第42話

”forest story” f-s12


大正十年夏、黒田大福くろだだいふくは台北で人生の瀬戸際に立っていた。


母親に頼まれ台北の中国茶屋でお茶を買っていた時にチンピラに絡まれていた薄黄色のチャイナドレスを着た女性を助けたのが事の起こりだ。

女性とチンピラの間に割って入り母親譲りの魔眼でチンピラを撃退したのを薄黄色のチャイナドレスの女性が眼ざとく見つけ魔眼の事を聞いてきた。

普段は、丸眼鏡のサングラスで瞳を隠しているが魔眼の力を使うのにサングラスを外した時に女性にしっかり見られた様だ。


母親譲りと言ったが昔、父親の黒田善哉がイギリスに留学する船上で浮き輪に捕まり海上に浮かんでいた女性を発見し助け上げた所。

この女性は魔眼を持っ魔族の者だった。

魔族はほぼ伝説上の存在で数百年前に滅んだとされていたので黒田氏は大変驚く。


気が付いた魔族の女性は黒田氏に大変感謝し何故自分があんな場所で浮いていたかを語った。


数百年前に魔女狩が行われ多くの魔族が魔女と共に命を落とした。

生き残った魔族は古に沈んだ大陸にあった地下シェルターに逃げ込み地上から姿を消しす。

このシェルターで生まれ育った女性は閉塞したシェルターを嫌い外の世界を見ようと緊急脱出用のカプセルに乗り海上に出たは良いがカプセルが波に飲まれ浮き輪に捕まり浮いているのを黒田氏に発見され助けられた。

強い魔族の身体で時折降るスコールで水分を取っていれば死ぬ事は無いが何日も浮いているのは流石に応えていた時に助けられ黒田氏に感謝していると。


魔術の研究者である黒田氏で無ければ彼女が魔族と解る者も無く難破した船の生き残りとして処理されイギリスに着いた折にトランシルバニア出身のカミーラ・ドラクロワと言うパスポートを習得したが留学中の黒田氏と暮らす内にイギリスで二人は結婚し息子の大福を産んだ。


黒田氏の留学が終わり三人は東京にある黒田善哉の実家に帰る。

黒田大福は、日本人離れした長身の青年に育ち大学で生物学を先行し台湾に蝶の調査に来て母親に頼まれた中国茶を買っていた所だった。


大福は、母親譲りの強い身体と魔眼を受け継いでいて普通の人間等は魔眼のひと睨みで言うことを聞かせられた。

その為に普段は丸眼鏡のサングラスを掛け瞳を隠している。


中国茶の包みを抱え足速に夜市を行く大福の横に薄黄色のチャイナドレスを着た女性が自分の腕を絡めながら歩いている。

何度引き剥がしても離れてくれない。


自分は日本から来た生物学を学ぶ学生で今夜の宿を探さなければいけないので離してくれとチャイナドレスの女性に言うと泊まる所を探して居るなら自分の家に来て下さいと誘われ彼女の家に強引に連れて行かれている所だ。


道行く人が自分の腕に絡み付いている女性を見てギョっとしている。

「ら、雷帝が男と腕を組んで歩いている!明日はあの男が黒焦げになって河に浮かぶのか・・・」

「震電ちゃん!捕まえた男の腕を離しちゃいけないわよ」

等不穏な言葉を掛けられながら着いたのは高い塀と河の中州に建っている中国風のお屋敷。

中州に掛かる橋を渡り巨大な門に辿り着く。


「飛び切りの男を捕まえて来たわよ!開門せよ!」

とチャイナドレスの女性が叫ぶと門が音も無く開くと白い髭の仙人みたいな老人が門の内側に立っていた。

「でかした震電よ!得難い奇貨をよくぞ連れて来たその手を離すで無いぞ!」

老人がそう言うとチャイナドレスの女性は僕の腕に絡めた腕に力を入れ胸を押し付けてくる。

胸を押し付けられた時に少しピリッと来る感覚があったが柔らかな胸の触感に気を取られすぐに忘れてしまった。


そのまま引きずられ屋敷の客間に入り地獄人参茶を飲んでいる所だ。

隣には腕を絡めたままの薄黄色のチャイナドレスの女性がいる。

「貴殿は魔族の血を引く者ですな?サングラスで隠した魔眼と震電が先程から最大出力の電撃を絡めた腕から貴殿に何発も食らわせているのに平然としている。並の人間なら黒焦げどころか灰になっている筈」

僕はやれやれと首を振った後に。

「そこまてわかっている方に隠しても仕方ない。僕の母親は、数百年前に海底に隠れた純血の魔族で人間の父親との間に産まれた魔族のハーフだよ。最も僕は母親血が色濃く出て瞳の色が虹色の魔眼で頑強な身体だからね。黒田大福と言う日本で生物学を学ぶ学生だよ。国籍はイギリスだけどね」

「師父、私はやっと自分の伴侶を見つけました。黒田大福様と結婚致します!どうかお許しを」

ん?僕の意見を何も聞かないで老人に結婚の許しを聞いているぞ?どうしてこうなった?

「うむ言うまでも無い婿殿、震電の事をよろしくお願いする」

頭を下げる老人に慌てて。

「頭を上げて下さい。僕は一介の学生で結婚なんてとても・・・」

「そう言えば日本で学ぶ学生さんでしたな。よし!震電、婿殿の実家近くに家を買い台湾との貿易をする会社を起こし婿殿の生活を支えよ!」

えっ?逃げ場無し?僕。

「了解致しました師父。全力で旦那様を支えます」


いつの間にか人生の瀬戸際どころか済し崩し的に逃げられない所に追いやられてしまった様だ。


その夜強引に震電さんに床入りを迫られ夫婦の契りを結んだ僕達は日本に帰り実家で父母に震電さんを紹介していた。


父親は震電さんの実家の徐仙道家を知っており震電さんの電撃に興味津々。

母親は、義理娘が出来たと喜んでいる。

震電さんは心良く受け入れて貰えた事でホッと気を抜いて疲れたのか気持ちが悪いと手洗いへ。

心配して震電さんを追った母親がしばらくして居間に帰ってくると。

「善哉さん私達はお爺さんとお婆さんになるわよ!」

と爆弾を投下した。

その時の子供が長女の蜜子だ。


黒田の実家近くに建てられた中国風の家の庭で少し歳を取ったが若々しい姿の母親と生物学者と貿易商の二足の草鞋はく僕は時々帰ってくる蜜子や他の娘達を待ちながら地獄人参茶を飲んで優雅に暮らしている。


つい最近、新しく使い魔になた甲斐犬の蜜がとても質の良い地獄人参茶を届けてくれたけど何かトラブルに巻き込まれていないか心配だ。

蜜子に何か有ったら純血魔族のお婆さんとお父さんが必ず助けに行くからね。


暇を持て余していて助けに行くついでに色々やり過ぎるかも知れないけれども仕方ない。

それこそ何か有ったら台北の震電が雷鳴と共に現れその場に居る有象無象を消し炭にすると思うけど。


それでも足りない時には・・・。


ふふふ・・・。

お婆さんとお父さんで地獄が生温いと思わせる世界を・・・。


長く生きて暇を持て余しているとロクなことを考えませんねカミーラお母さん。

そんな期待を込めた眼で見ないで下さいよ・・・。

あの使い魔の蜜はきっと何かを引き起こしてくれますって。

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