第2話 ホエーてんのかこらっ(寒)

 ちっ……。

 親父の妙な迫力に押され、ピッチャーを持ち上げビールを喉に注ぎ込むと、隣に立つ牛を無視してメニューを開く。

アゴに流れたビールを腕でグイと拭き取ると、カウンターの端から「汚ねえなあ」と呟くヨウムの声が聞こえてきた。カチンときた俺はメニューを放り投げ、ビールを流し込むと唾を飛ばしながら叫んでやった。

「おい、鳥野郎、ホエー豚のシチューだ」


 ぐいぐいとビールをあおっていると、突然足元で叫び声がして飛び上がる。

 見ると肌色の―――。

 豚が一匹キィキィーと、金切り声に近い声でがなり立てていた。

 カウンターとの椅子を蹴飛ばし立ち上がる。

「おいっ! なんだよこの豚はよ、うるせえぞ黙らせろ!」


 ドーンと力強い拳をカウンターに振らせた親父が、ぐっと顔を寄せてきた。

「なんだよとはなんだ! 兄ちゃんが頼んだんだろうがっ! だからこうして一生懸命……」

「まさか、吠えーてるとか言い出すんじゃねえだろうな?」

「なんだ、なかなか物分かりがいいじゃないか、一緒に飲もう」

 ジョーダンじゃねえぞおいっ!


「おっさんいい加減にしろや。俺は腹が減って虫の居所が最高に悪いんだよ。ぶんなぐられてぇのかよ、ああ? 早くシチュー持ってこい!」

「これがシチューだ」

「何?」

「名前が、シチューなんだ」


 膝から崩れ落ちそうになるのを懸命にこらえる。

 もういい。


 やめだやめだ、肉はやめだ!


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