第4話 周りは変態
渋々と視線を魔術師へと向ければ魔術師は大丈夫ですよと何が大丈夫なのかわからないけどそんな事を言ってきた。
「目の前で大事な人を失ってしまったんですね、なんの前ぶれもなく突然。聖なる日だと言うのに、そちらの神は貴方を救ってはくれませんでした。そのせいで貴方の心には深い傷を負い、闇が住み着いてしまっています。どうしようもない事態だからと、諦めようと、前向きに生きようとしているんですね。貴方はとても優しい人。我々は貴方に身に救う闇を取り除く術を知っています。しかしその術はこの国が回復しなければ制御する事すら難しいものなのです。お願いします、どうか貴方の為にもこの国をお救い下さい」
「はぁ…」
「我らの神は我らを決して裏切りません。安心してその身を神に捧げなさい」
言葉ってさ、言い回しでちゃっちくもなるし、壮大にもなるんだな…と。今本気で思っている。
間違っては無いけど失恋をここまで言われてしまうと逆に逃げ出したい気分なる。てか、心に闇が住み着いてしまっていますとか、この人言ってて恥ずかしくないのか。ないのか。無いだろうから言っているんだろう。
ちらりと様子を見るが、魔術師の人は優しく微笑んでいる。ダメだ、マジっぽい。演出も凝りすぎて感心してしまいそうだ。いつフードの人の背後にバックライト設置したんだ。そのせいで後光が差してるみたいになって神々しくなってしまってんだけど。
そして遂にはキラキラしたシャボン玉まで降ってきた。
「ああ…」
「キレイ…」
シンゴとコノンが声を漏らす。
心なしかノノハラとユイまでもがシャボン玉に魅入っていた。
(まぁ、確かにキレイだな。ちょうど後光のを反射してるし。にしても量多くね?)
ふわりと舞い降りてきたシャボン玉が肩に乗り、シャンという音をたてて弾けた。その瞬間、何故か体から力が抜けた。
「…あれ?」
あれよあれよという間に次々にシャボン玉が体に付着し弾けていく。その度にガクガクと体力が削られる感覚。なにこれ。
天窓から光が射し込み、部屋の中が教会のように清らかな空気が満ちていく。やばい、なんか気持ち悪くなってきた。
「ああ、スティータ神よ!この者らに清き力をお与えください!!あなたの力を受けてこの者らは生まれ変われます!!神よ!その手を差し延べ下さい!!」
膝まで震え出してきて、魔術師に助けを求めようとしたのだが。
「ああ…っ、神よ」
頬を染めて昇天していた。
変態だ。きもい。
ならばと同じ勇者どもを見る。
「………」
シンゴとコノンは涙を流して手を組み天へ翳し、ノノハラは片膝を着いて天を仰ぎ、ユイはスマホで撮影をしていた。
ちなみに全員もれなく何か満足そうな、満たされたような顔をしている。
今にも死にそうなオレとは大違いだ。
勇者ズは使えそうにない。
最後の頼み、完全に蚊帳の外だったこの国の王様を探すと、魔術師の後方で号泣しながらめっちゃ祈りを捧げていた。
うん、これはあれだな。
「…もうだめ」
天窓からの清い光に止めを刺されて意識が飛んだ。
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