第111話
☆この前の話110話、加筆修正してあります。
「も〜暑いわねぇ日本で40度だなんて信じられないわよ!蜜、黒糖黒蜜の天然かき氷が食べたい〜善治郎さんの所に行って天然氷を買って来て〜」
あまりの暑さでエアコンの効きが悪くなりテーブルにグテっと上半身をだらけさせた黒蜜おばばが蜜に言う。
「蜜ちゃん天然氷、願い〜」
と同じ様にだらけた"たると"ちゃん。
「そうですねえ、氷でも食べなきゃやってられないですよねー。では、恵ちゃん行きますか」
「天然カキ氷か、私食べた事が無いんだ〜嬉しいなぁ」
と夜に花火大会を見に行く為に私とお揃いの浴衣姿の恵ちゃん。
お財布を入れた買い物籠を左手に持ち右手を恵ちゃんと繋ぎいつもの食器棚の間の暗闇に足を滑り込ませた。
さて、いつも行く天然氷を保存する洞窟氷室の前にある天然氷を買うお店に来たつもりだったけれども。
何だか雰囲気がいつもと違うわね。
洞窟の氷室は、同じだけど周りに居る人の格好が何だか時代劇に出て来るお百姓さん見たいな着物にチョンマゲ姿。
お店も掘立小屋で時代劇のお茶屋さんみたいだし・・・。
コスプレでもしてるのかしらね?
あっ!見慣れた顔を発見したわ代々この氷室を守っているお家の御当主の善治郎さんだ。
「善治郎さーん!天然氷を分けてくださいな」
と善治郎さんに近づくと何故かとてもびっくりした様子で
「あ、あんたら一体どこから現れただ?この氷室は江戸の将軍家に納める大事な氷を入れてある御用氷室だぞ?周りには、柵があって入れない筈だが?それにいきなり現れた娘ッ子に氷を分けてやる訳にはいかんぞ!」
ん?江戸?将軍家?
コスプレしてる上に細かな設定まであるのか?
これは、こちらも設定に合わせるか、丁度二人共に浴衣姿だし。
居住まいを正しお辞儀をしながら。
「これは、いきなり失礼致しました。代々この氷室を管理してる善治郎様、私供は、江戸で薬問屋を商う黒田屋の者で御座います。私供の主人の命でこちらの氷を分けて頂きたく参りました。どうかおねがい致します」
「何?江戸の薬問屋、黒田屋の使いの娘さん達か、それを早く言いなさい。以前、うちの跡取り息子が急病の際に商用で近くに来ていた黒田屋さんのご主人が分けて下さった特製反魂丹で息子が命を失わずに済んだんだ。そのご恩をお返しするのに氷ぐらいじゃ足らないくらいだ。好きなだけ持って行きなされ」
そう言えば黒蜜おばばのご先祖様は、江戸時代に薬問屋をやってたと聞いた事があるわね。
善治郎さん細かな所を突いて来たわ。
コスプレは、成り切るのが面白いのよね。
「誠に有難うございます。善治郎様のご厚意に甘えさせて頂きます」
大きな鋸で氷を氷室から切り出してくれた善治郎さん。
キョロキョロと周りを見回して
「所で、氷を運ぶ荷車やおが屑を入れた氷を保存する箱は?」
「あっ、それなら大丈夫です。こちらにいる者の神仙術で溶けない様に持って行けます」
と私が言うと恵ちゃんが「えいっ!」と言う掛け声と共に大きな天然氷を胸元に仕舞い込む。
それを見た善治郎さん達が「おおっ!」と声を上げる。
「いゃあ、物凄い神仙術ですな。しかし氷は、良いとしても娘さん二人で、ここから江戸まで不用心ではありませぬか?うちの者を一人付けましょうか?」
と善治郎さん。
ふふ、善治郎さん恵ちゃんの収納にびっくりしてるわ。
でも、私が暗闇から暗闇に移動出来るのを知ってるのに知らない振りをしてる。
これは、お話のノリにあわせてと。
「ご心配には、及びません私の身に付けた神仙術は、暗闇から暗闇に移動できるのです」
と、近くの岩陰に黒い下駄を滑り込ませて姿を消すと善治郎さんの真横の草陰から姿を現した。
暗闇から現れた私を見た善治郎さん顎に手をやりながら何か考えてる。
そして私と恵ちゃんを交互に見てから
「大変、身勝手なお願いですが江戸へお二人が帰る際に今、氷室に入れてある将軍家に納める氷が入った箱を江戸城に届けて頂けて貰えないでしょうか?今回の荷は特に急ぎで間に合うかどうか難儀していた所で・・・今度の花火の夜に将軍様が氷を食べたいと急に言われまして、早馬でお達しが来ましたが重い氷の入った箱を荷車で運ぶとギリギリ間に合うかどうかと話しておりまして」
そんな設定ならこちらも応えるしか無いじゃない善治郎さん。
「ええ、宜しいですよ。急に来て氷を分けて頂いたのですし。お安い御用です」
善治郎さんが他の人に指示をして氷室からかなり大きな箱を私達の前に運んでくる。
その箱を恵ちゃんがサッと胸の谷間に収納した。
善治郎さん天然氷のお代を聞くと要らないと言うので恵ちゃんの収納に入れて貰っていた沖縄の黒糖シロップの瓶をひと瓶渡す。
「流石、薬問屋さん薬になる黒糖蜜をこんなにたくさん・・・ありがとうございます」
頭を下げる善治郎さん。
「では、先程の氷の箱を江戸城に届けて置きますね。今、渡した黒糖蜜を削った氷に掛けて食べると美味しいから試して下さい」
私は、恵ちゃんの手を握り近くの岩陰に黒い下駄を滑り込ませながら言った。
江戸城の半蔵門前の石垣の暗闇から現れた私達。
見回すと半蔵門を守る守衛さんも時代劇みたいな格好をしてる。
善治郎さんの関係者でコスプレ月間なのかしらね?
私は、門を守る守衛さんに
「将軍家御用の氷室を守る善治郎さんより天然氷を預かり持って参りました」
と頭を下げてから横にいる恵ちゃんに目配せをして氷の入った箱を目の前に出して貰う。
いきなり現れた私達や箱に驚いていたチョンマゲ姿の守衛さんだけども氷の到着を待っていたらしくとっても喜んでいる。
それならばと恵ちゃんに言って収納から黒糖黒蜜の瓶を数本出して貰う。
「削った氷を掛けて食べると美味しいですからこちらもどうぞ」
とニッコリ笑って瓶を渡しお辞儀をして恵ちゃんの手を引き近くの暗闇に紛れて黒蜜おばばの家へと急いで戻った。
黒蜜おばばの家にある古めかしいカキ氷機でガリガリとカキ氷を作り、黒糖黒蜜をたっぷり掛けて皆んなでカキ氷をパクリ。
甘〜い氷が美味しい〜!
口の中でホロホロと溶ける天然氷。
いくらでも食べられる。
不思議よね、何故かこの氷を食べても頭がキーンと痛くならないのよねぇ?
博識な黒蜜おばばに寄ると
「氷の温度がマイナス2度ぐらいだと頭がキーンとならないのよ。今の人工的な氷は、冷えすぎ何だ。氷室は、逆に冷え過ぎ無いから美味しいんだよ」
との事、ふ〜ん美味しい物にはローテクなのが良いのね。
勉強になったわ。
カキ氷を食べながら黒蜜おばばに善治郎さん達が江戸時代見たいなコスプレをしていて、頼まれた氷を江戸城の半蔵門前に届け、チョンマゲ姿の守衛さんに黒糖黒蜜の瓶を渡して来たと言うと黒蜜おばばが
「そう言えば、江戸時代の先祖が善治郎さんの所と、江戸城に黒糖黒蜜を献上して大変喜ばれて、それ以降うちの薬問屋から毎年将軍家に黒糖黒蜜を献上したと言う話を聞いた様な?何でもうちの神仙術を使う二人の娘が善治郎さんに頼まれて江戸城に天然氷を届けた時に一緒に黒糖黒蜜を献上したのが始まりだとか?何だか要領を得ない話しだったけれども・・・」
私の横でシャクシャクとカキ氷を食べていた恵ちゃんが
「もしかしたらアレってコスプレじゃなくて本物?」
とか呟いてるけれども
「そんな事、あるわけ無いじゃない」
と私が言うと黒蜜おばば達が、疑ぐる様な目で私を見るのだった。
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