり変な怪我を毎日したり、それが国を出るまで絶対に治らない」
「うわあ」
地味に嫌だな。
一種の呪いじゃないか。
「ただでさえここは色々な龍がやって来るところだから、そうそう下手なことは考えんよ」
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