第1話 恥ずかしくって言えない

 あ、あの、その


 あ、ああ、えっと



「すいません」



 こんな自分が、他人に、人様に、こんな気持ちを持つなんて思わなかった。それはそれは久しぶりに思い出したもんだから、記憶の引き出しはだいぶギシギシ音を立てて開いていく。



 この目の前の人に伝えたいことがある。いや、普通は気づいても通り過ぎるのだろう。それがいいんだろう。なぜ立ち止まり、こんな自分をさらしているんだろう。心底自分が嫌になる。けれどとても優しかったその人は丁寧に話を聞き、待ってくれた。



「あの、すいません。いすが…」


「椅子?」


「あ、違くて、あい、あい、」


「愛してる?」



 くすくす、とその人は笑う。すこし照れながら。そんなこと、突然言えるわけないじゃないか!ほんと恥ずかしい。



「あ、アイスがズボンについてます!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る