-5-「本当に魔女なんですか?」

   ⑤


 丸太小屋まるたごやの中に入ると、快適かいてき温度おんどが保られており、ゆかには多種多様たしゅたようの本が散乱さんらんし、部屋の隅には大きなツボが置かれていたり、棚には水晶球や骨董屋のような正体不明な物が有ったりと、如何いかにも魔女のいおりに相応しいものが有れば、最新のパソコンや薄型テレビなどといった場に似つかわしいものも有ったりとした。


 ヒカルたちは部屋に真ん中のテーブルをかこんで、そなえられた木の椅子いすしていると、


「さあ、これでも飲んで、ひと息でもつきなさい」


 魔女マギナがヒカルたちの前に、先ほどの花畑と同じように甘い香りが漂うお茶をれて、お菓子のような食べ物も用意してくれた。


 暑い中、長時間歩きづめで乾き果てていたヒカルたちは真っ先にお茶を飲んでのどうるおす。

 それはとても優しい甘さと爽やかで、今まで飲んだことがない美味しい飲み物だった。しかもクタクタとなっていた疲れがスッと吹き飛んだのである。


 次にお菓子を手に取った。

 お菓子は見ため的にも触り心地もマシュマロようだったが、口の中に放りこむと全く違うものだった。

 綿菓子のようにあっという間に溶けていき、砂糖のような甘さではなく、スッキリとした甘味‥‥それだけではなく、これまた今まで味わったことがない旨味うまみも感じた。


「お、おいしい~!」


 その味に感動するナツキ。ツヨシは無我夢中でお菓子を平らげると、ナツキのお菓子にも手を出そうとしたが、直ぐ様たたき落とされた。


 お茶とお菓子を堪能たんのうし、空腹を満たして体力が完全回復したヒカルたちは、この世の極楽ごくらくにいるかのような恍惚こうこつの表情を浮かべていた。


 頃合ころあいを見計みはからって、魔女が話しかける。


「さて、何の御用ごようかしら。ここまで来たということは、私に御用ごようがあるってことでいいのよね?」


「あ、はい」


 お茶とお菓子の美味しさでとろけていたナツキが姿勢しせいを正して返事をした。


「だけど、よくここまで来れたというか、入れたというか‥‥。薄々気づいていると思うけど、ここは普通の場所じゃないのよ。それに、ここに来るためには、特定とくてい道順みちじゅんとおらないと辿り着くことができないようにしているからね」


「それって‥‥」


 “特定の道順”という言葉に、ヒカルたちは思い当たることがあった。


「実は魔女マギナさん‥‥」


 ナツキが率先そっせんして、ここにいたるまでの経緯(ツヨシが魔女を目撃して、そこから魔女を足取あしどりを辿ったこと)を説明した。


「なるほどね、私の後を‥‥。ということは道順みちじゅん手順てじゅん不完全ふかんぜんだったから、入れはしたけど次元じげん狭間はざまに迷いこんでしまったのね」


「じげんのはざま?」


「キミたちが彷徨さまよっていた場所よ。まあぁ、ここも次元の狭間ではあるけど、非常に安定している空間だから大丈夫よ。だけど、ヘタしたらキミたちはあの空間に一生彷徨っていたかも知れなかったわね‥‥」


 魔女の言葉にヒカルたちの背筋がキンキンにこおってしまった。


「だから、このワンちゃんにキチンとお礼しときなさい」


 そう言いつつトッティに視線しせんを向ける。


「このワンちゃんが次元じげん狭間はざまあなを空けて‥‥ってくれたおかげで、運良くキミたちはここに辿り着くことが出来たのだからね」


 ナツキは側にいたトッティを強く抱きしめた。


「トッティ‥‥ありがとう!」


 しかし、トッティはナツキの感謝の強さにわずわしく感じているようで、身体や足をバタつかせていた。


 トッティがその穴を空けていなかったら、今でも‥‥いや永遠えいえんに、あの空間に閉じ込められていたかも知れないということだ。

 苦手な相手トッティではあるが、ヒカルはトッティの瞳を見つめて、


(ありがとうな、トッティ)


 ここばかりは感謝かんしゃねんおくった。


「でもまぁ、よく穴を見つけたわね。大方、甘い匂いにさそわれたのかしらね」


 魔女マギナは微笑みつつ、お茶を一口飲んだ。


「さて、本題に戻りましょうか。私に何の御用かしら?」


 魔女に最も用件があったナツキの口が開く。


「魔女さんって、本当に魔女まじょなんですか?」



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