幕間 8 決別

「本当に彼女に俺たちは酷いことをしてしまった………」


そう告げる仲間達の顔には一切ふざけた雰囲気など存在しなかった。

本気でアリスに申し訳なく思っており、そしてだからこそ私は何が起きたのかわからず戸惑う。

こんなこと、一切想像などしていなかった。

こんな風にアリスの話を受け止められるなど、そんなこと認められる訳がなくて……


「何で……」


「何でって、今までの生活で俺は自分がどれだけ許せないことをしていたか分かっただけだよ」


混乱の中私が何とか絞り出した言葉、それは事態が私の全く想像していなかった状況になっているのを私に突きつける。


「日々こんなにもしんどくて、如何しようもなくて。それでも平民はこの状況の中必死に生きている。そして俺はそんな平民を馬鹿にしていたんだ」


「そうよね。私も今なら分かる。平民を馬鹿にしていた態度が、どれだけ愚かな行為だったことか……」


そう心底反省したように告げる仲間達の目は真剣そのものだった。

彼らは心の底から自分が今までやってきていたことを反省し、そして後悔していた。

そこにはもう今まで我儘を押し通していた貴族の姿はなかった。

仲間達は過酷な状況に精神的に一回り成長していた。


「くっ!」


そしてだからこそ、私はその仲間達、いや元仲間達を睨む。


ー 巫山戯ないで!何で今更!


私の胸に溢れるのは如何しようもない劣等感だった。

アリスだけに責任を押し付けて、一方的な憎悪を抱く私の方が間違っている?

そんなこととうの昔に分かっている。

分からないはずがない。

だがそれでも正しく生きれるならそうしている。

しかしそんなこと出来るはずが無いのだ。

貴族として、自分勝手気に生きていた私にそんなこと出来るはずが無かったのだ。


だがそれでもここにいる人間は自分とと同じだとそう私は勝手におもいこんでいた。


「確かにもう雇ってもらえないかもしれない。けれどももう一度俺たちは頼みこんできてみる。」


「私も行く」


「俺もだ」


だがそれはただの思い込み、いや、ただの願望でしか無かったことを私は悟る。


ー 今、私も行くと言えば。


頭にそんな考えが浮かぶ。

けれどもそんなこと出来るはずが無かった。

出来るならもっと前に私は変わっている。


「あっ、」


ー 待って!


私は心の中でそう叫ぶ。


「疲れたんだろう?待っていてくれ。吉兆を持ち帰る」


だがその思いが伝わることはなかった。

最後にそう、男が私へと笑いかけてくる。


「っ!」


そして次の瞬間部屋の中に1人私だけを残して扉が閉められた。


ーーー そう、まるで1人取り残された私の状態を示すように。





◇◆◇





「あは、あはははは!」


1人部屋の中に残された私は最初呆然とすることしかできなかった。

だが数分後には私はそう高らかに笑っていた。

今私の顔にはおそらく狂気的な色が宿っているだろう。

だがそんなこと今の私には如何でも良かった。


「………ない」


そして私はそう小さく呟く。

その言葉は自分でも認識出来ない、いや認識してはならない言葉だった。

おそらくその言葉を発してしまった時私は取り返しが付かなくなる。

そのことがわかりながら、それでも私は躊躇することなく叫んだ。


「許さない!」


それはただの八つ当たりだった。

逆恨み、そんな言葉でさえおこがましい。

だがそれでもそれしか今の私の心を保つ方法はなかった。


「巫山戯るな!今更いい子ぶるな!」


そのことを悟って、私は仲間の荷物を荒らし、そしてその中の資金を取り出す。

これは今の仲間の命綱だった。

決して一人一人の資金は多くない。

それでもこれが無くなれば仲間達は生きられないだろう。

必死に食事制限している今でもギリギリなのだ。

この資金がなければ仲間達はあっさりと飢え死にするだろう。


「あははっ!」


だがそのことをわかりながらその資金を手に私は部屋から逃げ出した。


ーーー 私にはもう部屋に戻る気など存在しなかった。

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