第20話

横浜の魔女の元に”特人化促進薬”を届けに行った蜜が中々帰って来ない。

薬が効かなかった?そんな失敗作だったなら魔法薬を作る事を生業にする魔女の能力で解る。

何らかのトラブルに巻き込まれたのか?

情報が少なくて判断出来ない。


この森は特殊な盆地にあり電磁波が遮断されているので携帯電話が使えない。

衛星電話も衛星が真上近くにいる少ない時間しか繋がらない。


地脈から純粋な魔力を取り出す時にこの様な環境だとよりノイズの無い物を抽出が可能になる為こんな辺鄙な場所に住んでいるのだ。


そんな事より蜜はどうしたのだろう・・・。


カッカッカッ!


蜜の履いている下駄の音が!振り向き、どうだった?と聞こうとするより先に。


「竹輪天麩羅・旦那・浮気・この世・地獄・白髪・宝塚・呼んでる・一緒・行く・おばば」


蜜の発した余りの言葉に私はその場にヘタリ込んだ。


結局、買い物籠に話しを聞いて解ったが大変な事になっている様だ。人狼一族も災難だろうに。


しかし、横浜の魔女【蜜の言うには、長い白髪で背が高くパンツを履いていて宝塚の男役みたい】の提案通りこの馬鹿みたいな魔力を持っている状態の蜜なら何だって触れていれば運べるに違い無い。暗闇の移動が駄目だったならその場に残されるだけだろう。


「やってみるか、蜜用意するからちょっと待ってておくれ」

調剤室に入り必要な物を選び、寝室で身形を整える。


荷物を買い物籠に入れて準備完了。

蜜の手を取り。

「横浜の魔女と旦那になった人の所へ連れて行っておくれ」


初めて暗闇から暗闇への移動を経験したが本当に一瞬で景色が変わった。スポッと小さな暗闇から明るい場所に抜け出たそんな感じだった。


目の前に薬瓶を持って白髪の本当に宝塚の男役みたいな年配の女がいる。若い頃の面影が大分ある。



戦前、満州大連にあった私達が通っていた女学校時代からの親友。

横浜の魔女こと本名、白峯龍子しらみねりゅうこ昔からの仲間内では白龍はくりゅうと呼んでいる。


「白龍、何ニヤケてるんだい?大方若返って戦争中に失われた青春を取り返そうと考えているんだね?」

「な、何だお前!コスプレして登場しやがって!姿形が変わらな体質だって言っても夏用の白いセーラー服を着て来るなんて何を考えているだ?」

「あ〜ら、貴女の持っている”特人化促進薬”それに特殊な魔法を貴女がかければ一錠飲めばたちまち若返えるわ。まあある程度まで戻るとそれ以上若くならないだろうけど」


黒蜜おばばの容姿は、私よりも若い12歳位のおかっぱ頭の女の子。

夏用の白いセーラー服に紺の膝丈のスカート、紺のソックスに黒のローファーだ。



黒蜜おばばのお母さんは、中国の二千数百年続く魔女の家系で年齢は百五十歳で台北に住んでいていまだに元気。

魔女の力を発現すると寿命が伸び歳を取りにくくなる。

黒蜜おばばのお母さんの一族は特に歳を取りにくい体質で現在の姿はに二十歳半場にしか見えない。

黒蜜おばばと横浜の魔女は戦前の満州大連の産まれで同級生で同じ女学校に通っていた。

二人共に関東大震災の翌年に大連で産まれで戦後十年程して日本に移り住む。

横浜の魔女の師匠は黒蜜おばばのお母さんで師匠の都合で日本に皆付いて行ったそう。



特別歳を取りにくい黒蜜おばばは別として横浜の魔女も九十二歳には見えないせいぜい五十代。


「特殊な魔法ってなんだい?お蜜、お前さんみたいに力技でズドンとやるのが特殊で無いと?」

「私のは細かい調整とか出来ないのよ。貴女で無いと他には不可能よ。貴女の作った人郎君用スペシャルみたいな技」

「あの人化促進薬は特に難しい材料とか使っていないぞ?」

「知ってるわよ。あの薬に魔法の多重掛けをしてるって。師匠でもある私の母親が『やれば身体の何処か一部を失うから禁止だ。でも自分の娘である蜜子なら年齢を失う。白龍なら色素を失うだろうから緊急の場合にやる位なら大丈夫」って言われてたの覚えているのよ?今の貴女、色素なんてみんな失って真っ白じゃない!眼だってカラーコンタクトでしょ?」


やれやれ敵わないなと頭を振りコンタクトレンズを外す横浜の魔女。

コンタクトを外すと真っ赤な瞳が現れる。


「やっぱりだいぶ無理してたのね。でなければ私に助けを求めて来ないものね白龍は・・・色素を戻すのは無理だけど嫌、普通こんな若返りの魔法薬なんて不可能な存在だけど。蜜の腕輪の魔力と二度と手に入らないレベルの地獄の薬材が揃った今、貴女のやった魔法を三回掛ける多重掛けを最後に見せて」

「もう失う色素が無くて程ど掛けられないんだよ。

これ以上は無理だな」

「魔法が発動する手前までなら大丈夫でしょ?私と貴女で蜜の腕輪触れながら魔法の発動事態は蜜を通じてやるのそうすれば何とかなる。昔にやったアレの応用よ」

「戦争中に爆撃を受けた時に爆風の直撃を避けるのに二人でやったアレか?師匠の魔道具を触媒にして防御魔法を暴発させたやつか・・・最後にお蜜がズドンと精製魔法を掛けて魔法を解放する無茶苦茶な魔法の応用。そして多重掛けと精製に蜜ちゃんの腕輪の魔力を借りる。この方法で三重掛けすれば出来るな若返りの魔法薬が」


瓶の中に入っている薬を三十錠程紙の上に置き蜜の腕輪に触れながら薬に魔法を掛けと。


室内なのに青い稲妻が薬の置いてあるテーブルに落ちる。

稲妻の落ちる音もしない稲光も無い全てが”若返り魔法薬”に吸い込まれて行く。


青く光る'若返り魔法薬”の完成だ。


恐る恐る青く光る錠剤を手に取る横浜の魔女。

黒蜜おばばを見て頷くと薬を飲み込む。


パッと光が身体から放射されると。

27歳位で脂が乗り切っている事態の宝塚男役が立っていた。

長い白髪に赤い瞳の流し眼、真っ白い歯で長身。


「白龍、こっちの姿見で見てご覧。カッコイイよ物凄く」

姿見の前に立ち自分の姿を見て驚くが、すぐに流し眼の練習をし出す辺り普通の人間では考えられない神経をしている。


黒蜜おばばが勝手に人郎君のクローゼットを開け中から白いスーツの上下と白いワイシャツ、白いマフラーと白い靴を出してきてニコリと笑いながら姿見の前にいる白い麗人に差し出した。


それらを手に取ると着替えだす。


あっと言う間に男装の麗人”白龍”の出来上がりである。


長い白髪を靡かせ白いマフラーを首に掛けた姿はステージに立つ花組トップスター。

「お蜜!正に理想通りの姿になってるよ長年の夢が叶った!」

「白龍は昔から宝塚男役に憧れてたものね。戦争で入学試験受けられ無くて泣いてたものね」

「この薬はどれ位持つ?」

「私達みたいな高位の魔女だと自分の魔力が

無くなるまで、つまり死ぬまでね。戻ろうと思えば戻れるけど安定してから試してまた若返りたいなら薬を飲めば良い」

「そんな勿体無い二度と前には戻らないよ」


若返り薬を小瓶に詰めて買い物籠に入れる黒蜜おばば。

ラベルに

魔女 =寿命が尽きるまで。

一般人=3カ月間『魔力保有者はその魔力保有量による』。


「ねえ、白龍。せっかく貴女、理想の姿に変わったのだから歌でも出してみたら?きっと女性層に馬鹿売れするわよ。ついでに私と蜜も妹キャラで売り出そうかしら?」

姿見でポーズをキメていた横浜の魔女がクルクルと周り黒蜜おばばを拳銃で撃つ真似をしながら。

「それ!ナイスアイデア!私の患者で海外の大物アーティストがいるからその人に話しを持って行こう!」


スマホで黒蜜おばばと私、黒蜜おばばに男装の麗人姿を写真に撮らせメールで送っている。

大丈夫か?


待つことも無く返信が届く。

それを読んだ横浜の魔女。

「メールの写真見てプライベートジェットで羽田空港に飛んで来るって。ブラィアン」


ん?ブラィアンって聞いた事が・・・。


「白龍、そのブラィアンってもしかして・・・」

「そうアメリカのロックアーティストから映画監督になり昨年。世界中でヒットした恋愛映画の主題歌も歌ってたブラィアン監督よ。新しい映画用に新人女優を探していて、その女優に映画の中で主題歌を歌って貰おうと考えていたそうなの。そこへ三人もイメージにピッタリの写真が送られて来て驚いているですって」

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