第85話 リ・ターン
そこから約一週間は近くの街の病院で快適に過ごした。ストレスは無く、食べ物は美味しく、危険はない。まさに天国。
「ライハ!」
「アウソ!久し振り!!」
そしてようやく目を覚ましたアウソとご対面。なんか腕を三角巾で吊ってるのと少し痩せた以外は比較的元気そうだった。
あまりにも嬉しくて思わずハグをしてしまったほどだ。もっとも腕を吊ってるのが気になるので軽く背中に腕を回す程度であったが。
体を離してずっと気になっている腕のことを訊ねてみた。
「何で腕吊ってるの?折ったの?」
「なんか知らんけど腕折られそうになって死ぬほど抵抗したらヒビ入るだけで済んだんさ」
ケラケラとアウソは笑っているが腕を折られるなんて嫌だな。
「良かったな、折られなくて。いや、ヒビ入っている時点で良くはないけど」
「んー、まあ折らたら治るの少し遅くなるから良い方、かな?」
確か骨折したときはだいたい二三週間で治るみたいなことは聞いたけど、ヒビはどうだったか。オレが前ヒビ入ったときはヒビ入っているの知らなくていつのまにか治っていたという記憶しかない。
そんなことを考えているとアウソが、それよりも、と切り出した。
「そっちは平気だったんさ?何処に連れてかれて何されてるとか全然知らんけど」
頭のなかに多種多様の化け物が自動再生された。全体的にゴチャッとしていて生き物として気持ちが悪い。
「…なんか、ずっとバトルロアイヤルっつーか。ひたすら色んな化け物と戦ってた…」
人もだが、それは何故か言いたくなくて黙っていた。
「今だから言うけどスゲー気持ち悪かったし怖かったわ」
「化け物か、それは嫌だな」
「だろ」
でもそれのお陰で戦闘能力が鰻登りしたのは腑に落ちない。あと謎の再生能力もだ。
「そうだ。あの首輪の魔法陣の解除しててくれてありがとな、あれめっちゃ助かったわ。特に反乱起こすとき凄い役に立った」
反乱起こしたのか。
「そうなの?良かった、オレのせいで酷い目にあってたらどうしようかと思ってたよ」
「そう簡単にやられるわけねーだろ」
そんな感じでアウソの腕が治るまでの間オレはカリアに今回の報復作戦でお世話になったパーティーの人達にお礼参りをしたり、救出した子供達の今後についてを相談したり、最初に重症を負って未だに意識が戻らない男性の身柄を自警隊と一緒になって探したり、と1週間を忙しなく過ごした。
追記だが、捕まったときに取られたと思っていたスマホ諸々(もろもろ)が戻って来た。そういえばリベルターに会いに行ったときすぐに戻るからと必要なもの以外全部置いていったんだった。いやー良かった良かった。
とある夕飯時。
「忘れてた!!!」
あることを思い出して大声を上げてしまいアウソとキリコ、カリアが吃驚した顔を一斉にこちらを向いた。
猫は一瞬びくついたが、すぐに食事に戻った。
「何?どうしたの?」
「オレ、リベルターさんに注文していたものがあったんでした!」
言い切ったところで猫を見る。
キラリと光るお高そうな首輪が目に入った。
「あとこの猫の首輪を返してお礼を言わないと」
「………」
「………」
キリコとカリアがモグモグと無言で顔を向き合わせ同時に拳を出す。そして何故かジャンケンを始めた。
負けたのはカリア。
食べていたものを飲み込んだカリアがこちらを向いた。
「往復でだいたい1週間くらいだから、アウソが復活するまでの間暇だしコッチが道案内するよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「その代わり!」
ピッと人差し指を指(さ)された。
「ただ往復するのもアレだから、ちょっとした修行も交えていくよ。良い?」
「え、あ、はい」
何の修行か検討つかないがあの化け物と戦いまくっていた時よりはマシだろうと頷いた。
安易に頷いた昨日のオレを思いっきりぶん殴ってやりたい。
久し振りに再開した灰馬が何故か筋肉ムキムキになっていて軽く引いた。
主に足回り。なんで?
心なしか灰馬がどや顔をかましてきているような気もする。
疑問に思いながら大きくなってしまった猫用の馬に取り付ける鞄のような物を設置して久し振りに馬を走らせて、あまりのスピードに気が遠くなった。なにこれ、最初からオレの体験したことのない速度で走っているんですけど、なにこれ。土砂降りも合間って馬酔いが大変なことになっているんですけど。
「振り落とされる!オレもう腕死んでます!!力入ってないです!!休憩しましょうよ!!お願いします!!」
「これくらいの速度じゃないと1週間で戻れないよ!!大丈夫、その駿馬そこらの駿馬と違ってタフだしもうちょっと速度あげても全然平気よ!!それに、修行はこの速度で走り続けるだけだからとても楽で良かったね!!」
「おにぃぃぃ!!!おにぃぃぃ!!!」
結局、三日間、馬を休ませる以外ほぼ休息無しでマックス速度で走らせて、四日目の早朝、懐かしきサグラマへと到着したのだった。
体が痛い。筋肉痛で痛いのか普通に関節が痛いのか良く分からなくなっている。そんなオレとは裏腹に猫はやっとついたかと大きな欠伸をしていた。
マイペースだな、本当に。
「…しまった思ったよりも早く着いちゃった」
そしてカリアは固く閉ざされた門を眺めながらそんなことを呟いていた。
ちなみに現在太陽昇っていないです。
何時くらいだろうか、五時とかかな。
夜降っていた雨は上がり、周りに水精が大量にフワフワと舞っていた。
眠い。早く着いてしまったのならば少し眠らせてはくれないだろうかと重い瞼を擦りながらカリアを見ると、カリアは馬を木に繋ぎ剣を取り出していた。
「せっかく時間があるから狩にいくよ」
「え?」
「せっかく時間があるから狩にいくよ、ちょうど入れ替え刻だし」
「うわぁ聞き間違えじゃなかった…」
右手に剣、左手に熊呑鼠の袋を装備したカリアは既に狩の準備を終えていた。これ、オレ少しだけ寝たいんだけど交渉出来ないかなとカリアを見ると、勝手に灰馬を木に繋いでいた。強制参加ですね。
「ナウ~」
猫はやる気に満ちていて尻尾がご機嫌に上を向いていた。
うん、命のやり取りよりはマシだ。
手に馴染みまくった短剣と少しの荷物を装備すると、カリアの後に着いて森へと向かったのだった。
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