第107話 積み重ねろ

今夜の成果。


「なんか、見えそうで見えなかった!」


もどかしい。

チャンネルは合っているのに、電波が悪くて受信が上手くいってない感じがする。


『手をワサワサうごかすのキモいから止めて』


「すみませんね」


そしてネコはボヤけた状態のまま耐え切ったらしい。こやつ、出来る。

岩の横で眠そうに欠伸するネコはボヤけてはいるが呼吸も安定し、魔力を見ても上手く曲げて自分の中に戻していた。


そして少し離れたところで魔力を使ってずっと何かよく分からないことをしていたザラキに声を掛ける。


「ザラキさん、もう少しコツ的なものないですか?」


ザラキがこちらを見て「ない」と一言。


「つーか、もうそこまで来たのなら自力で何とかするしかない」


「ですよねー」


悔しい気持ちを押さえつつ下山する。

さて、軽くご飯を食べてしっかり寝て体力を戻さないとな。




昼。


「うおおおおおおおおお!!!」


山式シャトルラン開始。

今回はザラキの先導は無しでネコと共に駆け回る。昨日、今日やってみて分かったのだが、オレ登るよりも降りる方が苦手らしい。

落ちそうっていう恐怖心の所為もあるからか慎重になっていたけど、ちょっとした出来心で実験を行った。


実験その①


わざわざ木にぶつかって減速していて痛い思いをしていたので、あえて腕をフックのように引っ掻けたり、少し段差のあるところは跳んで幹に着地して威力を消したりしてみた。その結果、大分降りるのが楽になった。

時々失敗して体を強打するんだけど、そこはキリコやカリアの修行で耐久が上がっていたらしいから怪我はまだしていない。痛いけどね。



実験その②


「せいっせいっせいっ!!」


調子にのって崖を登るときに三段跳びを試した。

二回ほど失敗して落下したが、三回目で成功。


以降更に調子に乗ってアクロバティックな動きを取り入れ始める。


元々足腰の筋力増加にバランス感覚は良かった方だから、足りなかったのは勇気だけだったんだよね。基礎は出来ていたって事だ。


「やべぇ、めっちゃ楽しい!こんなことならもっとパルクールの動画とか観ておくんだった!!」


『ぱるくうるって何?』


「えーと、なんて説明したらいいんだろう。町中の壁とか屋根を忍者みたいな動きで移動する人達の事」


『にんじゃって何?』


「……説明あとじゃダメ?長くなるから」


『いーよー』




そんな感じで楽しくなってきた山式シャトルランを続け、気付けば。


「ふっ!」


空中宙返りなんかも出来るようになっていた。

恐怖心よりも楽しさが勝る。


枝から枝に余裕で跳び移りしちゃう程には技術が向上していた。これ、二週間も続けたらそのうちザラキのような動きが出来るようになるかもしれない。





夕方。


弓矢を持って屋根に登る。


「おー、いる」


空を見上げれば昨日の鳥達が山の上を旋回中。今日こそはちゃんと実力で仕留める。

しっかりと呼吸をして集中力をあげて空を見れば、昨日よりもはっきりと風の粒子が見えるようになっていた。


あとは昨日の感覚を思い出しながら弓を引く。


「当たれ」


乾いた音をさせて矢が空へと飛んでいった。

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