第2話 カメラは何処ですか
眩い光に包まれた体が軽く浮遊、数秒停止した後に地面へ叩き付けられた。目が見えない状態だったので足からの着地に失敗し、思いっきり尻餅をついてしまった。
「いったぁ…。んだよ、これ……」
光が収縮する。
白に塗り潰されていた視界が徐々に色を取り戻し始め、辺りの様子が分かるまでに回復した。
「……は?」
思わず目を擦るが、目の前の光景は変わらない。
おかしい、オレは駅前の通りにいたはずだ。ここは何処だ。
少なくともこんな薄暗い変な紋様だらけの部屋ではなかった。もっと開放的できらびやかで……。
「!」
足元にも大きめの紋様が描かれているのに気付いて視線を落とす。
床の紋様は紙に描かれてたのと同じだった。
「揃ったようだな」
カツンと硬質の物がぶつかる音が聴こえて顔を上げる。目の前で白地に金の装飾が成された豪華な布が翻り、さらに視線を徐々に上げていくと、おっさんがいた。
黒髭のおっさんだった。
そのおっさんの頭の上には黄金の被り物が乗っかっている。
「ようこそ!選ばれし勇者たちよ!」
おっさんは両腕を大きく広げながらそう言う。さながらモーゼのようだ。
………てか勇者たちってなに?
“たち”の単語を疑問に思い、視線を横に巡らせると見知らぬ脚があった。
いや違う、人がいた。いまだに座っているから脚しか見えなかっただけだ。
とりあえず立ち上がるかと、軽くズボンを叩いて立ち上がると、自分以外に四人の人が同じような紋様の上に立っていた。
男女、年齢はバラバラ。そこで違和感に気付く。
女性陣がすごい髪の色していた。いったん色完全に抜かないとそんな風には染まらんレベルである。
コスプレイヤーも顔負けな衣装もなかなかであるが、それよりもまず髪色に目がいった。
ピンクとか緑ってカツラなのだろうか。何かの撮影に紛れ込んじゃったのか。それとも有名な“に●げんモニタリング”的なドッキリか。
すぐさま辺りを見回した。
こういう場合のカメラは見付からないようにしているから見付かりっこないのだが、恐らく、嫌きっと何処かにカメラがあるはずだ。
「お前は誰だ」
その時、一番右端にいた女性がおっさんに向かって言い放った。
桃色の髪を高く結い上げ、何処かの軍服みたいなのを着ている。軍服といっても現代ではなく中世っぽい感じで、腰には剣を差していた。
何かのアニメの女軍師のコスプレか、意外と格好いいな。何のアニメだろうと、そんな感じで見ていたら、視線に気付いたらしい女軍師がこちらを向く。
そして思いっきり睨みつけられた。
気分を害したらしい。
すいません、と、オレは女軍師から視線を外した。
「私が答えましょう」
知らない声が部屋の中に響き、おっさんの後ろからフードを深く被って顔を隠した人が現れた。
見えるのは口元のみで、声も中性的で性別が分からない。服装は白地に青の装飾がされたローブに、手もしっかり手袋を嵌めてる。どれだけ素肌を見せたくないのか。
「この御方はホールデン皇教国の教皇。ホールデン・ティオ・ゴレ・オノロ様であります。勇者諸君、私の問い掛けに答えてくれたこと、深く感謝します」
フードの人は軽く会釈をする。
もしかしたらあの人魔術師とかの設定なのだろうか。
呑気に考察していると、フードの人へ女軍師からクレームが入った。
「ホールデン皇教国だ?そんなの知らん!私は城に帰らさせて貰う」
女軍師は激怒していた。
いや、ここに来てからずっと怒っている気がする。
「……どんな中二設定だよ…」
そしてすぐ隣からぼそりと呆れたような声も聞こえた。
茶髪の男性だ。紺色のスーツに疲れた顔をしている。恐らく被害者その2だろう。会社帰りに巻き込まれたのか、可哀想に。
二人の問いにおっさん、多分王様の人が答えた。
「すまないが、今君たちを元の世界に送り返すことは出来ない。君たちは神に選ばれたこの国を救う勇者であるからだ」
元の世界という事は異世界設定であると判明した。
その答えに女軍師は大激怒。
「ふざけるな!私が守るべき国はジャラル国のみだ!!」
「俺も同感ですね」
遂にスーツの人からもクレームが出た。
「明日も朝から仕事があるんですよ、久しぶりにぶっ飛んだ中二が見れて楽しかったですけど帰して貰えないなら話は別です。俺も日ノ本に帰していただきます」
声を荒らげる女軍師に、疲れているのか比較的冷静なスーツの言葉を聞いて首をかしげる。
………あれ、このスーツの人オレと同じ被害者かと思ったら、この人も仕掛人っぽいのか?日ノ本ってなに、日本のことか?
ぐるぐる考えていると女軍師でもスーツでもない声が聞こえた。
「わ…わたしも家に帰りたいですぅぅぅぅ……ひっ…ぅぅ…」
女軍師の左隣で踞っている緑色の髪を2つお下げにした女の子だった。彼女は泣きそうになりながらもそう言う。いや、言ってる途中で泣き始めてしまった。
これは…オレも空気を読んで帰りたいと宣言しないといけないのか。いや、帰りたいけど、明日昼からバイトだし。
かといって言ったら言ったで恥ずかしいし。
これは様子見した方が良いかも知れないと思ったとき、スーツと少女の間にいた癖毛なのか寝癖なのか分からないが髪の毛跳ねまくっている青ジャージの青年が前に出てこちらを向いた。
「はぁあ!?お前らそれ本気で言ってんのか!?魔法陣!王様!魔術師!そして勇者とくれば異世界トリップ展開キタコレだろうが!!何いきなり帰ろうとしてんだよバカじゃねーのか!!?」
なんだこいつ。
「黙れ、貴様に関係ない。すっこんでろ」
女軍師がキレかけてるらしく声がドスの利いたものになっているが、ジャージ青年は少しも怯む事無く腕を組み、更に声量を上げた。
「関係ないだって!?関係あるさ!君達は僕と一緒に召喚されたんだ!そうなった場合に君達は僕の仲間か、または好敵手になるルールなんだよ!!これは王道なんだよ!わかるだろ!?」
「いや、わかんねぇよ…」
隣から呆れ返った声がする。
なんだろう、どうしようコイツ。多分小説とかのテンプレ的なやつの説明なんだろうけど、あくまでも小説は小説だ。リアルでそれが当てはまるとでも思っている痛い奴なのか。
何となく周りの人達の反応が気になったので視線だけで確認すれば、女軍師はとうとうキレたのか腰に下げてる剣に手を伸ばし始め、少女は大声にビックリして固まり、スーツの人は何か痛いものを見るかのような目をしている。
そして、がちな中二はちょっと…、と聞こえた。激しく同意である。
そんな三人の様子に苛立ち始めたジャージは、出来るだけ空気でやり過ごそうとしたオレを指差した。
「おい!そこのさっきから一言も発しない黙りっぱ!!お前だよお前!一般人A!!お前はどうなんだよ!何か言え!!」
一般人A、まるでゲームの村人Aみたいな例えを出してきたジャージは何故だか知らないが期待に満ちた顔を向けている。
多分であるが同意してくれる仲間を探しているんだろうけど、大変申し訳ないが期待には答えられそうにない。
「…オレもバイトあるし…、帰らないとちょっと…」
正直に答えた。
家には今日帰らないと伝えてあるが、明日も帰らないとは言ってはいない。バイトも然り。
「………」
そうしたらジャージにめちゃくちゃ睨まれてしまう。人間モリタリ○グでむきになると放送されてから後で辛いぞ。そう思いながらゆっくり視線を外した。
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