第72話

ゲートが開き熱い戦いが今、始まる。

私は、真っ黒な甲斐犬の姿で買い物籠を咥え記憶したブースに黒い一本の矢が疾る様に向かった。


お目当のブースに到着すると500円硬貨でパンパンのガマ口財布を出し私はこう言った。

「見る用と保存用と布教用で三冊づつここにあるBL同人誌全種類下さい!」

真夏のコミケ会場は戦場なのよ。

この作家さんのBL本は、フランスのある大企業の会長さんの孫娘からの依頼。

自分で買いに来たかったけど二日も会場外に並んでなんて許してもらえないので泣く泣く私にお使いを頼んだ。

以前、伊勢神宮で水羊羹を買うのに二日間並んだのも大変だったけれどもコミケの待ちで並ぶのも大変だったわ。


伊勢神宮の行列は場慣れしたおじさん、おばさんの緩い雰囲気だったけれどもコミケ会場外に並ぶ人達は、第一次大戦の塹壕に籠り突撃の瞬間を待つ戦友みたいな独特な雰囲気が漂よっていたわ。

ヨーロッパ各地の兵士が塹壕の中でボソボソと隣にいる兵士に喋る様に何処から来たのか尋ねる。

【NEET】と書かれたヘルメットと【自宅警備員】と書かれた防弾ベストを着た人が敬礼をしながら。

「私は東北の山中より戦の警備に馳せ参じたのであります」

忍者装束に身を包んだ人が。

「某は伊賀から参った忍者でござる」


「私は使い魔の蜜。よろしくお願いしますね」

買い物籠を脇に置いた私が両脇にいる二人に言うと。

「本物のコスプレじゃないのは凄いよ」

「蜜ちゃん本物はズルいよねー」

NEETと忍者が私の頭を撫ぜながら言う。

すると周りに居た人達もゾロゾロやって来て。

「えー!本物の使い魔だったんだ!飼い主が順番待ちを抜けた間待ってるワンコじゃなかったの?」

「写真をblogに上げても良いかな?蜜ちゃん」

何だか距離が近いわね皆さん。

それから周りの人が交代でコンビニに御飯を買いに行くけどそのコンビニも戦場みたいに混んでいると聞いて私が纏めてテレビ局のロケ弁当で有名な仕出し屋さんに近くの暗闇から移動して買いに行き美味しいお弁当をありがとうと感謝されたり。

またそのお弁当を持って来た私の姿がネットでライブ配信され並んでいる私を観に来る人でごった返したりして大変だったわ。

噂によると次の冬コミでは買い物籠を咥えた私のフィギュアが売られるかもですって?売れたら一割位貰いたいわ。


そしてコミケ初日、私は開場とともに真っ黒な矢になり会場を駆け抜け次々と依頼された品物を買い捲った。

BL本の後は某アニメの美少女キャラの抱き枕や全国立ち喰い蕎麦の研究本、オリジナルのエロ同人誌、口では言えない格好をした女の子の書いてあるタペストリー等。

私がコミケ初日にお使いに行くと知った世界各国の人々が他の人には内緒ねといつものお使い代金と別に口止め料をプラスして怪しいグッズを買って来てと頼まれた。

地獄からは海○堂の精密仏像フィギュアを天界からは某アニメの天使のフィギュアを頼まれ、月のかぐや姫は月に代わってお仕置きをする美少女戦士のグッズを買えるだけ買って来てと大量の注文を受けた。


やっとのことで頼まれた物を買い終え荷物を黒蜜おばばの家に移動して置いてきた私は建物を出た所で並んでいた時に仲良くなった自宅警備員さんや忍者さんに出会った。

「やあ!蜜ちゃんお目当の物は買えたでござるか?」

「忍者さんお陰様でちゃんと買えましたよ」

「良かったでござる。所で蜜ちゃん一緒に写真を撮って貰いたいのでござるが?」

忍者さんが自宅警備員さんにスマホを渡し私の横に並んで刀を構えてポーズを取る。

「はいチーズ」

自宅警備員さんが写真を撮ってから。

「僕もお願い」

と言い忍者さんに自分のスマホを渡す。

周りの人も買い物籠を咥えた私を写真に撮っている。

そこでお使いが終わりハイになっていた私は右前足をトントンして、真っ黒なチャイナドレスを着た女の子の姿に人化した。


買い物籠を持ったチャイナドレス姿の私を見て忍者さん。

「み、蜜ちゃんでござるか?本当に・・・コスプレでござるな人の姿に!!」

コスプレ?かな?これ。

「うん、そう人の姿にコスプレ変身したの?」

周りから真っ黒な犬からチャイナドレスの女の子にコスプレ!すげー!」

と何故かコミケ会場のノリの良さで流され色々なポーズを取り写真を取られた。


冬コミでは買い物籠を咥えた真っ黒な甲斐犬のフィギュアとチャイナドレス姿で買い物籠を持った私のフィギュアが発売されるのが決定されたそう・・・モデル料を貰いに行かなきゃ冬コミで!。


そして私の冬コミの参加が決まったのだった。

衣装は何か良いかしら?

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