問題編

プロローグ

 それは、少女の死体だった。


 ※


 初夏、麦秋。

 爽やかな朝、糸浪硝子いとなみしょうこは、飼い犬と散歩をしていた。

 

 飼い始めたころは小さかったラブラドールレトリバーは、あっという間に大きくなった。おかげで、毎朝の散歩が大変だ。

 とはいえ、ともすればこもりがちな硝子は、散歩をせがまれなければ一瞬で運動不足に陥る。

 あの可愛らしい瞳にねだられなければ、仕事以外で外出できない。

 犬を飼うことを勧めてきた姪っ子――馴子はここまで判っていたのだろうか。だとしたら、あの無邪気な姪っ子も侮れない。


 硝子は、ちょっとした店の主人である。雑貨を売ったり、手芸を教えたりして生計を立てている。儲けは多くないけれど、本人はそれなりに楽しくやっていた。近頃は姪っ子が友人を連れてショッピングに来ることも多い。


 そんな仕事が理由でもないだろうが。

 ふと、キラキラと輝くものが目に入った。


 朝の公園。人気ひとけのない公園。

 そこで、何かが光っている。


 燦々さんさん朝陽あさひを浴びて光るもの――それは、ビーズだった。

 公園に散らばっていたのは、ちょうど自分の店で扱うようなビーズとテグス。

 ひとつ残らず赤黒い血にまみれた、ビーズ、ビーズ、ビーズ――。

 そして、それが目に入った。

 

 鮮紅なる体液をまき散らし。

 頭部を完膚なきまで破壊され。

 糸の切れた操り人形マリオネットのように伏しているそれ。

 

 それは、少女の死体だった。

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